第1章 はじまり
第1話 好転
「ごめんね、いきなり押しかけたり部屋を壊したりして……」
茶髪の人…コルネさんが申し訳なさそうに言う。
話を聞くためにとりあえず4人を座らせてお茶を出していた。
「…まあ、直して貰ったので」
私は部屋を見渡す。
めちゃくちゃだった部屋はきれいに元どおりになっていた。
一番小さい子…プラチナブロンドのエリックさんが魔法で元どおりに戻してくれた。
魔法なんて初めて見た。
「トイくんがいてよかったよ…魔術師は君だけだし……」
「まあ壊したのも僕ですけどねえ〜」
エリックさんは頭を掻いてあははーと笑う。
「ああ、そうだ。改めて自己紹介させて?僕はコルネット・クラーク。気軽にコルネって読んでくれると嬉しいな」
コルネさんが私に微笑みかける。
綺麗な笑みだから少しだけどきっとした。
「はい!僕はエリック・トイですっ!よろしくおねがいしますね!お姉さん♡」
ぎゅっとエリックさんが私の手を握る。
「ん?何で手を握られてるのかな…」
「ああ、すみません」
エリックさんが手を離す。びっくりした。
「ああ、で、こっちの二人が…」
「ギン・カガリだ。好きに呼ぶといい」
黒髪の子だ。口調も突き放すような冷たい感じがする。
すると、金髪八重歯の子が立ち上がった。
椅子の上に。
「そしてこの俺様が!!エドガー・モーリー・サリヴァン様だっ!この俺様が貴様のような愚民を守ってやるんだ!ありがたく思えよ!」
「うるさい」
「なっ」
ギンさん、ズバッと言った…。
「ってサリヴァン…?聞いたことあるような…?」
「サリヴァン家は
そうだ。
サリヴァー教。この国最大の宗教であり国教。
昔、クロード・ルイス・サリヴァンという男がいた。
彼は神と同等の力を持っていて、当時猛威を奮っていた悪魔を封じたらしい。大昔の話だけれど、その時、国は滅亡の一歩手前だったとか…。
そんな彼を崇める信者がたくさん現れて、彼に力を与えた神を信仰する人が増えた。
それで人々に頼み込まれて教祖としてクロードが国民の拠り所に教会を作った。
たしかそれが始まり。
そして、魔物がたくさん国に残ってしまったこともあって、魔を祓う祓魔師…いわゆるエクソシストという職業が生まれた。
祓魔師は信仰することで神から聖なる力を与えられた教会の人間がなれるらしく、今では祓魔師の学校まである。
「ってことは、貴方はクロード・ルイス・サリヴァンの子孫…?」
私は目を丸くしてエドガーさんを見た。
「そうだ」
「えっ、なんでそんなすごい人が…」
「すごいだろ!!!!!」
エドガーさんは椅子の上で胸を張ってドヤ顔をしている。ちょっと危ない。
「エドガー…座りなよ…」
「む、悪い」
コルネさんが嗜めるとエドガーさんは大人しく座った。
「僕達はね、君を助けるために来たんだ」
コルネさんは私の目をじっと見つめた。
「助ける…?」
「匿名の依頼が入ったんです。僕達のいる国立祓魔師育成学校に…『この丘に悪魔に呪いをかけられた少女がいる。大事な人だ。時間が残されてないから彼女を悪魔から助けて欲しい』って」
私が首を傾げるとエリックさんが説明してくれた。
きっとお父さまだ…。
「育成学校って言ってもたびたび依頼が入るんだよね。実戦授業みたいなものだからお金も取らないし…。だからこそ連絡が来たのかな。悪魔退治っていうのは初めてだから校長も悩んだみたいだけど…。学校でも成績が良い僕達が授業の一環として派遣されたんだ」
「そう、なんですか……」
私は視線を落とす。
今回はもう祓魔師を雇おうにも難しくて苦肉の策だったんだろう。
「悪魔が来るまでここで君と一緒に僕達は暮らすことになるけれど…」
「豚小屋みたいだがまあ仕方ないな」
コルネさんの言葉にエドガーさんがふんと鼻を鳴らした。
エドガー!とコルネさんがエドガーさんを肘でつつく。
一緒に暮らす…?
「細かい詳しい事情とか、悪魔が来るって時期は聞いてないんだ。君にも分からないかもだけど、学校にも報告したいし詳しい事情を教えて欲しいんだけど…」
「だ、ダメです!!!!」
私はコルネさんの言葉を遮った。
だめだ。
だって私は一人でいないといけない。
これ以上他人に迷惑かけるわけにはいかない。
それにこの悪魔は呪いが強い、きっとすごく強い悪魔だ。もしかしたら祓魔師の人でも死んでしまうかも……。
今までだって、何度か祓魔師の人に頼んでも呪いは解けなかった。
悪魔本体をどうにかしないと無理だって。
悪魔をどうにかするなんて出来るわけない…
たとえあのクロードの子孫でも……
「四人の男と一緒に住めなんて不安だろうし嫌だろうけど僕達何もしないし…」
コルネさん困った顔をしてる。
当たり前だ今のじゃそういう解釈される。
「そ、そうじゃないんです。その、私、今まで私の呪いのせいで、家族や友達に迷惑をかけたりたくさん不幸にさせたから……、私、もういいんです。私の問題だから自分でなんとかします…。あなたたちにまで迷惑かけたくない…」
「迷惑なんて……」
「…勘違いするな。これは俺達が依頼された仕事。君のために君を守るわけじゃない。これは仕事、ただの授業の一環だからな」
「カガリくん、そんな言い方しないの」
ずっと黙っていたギンさんが喋ったかと思ったら、それにすかさずコルネさんがフォローを入れる。
コルネさんはみんなの宥め役みたい…。
「つーか、迷惑ってなんだよ?」
エドガーさんは不機嫌そうになってしまった。
「わ、私といたら、魔物がたくさんくるから……」
「はあ?魔物のごときに俺が屈するわけないだろ!俺が負けるとでも思ってるのか。生意気なやつだな!ちょちょいのちょいだぞ!」
そういうことじゃないんだけど。
ぎゅっ。何故か再びエリックさんが私の手を握る。
「あの、エリックさん…?」
「エリックさんなんてやめてください!敬語もいいです!」
「えっ、あ、う、うん」
「大丈夫ですよ。お姉さん。僕優秀ですからね!お姉さんらっきぃですよ!他の三人なんて要らないぐらいです!心配する必要なんてないんですよ?」
にっこりと可愛い笑みをこちらに向けるエリックさ…くん。
「なんだ魔術師風情が!」
エドガーさんがエリックさんを向いて立ち上がった。
それを見てコルネさんが頭を抱える。
「ああ、もう、エド。いちいち立ち上がるのやめてよ」
「うるせえですね」
エリックくんの舌打ちが聞こえた。
エドガーさんを見ながら不愉快そうな顔をしている。
何だか態度の差が激しいような…。
良く考えたらエリックくんとエドガーさんとギンさんはなんだか仲が悪そうだ…。
エリックくんが私の手を離すと同時にコルネさんが再び口を開いた。
「まあ、とにかく…トイくんもカガリくんもエドも腕は優秀だから…僕が保証するよ。大人の祓魔師にだって負けず劣らずだし、授業が最悪一年遅れたって全然大丈夫だし…」
コルネさんは立ち上がると私に近づく。
そして私の側に跪くと、私の片手を取った。
「僕は少なくとも、君を守りたいから今ここにいるよ。僕達四人に君を守る騎士としてここにいさせてほしい。お願い。僕たちは君を害さないと誓おう」
ずるい。
そんな下からお願いされたら断ることなんて到底出来ない。
それに、私だって本当は死にたくない。
「……わかりました」
「良かった!ありがとう!」
私がお礼を言うべきなにお礼を言われてしまった。
「おいコルネ!何だそれは!なんかヤラシーぞ!!!!」
エドガーさんがコルネさんを指さす。
私に対してコルネさんが跪いて手を取ってることについて言っているらしい。
「ああ、ごめん」
コルネさんが離れると今度はエリックくんがため息をついた。
「ホント、無自覚タラシなんですから……」
何だか個性的な人が集まってしまった。
私が今日の朝感じていたこれからどうなるのかという不安はあっという間に違う意味に変わってしまった。
これから、どうなるんだろう。
ずっと静かだったこの家に人の声が響くなんて初めてのことで、私はなんだかすごくむず痒いきもちになっていた。
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