女性トラブル、ブブブーン。

エリー.ファー

女性トラブル、ブブブーン。

 スキャンダルから始まる恋はあるのだろうか。

 いや、ないな。

 車を走らせながら思う。

 私は、自分のことを余り理解できない。意図的にそのような行動を起こさないようにしていると言った方が正しいだろうか。

 誰にも悟られたくないのだ。

 私という生き物を。

 だったら。

 私自身にも知られたくない。見られたくない。感じられたくない。

 自分が分裂しているような感じがする。

 少しずつ遠くに逃げていくのは、本能だろう。

 私が人間である以上、すべては人工物である。けれど、自然が一部でもあったと信じてしまう。これは罪に近い感情である。黒くて丸い、心の染みである。

 星が落ちてくる夜は外に出てはならないから、早く次の街に到着する必要がある。

 アクセルを踏みしめる。

 風が耳を切っていく。

 血が出たかと思った。

 気のせいでよかった。

 間もなく夜空になろうかとする光の具合は、目に優しく、見つめたくなる。視界に映して置く限りは、その影響を受けられるのではないかと思ってしまうのは、妄想に過ぎないだろう。

 でも、ハンドルを握っているこの間だけはすべてが本当に思えるのだ。

 バイクが並走している。ヘルメットには赤い文字が書かれていた。

 読めない。

 振動のせいではない。飾り文字のようで、何が止めではらいなのかが分からないのだ。

 おそらく、日本語。英語ではない。きっと漢字なのだろうが、分からない。

 私は諦めると、前方に集中する。こういう時に何かが飛び出して来たら危ないと急に思ったのだ。だったら最初から横を見なければよかったのに、と自分にツッコミを入れつつ座りなおす。

 烏が群れを成して飛んでいた。

 一つの夜のように見えた。

 昔の人が、生き物が作り出す巨大な影が夜を連れて来ていたのだと考えていても不思議ではないだろう。神話がそこにはあり、それが現実であり、事実と理想の合いの子なのだ。

 私たちは、社会の中で自分の立ち位置を気にするが、社会というものがどこの何という場所にあるのかを気にしない。

 遠くから見ようとしないのだ。

 悩まなくて済むし、楽だから。

 客観的に物事を見ないのだ。

 疲れるし、得られた情報の活用の仕方が分からないから。

 だから、正確な情報を得られないのだ。

 ただ、誰もが、正確な情報を得られるほどの立場にも、頭脳にも恵まれていない。

 この思考が一番幸せを感じられる。

 この余白がそのまま伸びしろになっている。

 どこまでも歩いていける。

 自らの愚かさを希望と捉えられることを知性と呼ぶわけです。

「どこまで行くんですか」

 ライダーが話しかけてきた。

「どこまでも行こうと思います」

「目的地がないと休むのは難しいと思いますが」

「休むことが目的ではなく、進むことが目的なんです」

「ストイックなんですね」

「私以外の方から見ればそうかもしれません。私は進みながら休んでいます」

「器用なんですね」

「私以外の方から見ればそうかもしれません。私はできることをしているだけです」

「僧侶のようですね」

「僧侶に失礼だと思います」

 バイクは横道に入っていき、バイクを停めた。野宿でもするのだろうか。

「さようなら」

 言ったのか言われたのか。

 もう分からない。

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