1DKで心中を

角霧きのこ

1

 呼び鈴の音が家に響いた。

「あ、来た来た」

 玄関まで小走りに駆けていって、ドアを開ける。そこには見知った女の子が一人、立っていた。

「こーんばんはっ」

 明るい声音で笑いかけてくる彼女は、梨々香。白いレースのワンピースに身を包み、愛用のピンクのリュックを背負っている。目元にはきらきら輝くピンクのアイシャドウ。うん、やっぱり今日も可愛い。

「待ってたよ。ほら、上がって上がって!」

「わーい、お邪魔します」

 梨々香が家の中に入ってから、ドアを押さえていた手を離す。彼女はこっちに顔を向けながら、左手に持ったエコバッグを持ち上げてみせた。

「いっぱい買ってきたよ、お酒とおつまみ」

「さすが梨々香、ナイス〜。あたしも色々用意しといたから」

 キッチンを二人で横切っていく。そんなに大きくないアパートの、狭いキッチン。ほとんどのスペースを食器棚と洗濯機と冷蔵庫に取られていて、シンクは洗面台の役割を兼ねてる。でも一人で暮らすにはこれくらいで事足りる。このキッチンの向こう側に、リビング兼あたしの部屋がある。

 夜になってからこの部屋に人を招いたのは初めてだけど、彼女が家に来るのは初めてじゃない。もう、これで……何回目だろう? 大学に入ってから知り合ったという事実が不思議に思えてくるくらい、あたしたちは一緒に過ごしている。

「てか、結衣! 今日すっごく可愛いね!」

 部屋のテーブルにエコバッグを置くが早いか、梨々香はあたしのほうにばっと向き直った。

「え……ほ、ほんと?」

「結衣っていつもシンプルな服着てるじゃん、だからそういう可愛い服着てるの初めて見た」

 なんだか気恥ずかしくなって、スカートの裾をいじる。そう、普段のあたしならこういう服は絶対に着ない。セーラー襟の縁にフリルがあしらわれた、薄紫色の膝丈ワンピース。胸元には編み上げリボンとかもついてて、いかにも女の子の服ってかんじ。しかも今日のあたしは珍しくメイクまでしてる。

「あー……ほら、梨々香ってこういう可愛い服好きじゃん」

「うん、好き!」

「だから、なんていうか……次、梨々香と遊ぶときは絶対これ着ようと思って、買っといた服なの」

 ぱっと梨々香の顔が輝いて、勢いよく抱きつかれる。

「嬉しい〜っ! 超似合ってるよ、結衣!」

「あはは、ありがと。梨々香も今日の服似合ってるよ」

「ありがと〜っ」

 至近距離だと、ふんわりと梨々香が纏う香水の匂いがする。お菓子みたいな甘い香り。それと離れるのはちょっと名残惜しかったけど、今夜のあたしたちにはやることがある。体を離して、あたしより少し低い位置にある瞳を見つめた。

「じゃあ、始めますか、晩酌!」

「うん! 何から飲もっか!」

 梨々香はにこにこしながら、テーブルの近くにあるミニソファに座った。エコバッグからはお酒の缶が次々取り出されていく。今日の晩酌は長くなりそうだ。

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