第9話 収入源
「街に行きたい?」
「う、うん」
みんなが出かけたあと、私はコルネさんに話があるといって声をかけた。
断られたらどうしようかと妙に緊張する。
「どうして?」
コルネさんは首を傾げる。私は上手く説得しないと、と息を吸った。
「あのね、街で毎週一回広場が自由市場になるんだけれど、私もいつもそこで物を売ってそのお金で生活してるの。お花とか、洋服とかぬいぐるみとか」
「洋服とかぬいぐるみ?もしかしてエルちゃんが作ったの?」
コルネさんが目をぱちくりさせる。
「う、うん」
「そうなの?すごい。見てみたいなあ」
予想外の言葉にびっくりした。コルネさんがキラキラした目で私を見る。
そんな期待されたらなんだか恥ずかしい。
「も、持ってくる」
私はばたばたと急いで部屋から売り物を引っ張り出してきて、綺麗に机に広げた。
袋に入っていたものを並べたのだ。
「すごいプロ並みだね!」
「え、そ、そこまでじゃないよ…?」
「ぬいぐるみとかすごく可愛いよ?」
コルネさんがくまのぬいぐるみを手に取る。
褒められると素直に嬉しい…。
コルネさんはぬいぐるみをしげしげと見つめている。本当にプロじゃないから恥ずかしいけど。
「妹もね、可愛いもの好きなんだ」
「コルネさん妹がいるの?」
私は妹というワードに私はぴくりと反応した。たしかにコルネさんはお兄ちゃんっぽい。
「うん、二つ下のね。妹も祓魔師育成学校に通ってるよ」
「そうなんだ。確かにコルネさんお兄ちゃん力が高いよね」
「お兄ちゃん力ってなぁに」
ふふっとコルネさんが笑う。お兄ちゃん力とはお兄ちゃんパワーである。つまりそのまま。
「このくまのぬいぐるみ、僕が買ってもいい?妹にあげたいんだ」
「え、あ、も、もちろん…!」
そんなに気に入ってもらえたんだ。嬉しい。
妹さんも喜んでくれるといいけれど、どうかなぁ。
「自由市場だっけ。いいよ。一緒に行こうか。お花は…庭に生えてるやつ?」
「うん、私の故郷のお花なの。この辺にはあんまりないよね」
家の庭には白い花が沢山生えている。
珍しくて他で見たことがない花だけど、エリー草と言って私の名前に似てるからってお父さんはすごく気に入って実家の庭にも植えていた。
だから一人暮らしする時に株分けしてくれたのだ。
「たしかに綺麗だけど初めて見るお花かも。じゃあ摘むの手伝うよ」
「ありがとう、コルネさん」
「気にしないで」
優しく微笑むコルネさんを見て、優しいなあ…としみじみ思う。
「いくら狙われてるからって引きこもってたら健康に良くないからね。なんであれ出かけるのはいいことだから遠慮しなくていいよ」
「…、うん」
コルネさんはエスパーなんだろうか?
断られるかもと気にしていたことまでどうやら見抜かれていたらしい。
それに気づいて気を遣ってくれるなんて。
「ねえ、もしまたぬいぐるみとか作るなら僕にも手伝わせて欲しいな」
「え、流石にそこまでは…」
「教えて欲しいんだ。ぬいぐるみの作り方。それに裁縫も僕少しは得意だし、力になれるよ。しばらくお世話になるわけだし……、お願い。ダメかな?」
そういう風に言われたら断れないよ…。コルネさんってほんとずるい。お願い、なんて。
私に負担をかけないように自分がそうしたいって主張してくれているんだ。
「ダメじゃないよ…」
私がそう言うとコルネさんはぱあっと嬉しそうな顔になった。なんだかかわいい。
「ふふ、よかった!ありがとう」
お礼を言うのは私のほうなのに…。
でもコルネさんの嬉しそうな顔を見てると申し訳なさよりも、私も嬉しくなってきた。
「そういえば、コルネさんたちはお金はどうしてるの?」
「学校からの支給だよ。正しくは家族から学校を通して生活費が来てるだけだけどね。一応授業の一環だからってことで」
「…そうなんだ」
そういえば授業の一環というていなんだった…!
そりゃあ学校から支援があるよね。考えが至らなかった自分が恥ずかしい。
「だから金銭面で面倒かけることはないよ、安心して」
コルネさんがニコッと笑って私の頭を撫でる。まるで弟や妹にするような優しい手つきだ。
思わずコルネさんを見上げると目が合った。
「ね?」
微笑みかけてくるコルネさん。思わずドキドキしてしまう…。
仕草や笑顔までもすごい優しくて大人っぽい。
思わず目を逸らして俯いてしまう。
「あ、あの、その面倒とかじゃなくて、もし自分たちでなんとかしなきゃなんないなら力になりたいなって思ったから」
「優しいね、エルちゃん」
優しいのはそっちです!!!!
そう叫びそうになるのを頑張って抑えた。
「自由市場って何時から?」
「あ、午後から解放されるよ」
「じゃあ午前中にお花摘んで荷物を纏めないとね、お昼はせっかくだから街でとろっか。いい?」
「うん、大丈夫だよ」
毎回一人で行ってたから誰かと一緒に行くなんて初めてだ。
なんか、嬉しいな…。
お昼も一緒に食べて……、ってなんかこれ、デートみたい?
コルネさんを再びちらっと見るとまた優しく微笑まれる。
思わず意識したことが恥ずかしくてまた目を逸らしてしまった。
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