永遠を生きる君の隣に
大川夏門
序章
僕の元へ一直線に射出された銃弾は、《星造具(せいぞうぐ)》に備わった《崩壊》の能力を使ってかろうじて相殺できた。しかし、未だ戦況は変わらない。
こちらを見つめ銃口を向けている彼に、何としても高出力の攻撃を当てなければ――
スタジアム内に涼しい風が吹き抜け、僕の額の汗を乾かしてくれる。観客の歓声はまるで遠くで響いているように聞こえる。
今は前までの試合とは異なりやや劣勢だ。そのこともあり緊張しているのか、僕の動きは普段よりも無駄が多い。
一息つく暇もなく、再び銃弾が発射される。僕はそれに向けて力を放った。弾の軌道は徐々にぶれ始め、僕の体に触れる前に煙となって消失した。
僕の能力はこの手の連続攻撃を得意とする相手とは相性が悪い。いずれにせよこのままでは押し負けることは必至だ。ここらで勝負を仕掛けなければならない。
「――原始星(リムスアテラ)――」
僕がそう唱えると、腰に携えた万華鏡が僕に星導力をもたらしてくれる。この星造具のおかげで僕はここまで勝ち上がることができた。
多くの道具には星の欠片という天体の記憶が宿っている。しかしそれだけでは他の道具と何ら変わりない。人に願いを込められることで初めて星造具へと昇華する。
右の掌に光の粒が徐々に集まり始め、やがて小さな光の球体を形創った。それは時間と共に光量と熱量が増していく。
「な、なんだそれは」
彼はここまでの高出力を出せる星造具を見たことがないのだろう。不安そうな表情でうわずった声を上げる。だが、すぐにハッとしたように引き金を引き始めた。
無意識のうちに呼吸を止めて、筋肉の収縮に意識を向けていた。銃弾のほとんどは、僕の体の一部に命中するであろう直線軌道を描いて向かってくるので、僕は地面を転げるようにして避けながら彼との距離を詰める。
《原始星》を発動するには一定時間を要する。その間、他の能力を発動するには相当な集中力と星導力を削ることになるため、今は回避に専念する。
「早く溜まってくれ!」
本来であれば心の中で唱えるべき祈りの声が漏れ出してしまう。
僕は体勢を整えて走り始める。息が切れそうになりながらも次々に飛んでくる攻撃を回避し続けた。
光球はすでに掌を優に超える大きさとなり、その熱量もすさまじいものとなっている。
「っく……」
拳銃使いの表情が一段と険しくなった。
光弾の威力はまだ最高出力には程遠い。だが、すでに彼を倒すには十分すぎる威力となっているだろう。
僕は素早く間合いを取り、自身の正面に右腕を構えた。それと同時に、目線の先では彼がほとばしるほどの光を放つ銃口を、こちらに向けているのが見えた。
おそらく彼もこの攻撃で僕にとどめを刺すつもりだろう。
「はぁー!」
掛け声と共に放たれた光球が大気を切り裂くように移動する。そこから生じる轟音はすさまじく、体を内部から振動させるほどだった。
「くっ――」
彼の銃から放たれた巨大な弾丸は僕の光に触れたかと思うと、その瞬間に空中で霧散した。そして光弾はそのまま彼を包み込んだ。
会場の内部から一瞬にして音が去った。
その直後、観客席からひときわ大きな声が飛び交った。
「よっしゃー!」
気付けば僕は歓喜し、叫んでいた。
この星導大会が始まる前に友人のマシューと、決勝戦は二人で戦うことを約束した。そして今、準決勝で勝利したことで僕はその約束を果たすことができるようになった。
ようやくここまでこられた……
歓声を身に浴びながらただ、その場に立ち尽くしていた。僕はそれに気付くと辺りをぐるっと一周見渡し、ゆっくりと歩き始めた。
観客は、僕が住むグベイ村で行われた予選の時とは異なり、色彩豊かな様々な装いで人数も多い。王都、カントでこんな戦いができるとは夢にも思っていなかった。
僕はそんなことを考え、勝利の余韻に浸りながら控室へと向かった。
廊下を抜け、部屋の前にたどり着く。ふと違和感を覚え、辺りに注意を向ける。
「なにも……ないか」
扉に手をかけようとした。だが、結局その手がドアノブに触れることはなかった。
どうやら僕は青く透き通ったガラスのような障壁に、行く手を阻まれているようだ。
「こ、これは?」
これには見覚えがある。確かマシューの星造具の防壁――
状況を理解する間もなく、次の瞬間には後頭部に大きな衝撃を受けていた。
「マ……シュー……」
僕の意識はそこで途絶えた。
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