第12話 市場デート?
市場はまだ賑わっている。
いつもは売りに来るばかりだからこうやって見て回るのは初めてで新鮮な気持ち…と、共に凄くどきどきが止まらない。
コルネさんと繋いでる手が熱い気がする…。
手汗大丈夫かな…。
コルネさんはあんまり気にしてないみたいで、きっとコルネさんからしたら私は妹みたいな感じなのかも…。
「手作りのお菓子だって」
「えっ、あ、うん、美味しそう、だね」
緊張しててそれどころじゃない…!
確かに甘い匂いはしてくる。自由市場には食べ物もたくさん売っているからだ。
「…、アクセサリーとか食器とか…ほんとに色々売ってるんだね」
「結構自分で育てた野菜とか果物を安値で売ってて…結構便利だよ」
直行でそこばかり行ってたからそれくらいしか知らないけど。
生活必需品を買うには結構庶民に優しい場所。
いや、私は庶民ではないのだけど、今となっては似たようなものだ。
私が居なくなってウチはどうなってるかな、私の引き寄せた魔物の瘴気の影響で随分迷惑をかけてしまった。
「夕飯のお買い物も済ませてく?」
「あ、それがいいかも…」
すると、コルネさんが急に足を止めた。
「あ、ねえ、エルちゃん。あの髪飾り可愛いね」
コルネさんが指差した髪飾りは銀色のバレッタだった。羽のモチーフで確かに可愛らしい。
「え、あ、うん、そうだね…?」
「すみません、これください」
「はい」
コルネさんが髪飾りを指差すと、店員さんがお買い上げありがとうございますと言いながら髪飾りをコルネさんに手渡す。
「えっ、あの、コルネさん…?」
私があわあわしている間にコルネさんは店員さんにお金を渡して、髪飾りを買ってしまった。
また妹さんにプレゼント?
そう思ったらすっと私の頭に手が伸びてきた。
パチンと音がして、コルネさんが髪飾りを私につけたのだとすぐにわかった。
「ほら、可愛い。似合うよ」
優しく微笑むコルネさん。彼の後ろにある夕焼けが目に沁みた。
「えっ!?これ私に……?」
「うん?そうだよ」
なんでもないようにコルネさんは答える。
「え、でもそんな、貰えないよ」
「うん、でももう買っちゃったから受け取って?」
「…ず、…ずるい…」
コルネさんは優しいタレ目を眩しそうに細めながらクスクス笑っている。
本当にずるい。コルネさんってずるい。
もう、笑いごとじゃないって……!
「エルちゃん服作ったりぬいぐるみ作ったりするけど生活の為でエルちゃん自身は同じような服とか髪飾りをしてるから…、せっかくエルちゃんかわいいからおしゃれしてほしくて…あげたくなったんだ。…それに、銀は魔除けだから、これは本物じゃないから効果はないけど、おまじない」
慈しむように優しく微笑むコルネさんに胸がきゅうっとなった。
こんな小さなバレッタに私のことを色々考えてくれているの詰まっている、それが嬉しかった。
「そっ………、そういうこと、あんまり女の子にしない方がいいよ…?」
でもコルネさんの優しさはきっと誰にでも分け与えられるものだ。
そう思うと、つい、そう口に出していた。
「?どうして」
「その、コルネさんに優しくされたらみんな好きになっちゃうよ…」
「………」
コルネさんが目を丸くしている。
あれ、私変なこと言ったかな……?
だって、コルネさんみたいな素敵な人にこうやって優しくされたらみんな好きになるに決まってる。
「エルちゃんは僕のこと、好きになった?」
コルネさんが私を覗きこむ。顔が近くて、なんかブワッと顔に熱が集中する感じがした。
「なってない!なってないよ!!でも普通はそうかなって意味で…!」
「そっか。じゃあエルちゃん以外にはやらないように気をつけるね」
出来れば私にもやめて欲しい!!
なんでそんな悪気の全くない、屈託のない笑顔を私に向けてくるの…!?すごくすごく心臓に悪い。
でもやめてって言っても聞いてくれないんだろうし、もし頼んでもわかったって言いつつ次の日にはまた心臓に悪いことしてきそう。
コルネさんは私を見てクスッと笑うと、早く行こうと言って、手を引いた。
★
「だいたい見て回ったかな。野菜買って帰ろうか」
「あ、うん…晩御飯はミネストローネとパンにしようかな…?」
「いいね、それ」
私も何とか落ち着いて、二人で話しながら野菜売り場の方に向かっていると、見覚えのある顔が見えた。
「あれ、コルネ先輩にお姉さん。何してるんですか?」
「あれ?エリックくん…エリックくんこそ何を…」
コルネさんが言いかけたとき、ハッとした。私もそれを見てなんとなく気づく。
エリックくん、両手に大量の食べ物を持ってて紙袋までをもぶら下げてる。
なんか自由市場めちゃくちゃエンジョイしてる…!!!!
「あ、いや、こ、これは違うんです!ちょうど今帰りで!!!美味しそうな匂いにつられてついでに色々売ってたからつい!」
何が違うのか…。そもそも祓魔師の制服で買い食いしてて大丈夫なのかな…?
「トイくん晩御飯食べれなくなるからこんな時間に間食しちゃダメだよ!」
あ、そこなんだ…?
制服での買い食いは特に問題ではないらしい。
「あう…すみません、晩御飯もちゃんと食べます…」
「もう…、気をつけてね、育ち盛りだからお腹空くのは仕方ないけど…」
コルネさん、お母さんか…?
「気をつけます…ところで先輩たちは……あ!!何で手を繋いでるんですか!?」
はっ、そういえば繋いでた…!
慌てて離そうと手を引っ込めるけど、コルネさんの手は離れなかった。
エリックくんに見られたショックで羞恥心が蘇る。
「何でそんなラブラブに…!?一日で何が…!???」
「何もないよ。人が多いからはぐれないようにしてるだけ」
「う、嘘だ!!!お邪魔してすみませんでした!!!!!」
「あ、まって、一緒に帰ろう…」
コルネさんが言いかけたけれどエリックくんはダッシュで去ってしまった。いっぱい荷物持ってたけれどはやい。
変なところで力持ちだし、やっぱり男の子なんだなと思ってしまった。
「ああ、行っちゃった」
「し、仕方ないね…」
誤解は後で解こう………。
というか離そうとしたとき離してくれれば良かったのに。
ちょっと恨みの篭った視線をコルネさんに向けると、コルネさんは不思議そうに微笑んだ。
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