第3話 オカンのランチ
「なあ、もう帰るん? ちょっとお茶行けへん」
振り返るとウメが立っていた。
「かめへんけど、ちょっと家に寄って財布取って来るわ」
「んじゃ、私も自転車取って来る」
家に戻るとトイレをすませ、居間のソファーに投げ出してあった、独身の頃、海外旅行先で購入したヴィトンのバッグに入れたカルチェの財布の中身を確かめた。
財布を落としたらあかん。バッグごと持って行こう。財布の中身より財布の方が高いときている。
「お待たせ-」
玄関の前にカメとシーちゃんもいた。
「通りかかったから誘ってん」
ウメが続けて言った。
「商店街に新しいご飯屋さんが出来てん、ちょっと行ってみいひん」
やっぱお茶だけやなかった。
おばちゃん集団はうしろから来る車に、何度もクラクションを鳴らされながら商店街に辿り着いた。
シーちゃんはまだ新婚さんで、おばちゃんたちの仲間に入らんでもええのに付き合いがよかった。
商店街の中ほどに、長い事シャッターを下ろしていたお茶屋さんが小洒落たご飯屋さんに代わっていた。
店の前には開店祝いのフラワーポットに花が投げ入れられている。
ウメは案内を請うこともなく、永年の常連客のように店の奥を指差した。
「奥の席かめへん」
銀色のトレイを持った若い店員は気圧され、たじろいでいるようだった。
「ええ、どうぞ」
ウメは長居する気まんまんなのやろ。
真ん中の通路を行くと、両サイドのテーブルから先客が顔を見上げてくる。
そんなにおばちゃん集団が珍しいん?
奥の席に座を占めるなりウメが言った。
「ヒロセさん、どない思う」
やっぱりその話か。
「それより先に注文しようか」
メニューを拡げテーブルの真ん中に置いた。
いっせいにメニューを覗き込み、
「あっ、これいいな、これも美味しそう」
なかなか決まりそうもなかった。
「注文が決まったら呼びますね」
銀色のトレイを持ってテーブルの傍らで佇む女性店員に言った。
立ち上がり、隣の空いたテーブルからメニューを借りる。
最近、小さな文字が見えへんようになってきた。
「おっ、これええやん、本日のランチ、
「どれどれ」
ウメが身を乗り出してきた。
「あんたのところにもメニュー置いてあるやろ」
「ああ、そうやった、ほんで、これって何なん」
「鶏の唐揚げや」
ナオの弁当のおかずと一緒やん。
「あんた、よう知っとうね」
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