ワイングラスに血液を

水無月 陽

第2話 ハンター達

「へっくしゅんっ!」

にのつぎは自分のくしゃみで目が覚めた。

「寒っ…」

 冬の冷気を肌でひしひしと肌で感じながら、体を起こした。眼前には冬の突き抜けるような高い空が広がっている…つまり屋外だ。

「そりゃ、寒いな」

 もし、ここまで自分で歩いてきたのなら夢遊病者だ、今日中に精神科医に行かないとな。とりあえず、屋上から家に戻ろうとし扉を開けようとして立ち上がった。

「あー、さっさと帰らないとな」

 屋上のドアに手をかけたとき、異様に膨らんだボストンバッグが屋上の隅に置かれている事に気がついた。

 何だこれ、と思い屋上の隅に近づいてみるとやけに見覚えのある眼帯がバッグの上に置いてあった。

「……ぁ、赤桐先輩、」

 昨日の事は遠い昔に起こったことのようにしか思い出せないが、赤桐先輩の事だけは鮮明に思い出された。

 赤桐先輩はどうなったんだ!?

朝日が照らす屋上を見回ったが先輩は居ない。

「下の教室にいるのか?」

 屋上のドアノブに手をかけ、ドアを開けようとするとドアが蝶番ちょうつがいごと外れた。

「うわっ、やば」

この校舎こんなにボロかったかな?

 扉が壊れた事は深く気にせず早足で階段を降り、4階の廊下に出た瞬間、にのつぎは違和感を感じた。

 割れた窓ガラス、まるで血のように見えるシミがついた廊下の壁、ところどころ割れている廊下、そして教室にはどの教室も机はぐっちゃぐっちゃで何かの黒いシミにハエがたかっている。

「…何があったんだ?」

 黒板には名前が書かれていた。殆どバッテンがついている。自然と足が3階に向かっていた。この荒廃した校舎の3階にある3ーAを目指す。いつも使っている方の階段は天井から落ちたと思われる瓦礫で埋まっていて行けそうにない。

「本当に…何が……」

非常扉から、出ようとして気づいた。

「ロックが壊されてる」

 つまり、学校から逃げ出さないといけない非常事態が起こったということだ。さっきの黒いシミは…血?としたら不審者が生徒を殺したとか…なら、先輩は?嫌な予想があたまに浮かんだ。

非常扉から出ると、非常階段を下がり非常扉を開けた。 

「3階のロックも壊されている…」

 廊下に入ると、手前に方あった3ーAに入った。

何故か、少しきな臭い。

「うわ」

ここも他の教室に似たり寄ったりの状態だった。しかし、黒板に書かれた生徒の名前の上から赤黒い文字が書かれてあった。

「鞄を見て…?」

 先輩からのメッセージだろうか、それとも誰か別の人か?鞄は多分、屋上にあったあの異様に膨らんだボストンバッグのことだろうな

 赤黒い文字を手で擦ってみると、ポロポロと崩れた。どうやらかなり時間が経っているらしい、

「一度、屋上に戻ってみるか、それともこのまま校舎の探索を続けるか…」

 独り言を呟きながら、教室を出ると廊下の左の方から何かが迫る気配を感じた。

 いやな予感がする。

 外に出るために非常扉を押し開け外に出ようとした

 本能のまま、反射的に階段を駆け上った。

後ろを振り向いてみると、今まで自分がいた所に綱引きで使う様な縄みたいなものが柵に張り付いている。

「……え。」

 明らかに異様で危険だ、危険を感じにのつぎは一歩下がった。薄暗い校舎内からどす黒くて巨大な節足動物の様な毛むくじゃらの脚が見えた。

何だ?あれは何なんだ?

混乱するにのつぎを待たずに巨大な節足動物のおぞましい身体が徐々に朝日に晒されていく。

 遂にその怪物の濁った赤い貪欲な八つの単眼がにのつぎを捉えた。

 にのつぎは恐怖で心臓がバクバク言っているのを、無視して現状を理解しようとしていた。

にのつぎの視線は怪物の貪欲な視線と交差して…怪物が八つある毛むくじゃらの脚を一つ前に出した。

 理解できない、理解できない、理解でき…

『理解するだけ無駄…』涼やかな先輩の声が脳内に蘇った。

一瞬でにのつぎは落ち着いた、

『この世界で生き残るには、』

先輩との記憶はまだ再生されている。

『殺される前に殺ること』

「殺られる前に殺すだけだ!」

次の瞬間、この怪物に接近されて食われてしまうだろう、なら……予備動作も何もなしににのつぎは飛び上がった。

垂直飛びで約5メートル、その人間離れしたにのつぎの脚力は彼の狂わしいほどの紅い瞳が全てを物語っていた。


 蜘蛛の怪物は今までそこにいた餌が、一瞬で消えたことに混乱していた。

そんな、愚鈍な蜘蛛の怪物に容赦のない踵下ろしか繰り出される、硬いはずの蜘蛛の外骨格はいとも簡単に粉砕され蜘蛛の怪物はただの一撃によって絶命した。

「…とりあえず、鞄の中身を確認したしないと」

 絶命した蜘蛛の怪物の死体をにのつぎはチラッと見ると非常階段を登り、校舎内に戻って階段を上がり屋上に出た。

にのつぎは異様に膨らんだボストンバックの少し洒落た金具を外し、バッグを開けた。


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 にのつぎは左手に手書きの地図を持ち、肩からは異様なくらい膨らんだボストンバックをかけて街中を歩き回っていた。

「え、コレって、このコンビニの事だよね?」

そして、どうしようも無いほど迷っていた。

 まぁ、ほとんどの目印がコンビニという手書きの地図にも原因があるが…

 グゥーーー

さっきから、お腹が鳴って仕方ない。

「はぁ、お腹減った。」

取り敢えず何か買おうと思ってコンビニに入ろうとした。

「あれ、開かない」

コンビニの自動ドアが開かないのだ、仕方ないので手動でコンビニの自動ドアを手動で開けた。

「手動ドア、変な店もあるんだな」

何もよく考えずに中に入ったせいで、にのつぎはよく見たらわかる情報、、例えば、コンビニなのに電気がついていない、人が一人もいない、コンビニのドアが手動なわけがない、を無視したため非常にショッキングなものを見る事となった。

「あれ、店員さんがいなっっ…」

 お金を入れるはずのよくある青シートに、お金の代わりに人の手が置いてあった。

「…本当に何があったんだ?」

 街中を歩いても人っ子一人も見ないし電車が動いてる気配もない、まるで世界が停止したのかの様だった。

「…すいません、非常時なので」

 にのつぎはもう死んだ誰かに謝ると、おにぎりのコーナーでおにぎりを取った。

「…変なにおいがする」

 どうやら冬なのにもう、腐っているらしい、仕方なく大好きなシャケおにぎりを元の場所に戻すと、もう冷蔵庫としては機能を果たしていないドリンクコーナーから午後ティーの微糖とミルクティーを取り出しボストンバックに入れ、スナック菓子のコーナーからのり塩味とワサビ味のポテチもボストンバックに入れた。

「お邪魔しましたー」

 何となく、挨拶をしてコンビニから出ると太陽を見た。太陽は既に西に傾いている。

「早く見つけないと…」

 先輩のコンビニだらけの手書き地図には蛍光ペンの上から赤文字でと書かれてあるのだ。

 そこから約1時間…

もう太陽は少し橙色になりかけていて、アスファルトには長く伸びた影が写っていた。

「あ、あ、あった!」

 やけにポップな赤文字でゴールと書かれた場所に着いたのだ。

 食べ切ったのり塩の袋を畳んで綺麗に折り畳むとバッグの中に入れ、ポテチの油で汚れない様に細心の注意を払った先輩の手書き地図はポテチを食べるときに使った右手の油を綺麗に制服で拭き取るとこちらも丁寧に畳んで制服の胸ポケットに入れた。

 地下コンサートの会場にも見える地下に続く階段は降りた。唯一違う点は、入り口に鈍く光る十字架が掲げてられている所だ。

 ゴール、それはヴァンパイアハンターの拠点、先輩の地図にはトーチカと書かれていた。しばらく階段を降りていると、入り口が見えた。

 さて、ここで問題だ、実は自分は若干コミュ障だということだ。初対面の人に会う時はまず元気よく挨拶して、良い第一印象を相手に与えると、どこかのテレビでやっていた気がする。

「いや、勢いが大事、うん、いける、いける、死にはしないし」

 深呼吸して、ドアノブに手をかけドアが吹っ飛ばないくらいの力で一気に開けた。

「こんにちは!!」

 ドアを開けた瞬間、死の予感を察知して、にのつぎの動体視力が極限にまで高められた。にのつぎの目は、こちらに真っ直ぐ飛んでくる銀色の弾を捉えていた。

「うっわ!」

 にのつぎは無理矢理のけぞって、ぎりぎり避けた。

「こんにちは!征服者さん!」

 その隙を逃さまいとする様に、赤い服を着た大柄の女が明らかにヤバそうな銀色に光る鉈を振りかぶっている。

 死にはしないしって、、、どこが!?

にのつぎは地面に転がり、銀の鉈の攻撃を避けると、次はこちらの頭を狙った先程とは明らかに威力もスピードも違う銀の弾が飛んできていた。

「うわぁっ!」

 必死に手を払うと、運良く手が銀の弾に当たった感触がした。手の甲がジュッといやな音を立てたが生きているなら万々歳だ。

後ろから、鉈が迫る気配がした。

悲鳴をあげる余裕もなく不安定な姿勢から前に飛んでギリギリ交わした。

 その時、白衣を着た小学生くらいの子がいるのが見えた。

 脳に電流が走る。

あの子、人質に取れば死ななくても済むんじゃ…クズな考えだが、今は緊急事態なんだ、許してくれるさ、赤桐先輩も

 部屋の奥からたまにくる精密射撃を紙一重でギリギリかわしながら、銀の鉈を振り回す赤い女の攻撃を避け攻撃の隙間を縫って、その小学生に近づくことに成功した。直ぐに首に腕を回し、いつでも首をへし折ることができることを見せつけた。

「そ、そ、れい、じょう、、攻撃したらこの子の首をへし折るぞ」

 自分がクズすぎる、いや、しかし仕方ないことなんだよ、だってこのままだと自分は死んでしまう。

チラッと首に腕を回した小学生の顔をみる。その時、濃密な殺気を感じた.

「っ!!」

 すらりと美しい日本刀を抜き払って、自分のことを切り捨てようとしている白髪の爺さんを極限まで高められたにのつぎの動体視力が捉えた。

しかし、見ていることしかできない、そう、人質が仇になったのだ。

ここをもしにのつぎが離れてしまうとこの小学生は斬られてしまうだろう。

 悪い事はするもんじゃ無いな

せめて、この小学生が間違えて斬られないように小学生の盾となるように首に掛けている手とは別の手でぎゅっと抱きしめて白髪の爺さんとは逆の方向に向けた。

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日曜の午前11時投稿です(^^)

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