『くまの鈴』

やましん(テンパー)

『くまの鈴』 1

 『このおはなしは、フィクションです。この世とは、一切、無関係です。』




 いまから、3000年ほど前のこと、長い地球の歴史のなかで、恐竜さんに次いで、地球を支配した人類は、しかし、恐竜さんの長い支配期間には、はるかに及ばずに、しかも、わけが分からないうちに、すでに滅亡したあとのことです。


 その後は、たくさんの、生き物たちが、知能を急速に高めて、連合して、地球を支配していました。


 とくに、熊属の進歩が、驚異的だったのです、


 やがて、『暴れくま』、と呼ばれる、『くま共和国』、大総督うーさんが、文字通り、暴れまわり、地球の大部分を、征服していました。


 しかし、いつの間にか、やり過ぎるようになり、どこかで、後戻りできなくなり、ついに、あと少しで、またまた地球を壊してしまいそうになりました。


 人類の二の舞は、多く生き物たちは、当然、いやでした。


 しかし、うーさんの力は強く、誰も逆らえなかったのです。



 やむなく地下にもぐった、反体制派の、おおかみさんや、やまいぬさんや、ナウマン像さんや、さらに、たくさんの生き物さんたちが話し合いました。


 『あの、暴れくまの頭に、『きんこじ』、を付けてしまえば、大人しくさせられる。』と、たいへんに偉いらしい、謎のお坊さんが、言うのです。お坊さんは、もしかしたら、生き残りの人類かもしれない、とも言われました。


 そのお坊さんは、ウラデミル、と名乗り、絶海の孤島に住んでいて、誰も近寄れないとされました。

 

 じゃ、なんで、そんなグッズを届けられたのかというと、まさに、人類がかつて作った空飛ぶ船を持っているからなのです。


 でも、その本当の姿は、実は分かりません。


 変装していたからです。


 生き物たちにも、擬態するものがあるので、それだけで、人類の生き残りとは言い切れません。


 ウラデミル師が持ってきたのが、『きんこじ』でした。


 『きんこじ』というものは、古い古い、人類の伝説の宝物で、『孫悟空』という、やがて、神様としても知られるようになるのですが、ある岩猿さんが、やがて三蔵法師さんとともに旅に出るにあたり、頭に乗せていたことで知られます。


 孫悟空さまは、成長した後、暴れまわって手がつけられず、ついには不死の力も得て、天帝さまにも手に負えず、最後には、とうとう、お釈迦様が出動し捕まえて、500年、封印されていたのです。


 やっと、開放され、三蔵法師さんと旅をするにあたり、悟空さんが手に負えなくなったら、三蔵法師さまが、定心真言という呪文を唱えると、頭が締め付けられ、たまらなくなるのです。


 と、いうものだとされます。


 もちろん、これは、伝説の話ですが、絶滅寸前の人類は、民衆の強制的な支配の為に、同じような働きをする、『きんこじ』、を、開発していたのです。


 お坊さんが、持ってきたのは、その、残りものだったようです。

 


 さて、しかし、例により、だれが、あの、あたまにかぶせにゆくのかで、騒ぎになり、なかなか、まとまりません。


 時間ばかりが、経ちました。


 ついに、小さな、はだかでばねずみさんが、立ち上がりました。


 『ちゅう〰️〰️。ぼくが、ゆく、ちゅう。』


 『お〰️〰️〰️〰️。ぱちぱちぱち』



 はだかでばねずみさんは、王宮に向かいました。



 暴君、くまのうーさんは、はだかでばねずみくんがきたということで、面会を許しました。 


 非常に珍しいお客様だからです。


 しかも、長生きの秘密を握る生き物、ともいわれていました。


 はだかでばねずみさんは、うやうやしく、苦心惨憺して皆で作った王冠を差し出しました。


 内側に、きんこじ、が、嵌め込まれています。


 『あなたは、生き物の、大統領です。これは、王冠です。あなたに相応しい。どうぞ。』


 うーさんは、疑い深そうに受けとりましたが、はだかでばねずみくんは、そのまま、逮捕されました。


 

 様子を見ていた、スパイねずみの、こまこさんは、すぐに、組織に暗号通信を送りました。


 『はだかでばねずみくんが、逮捕された。』



 おおかみ属の、トロトロさんが言いました。


 『やはりな。失敗だ。しょせん、無理な話しだ。』


 『でも、ばだかでかねずみくんは、立派だよ。』


 ぱんだの、まんまん、が言いました。

 

 『わかってるさ。しかし、あのくまさんには、歯が立たないさ。さらに、ものすごく強力な地球破壊爆弾も持ってるらしいしな。むかし、人類が作った、ごますり爆弾とかいうものだ。』


 とらの、しまお、が割って入りました。


 『ごますり爆弾じゃないよ。コバルト爆弾だよ。』


 『それ、なんですか?』


 きつねの、こんたんが尋ねました。


 そこで、しまおが説明したのです。


 『ほんとに、あるかどうか、わからないらしいけど、人類を滅ぼした核爆弾の周囲を、コバルト59という物質で固めてあって、核爆発させるらしい。すると、コバルト60という半減期が、5.27年という放射性物質ができる。これは、とても強力で、長い期間にわたって、広く大地を汚染するから、味方も敵も、住めなくなる。普通は、そんなの、作って使おうとはだれも思わないけど、それでも良い、というような時には、使うつもりで、作った人類がいたらしい。じぶんがやられるなら、地球に、自分以外の誰も生かしておいてもしたがないと考えたのらしい。でも、結局、使わなれなかったんだ。それを、うーさんが持ってるという、噂があるんだよ。ロボット整備士たちが、いつでも使えるように、管理していた、とかも言われる。』


 『うそだろ。うーは、そもそも、うそつきだ。』


 『たしかに。でもね、作る計画があったらしきデータは、実際に掘り出されてるんだ。』


 『映画とかでないかい? かなり、おおげさにあつかった映画とかいうものがあったらしい。『アップルの惑星』とかいうらしいが、見たものは少ないが、うーさんは、映画を見る機械も、映画のフィルムも持っていて、そいつを見たらしい。まあ、ただの、うわさだよ。』


 すると、チンパンジーの、ぶーが言いました。

 

 『かもね。でもね、事実かもしれないよ。まあ、実物を見たというのは、ぼくの仲間にも、いない。ぼくらは、わりに、人類に近い種族だけど、あんな、ばかばかしい権力は持たない。人類は、頭はわりに良いが、性格が、かなり悪かったらしい。お互いに、火祭りにあげてやる、とか、脅かしあったりした。たくさんの武器を作ったが、核爆弾とか、毒ガスみたいな兵器とか、人類総自決用品、みたいなのを、山と持っていた。うーは、使えるのを、かき集めたらしい。科学長官が、その仕組みを解読したという。人類は、お金とか、武器を集めるのが、大好きだったんだ。』


 『まあそうなわけだね。しかし、はだかでばねずみくんが、失敗したなら、次の手を、考えなくちゃ。』


 おおかみさんが、そう、言いました。


 『はだかでばねずみくんを、助けないと。』


 『それは、難しいなあ。』


 みんな、腕組みして、うなづきました。



 

 その、うーさんは、王冠を、補佐役の、ラスト・ハーチンさんに、預けました。


 彼は、たいへん優秀な補佐官でした。


 くまとはいっても、アライグマの、出身です。


 アライグマさんは、見た目に合わず、かなり、狂暴で、人類滅亡後の知能増大も早く、わん、をはるかに追い越してしまったのです。


 ラスト・ハーチンさんは、その、最先端でありました。


 で、彼は、とりあえず、王冠を、ガラスケースに飾りましたが、何故だか、鍵をかけ忘れたのです。



 うーさんの、孫に当たる、まだ子供くまの、フーは、いたずら盛りです。


 だれもいなくなったのを見計らって、ケースにあった王冠を持ち出しました。


 そうして、自分の部屋に隠しました。


 なにかと、みな忙しく、その王冠のことは、誰も気がつきません。


 

 その夜、フーは、楽しそうに、王冠をぐるぐるまわしながら、眺めていました。




 一方、暴れくまの、独裁者うーは、科学長官、ヒグマのカブラフを呼んでおりました。


 カブラフは、まさに、天才でした。


 『あれは、できたか。』


 『ほぼ、完成です。』


 『ほぼ、とは、なにか?』


 『あなたの、生体情報を、最後に、登録します。すると、爆弾は、あなたと、一体になります。あなたが指令したら、どこでも、いつでも、どこにでも、飛んで行き、爆発します。あなたが、かりに殺されても爆発します。最終爆弾は、すでに、各大陸ごとに密かに置かれました。人目には、つきません。見ても、爆弾には、見えない。全部で七つです。これが一度に爆発したら、強力な放射線があまねく地球上に出ますが、とくに、コバルトが効きます。生き物は、大方、絶滅です。多少、時間はかかりますがね。えい! あなたは、特別製の全天空飛行挺にあって、それを、ながめるだけです。生きていらっしゃれば。その先は、まだ聴いておりません。私の仕事は、そこまでですから。』


 『うむ。よかろう。やれ。』


 『はい。あなたの情報は、すでに収容しています。入力するだけです。ときに、ぼくは、飛行挺に乗せてもらえるのでしょうな。えい!』


 『オフコース。』


 『では、やります。30分で、使えるようになります。えい!』


 えい!は、かれの口癖です。


 


 あばれくまのうーは、いま、ユーラシア・クズリさんと、おおかみさんが中心となった、『クズリおおかみ連合共和国』と戦っていました。


 彼らの国は、うーの巨大な国のとなりにあり、人類がいた昔は、同じ国に収まっていたこともありましたが、その人類の滅亡から長い年月が経ち、いまから50年くらい前、まだ、うーが権力を握る前に独立したのです。


 もうひとつとなりには、わんと、にゃんが中心となる『欧州わんにゃん連合国』があります。


 かれらは、人間のペットから、身を起こした

、開拓者わん、にゃんたちが中心になった国でした。


 みな、人類の高度な科学を受け継いでいますが、うーが持っているような核兵器とかなどは、まあ、実は多少は、あるのですが、数は少ないうえに、いまだ、使い方がよくわかりません。


 だから、うーが、めちゃくちゃをやりだすと、手に負えません。


 そうした意味では、あばれくまのうーは、やはり、最高の天才くまかもしれないのです。


 もちろん、かなりのとこは、科学長官カブラフの力ではあったのですが。カブラフは、陰では、マッド・サイエンティクマ、と、呼ばれていました。


 さて、大西洋を越えた向こうには、アリゲーターさんが支配する、『アンダー・ザ・スーパーアリゲーター』、つまり、『USA』と呼ばれる大国がありますのですが、かつて人類もそう呼んでいたので、語呂合わせしたとも、いわれます。


 もっとも、アリゲーターさんだけではなく、たくさんの生き物たちが、議会を作っていて、うーさんの国のような、独裁政治とは、こちらも、ちょっと違っているようです。


 暴れくまのうーさんにとっては、両方から挟まれている感じで、あまりにも、気分がよくなかったのです。


 できれば、全世界をしたがえたかったのですが、人類の歴史でも、全、全世界を、統治した国や支配者は、知られる限り、ありませんでした。


 しかし、うーさんは、世界を破滅させることでも、最終的支配者になりたいと、願ったのです。


 うーさんも、もはや、若くはなく、時間は限られていたからです。


 『破壊は創造だ。人類は、自らの破壊によって、我々の世界を産み出したのだ。うーは、自らとともに、世界を破壊し、さらなる新世界を創造するのだ。』


 それが、うーさんの、哲学でありました。


 残念ですが、客観的には、妄想の域を出ませんでしたが。


 だから、自分は生き残ることが、第一の前提ではありましたが、あまりに、ある意味、愛国者過ぎて、他国に侵略されるなら、自決した方がよいと、思っていました。



 

 暴れくま、うーさんの、奥方様は、リーナさんといい、たいへんな、美くまでありました。


 また、旦那さんとは、だいぶん違って、平和主義くまだったのです。


 たしかに、以前から、うーは、領土の保全にはことさら熱心で、人類の昔から、取ったり取られたりしてきた領土のうち、人類から引き継いだ地域を、さらに、広げようとしていました。


 くま属にとっては、人類と同じように、食糧の確保は大切な課題です。


 うかうかしていると、大切な食糧源を、他の生き物に取られてしまいますから、常に、領土の境界付近では、外に張り出すくらいの意欲が必要です。


 奥方様も、良く分かってはいましたが、ここのところ、いささか、夫はやり過ぎではないかと、心配していました。


 しかし、うーは、奥方の意見を、はいはいと聴いてくれるような、やわなくまさんではありません。


 また、上の、ふたりの子供は、ふたくまとも女子でした。


 立派な教育も受けさせ、中立国、いのしし連邦に留学したあと、いまは、その首都、ルンベで働いています。


 うーさんは、3番目に長男を授かりました。


 親に似たのか、秀才にして、ハンサムくまで、スポーツベアーでした。


 なので、王国で奥方様と同じくらい美しいと言われた、まーやさんという、美くまさんと結婚し、男のこぐまが生まれたのです。


 うーさんも、このあたりの時期は、絶好調でしたし、わりに、穏健な政策をしておりました。


 しかし、この長男夫婦くまは、わんにゃん連合にある、名高い山に登山に行きました。


 そうして、ついに、帰ってこなかったのです。

 

 おそらく、クレバスに嵌まったのだろうと言われていますが、うーさんは、わんにゃん連合の陰謀だと、考えました。


 これ以来、うーさんの、狂暴さは、高まるばかりだったのです。


 はだかでばねずみくんが持ってきた王冠を隠したイタズラくまの子が、その、残された子供でした。


 それで、その晩のことです。


 事件が、持ち上がりましたのです。




          🐻ボクジャナイヨ


 


 


 


 


 

 

 


 


 

 

 


 


 

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