第7話 じゃんけん大会
パート先からヒロセさんが姿を消して、穏やかな日常が戻って来た。
あれからウメもランチに誘ってこんようになった。そんなにひどい酔いかたをしたのやろか。酒癖は決して悪うないと、自分では思うとったのやけれど。
録画しておいた韓国ドラマを観ながら、乾燥機にかけておいた洗濯物をたたむ。
「あっ、あかん。銀行が閉まってまう」
いつものヴィトンのバッグをしっかりと斜めがけにして自転車に飛び乗った。
以前、肩にバッグをかけて歩いていると、うしろからバイクの排気音がずっとついて来るので、何や気色悪なってうしろを振り向くと、真うしろをノーヘルの2人乗りのバイクがついてきていた。驚いた事に、更にそのうしろをパトカーがついてきている。
ひったくりは現行犯でしか逮捕できない。その餌にされるところやったのやろか。2人組の少年たちより、その事のほうが怖かった。ひったくられるのを無理に防御して、ひっくり返って怪我でもしたらどないしてくれるん。
それ以来、バッグはたすき掛けにするようにしとる。
銀行に駆け込み用事をすませると、出入り口のシャッターが半分ほど下ろされていた。よくドラマでは、こういう時間帯に強奪犯が現れる。もし、機関銃を抱えた犯人が侵入してきたら一目散に走って、開いている向こうの扉まで逃げおおせることが出来るやろか。
無理やろな。撃ち殺されるか、人質に取られてまうか。
そんなしょうもないことを考えながら、ショッパーズに行くために商店街を抜けて行くことにした。いつの頃からか、商店街は自転車を押して歩く決まりになった。
この間ランチしたご飯屋さんの斜め向かいの空き店舗の入り口が、1箇所だけアーチ型にくり抜かれて、色とりどりの風船が飾り付けられている。中が見えないようにガラス窓には大きな模造紙が貼られ、じゃんけん大会と大きな字で書かれている。
こんな所で商店街主催の老人会でもやっているのやろか、横目に見ながら通り過ぎようとした。
「じゃんけん大会にお越しください。私とジャンケンするだけで、オーブントースターやポットなどの豪華景品が当たります。最後まで勝ち残ったかたには、温泉宿泊券を差し上げます」
メガホンを持った女の子が声を限りに叫んでいる。
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