詩、詰め合わせ3
笑顔
「人相手の商売は苦手ですよ?」
その人は笑って言う。
「信じて貰えないだろうけどね」
困ったように笑って言う。
「信じて貰えないから――だから、僕も、人間は信じない」
悲しい。というより、なんて寂しいんだろうと思った。
言葉には、出来なかった。
人懐こいと思っていた彼は、傷付く事を恐れて笑顔を被っている。
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狼は君の※
狼は君の、細い首筋に噛み付いた。
美しかった君は一瞬で、不様にも転げて果てた。
白い肌を裂いて、赤い血肉に噛り付く。
そして君は狼の、一部となって生きていく。
一瞬でも長く生きられることを祈ろう。
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御題ss※
「だから、あの人を……消したのね?」
屋外の雨の音が、硝子越しでもはっきりと聞こえる。静か過ぎて耳が痛い。
私の詰問に、貴方は静かに頷いた。その表情は穏やかな笑顔。
「殺人を犯しておいて、何を笑っているのよ」
「笑ってないよ?別に」
窓が風に揺れる。本格的な嵐のようだ。
「それに、僕は殺してない。送っただけだよ」
「……送った?」
訝しく思って聞き返したのと、乾いた音が屋敷中に響いたのが同時だった。
白い煙が残る銃口。
「さようなら」
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ふわり
春の歌を口ずさんで、ふわり
踊る君は軽やかに跳ねる
すらりと伸びた手足
空へ広げて、大地踏み締め
溢れる気持ちを歌い上げる
春の精霊
野に咲く花々
泉を撫でる風の音
雪解けの歌が広がる
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『全て思い通りになる世界ほど詰まらないものは無い』
ぼくは空が飛べるんだ
道具も何も使わずに
ぼくは海を歩けるんだ
道具も何も使わずに
宇宙だって庭みたいなもの
息が苦しくなることは無い
ぼくには心が見えるんだ
みんなが何を考えてるか
ぼくには過去が見えるんだ
誰も知らないような歴史さえ
ぼくには未来が見えるんだ
そこらの預言者なんて目じゃないよ
望めば全てが手に入る
望みは望めば望んだまま叶えられる
痛みも苦しみも無い
怖いものはない
全知全能の神の様に
全てが思い通り
夢の中では
全てが思い通り
頭の中では
では…
現実で、は?
所詮はただの人間。
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戦場に咲く華
我らが隊の紅一点。ドレスを纏い、凜と立つその姿。まるで、聖なる女神。舞踏は華々しく!
我らが隊の紅一点。鎧を纏い、凜と立つその姿。まるで、軍(イクサ)の女神。武闘は雄々しく!
女神は言う。常に勝利を収めよと。
女神が舞う。魅入った者を天へ誘(イザナ)え。
彼女の剣舞は大地を塗り替える。
雄々しく、華々しい。その存在はやがて疎まれて――
戦場に咲く華は、舞台の上で散らされた。
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この想いは雪のように儚くて、
君に伝えようとする前に消えてしまいそうで、
あまりに淡いが為に触れる事すら躊躇った。
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『おどけてみせる』
おどけてみせる
君がそれを望むなら
力の限り叶えよう。
歌って踊って笑わせて
君がそれを望むなら
力の限り応えよう。
斬って棄てて消して
君がそれを望むなら…
道化師になるのも悪くない
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嘘つきの独白
記憶の中で君を探す。
最後の日、ボクは君に酷いことを言ってしまった。
それでも君は笑ってた。穏やかに。ただ、穏やかに。
許さないで。
ボクにはそんな温かい眼差しを受ける権利なんてない。
許さないで。
君に渡した言葉には、何一つとして真実はない。
許さないよ。
ほら、また、君を傷付けてしまう。そんな自分が許せない。
どうしてまだ笑えるの?
どうしてまだ傍にいるの?
どうして――。
どうして、ボクは、嘘をついていたんだろう。
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心の仮面
寂しい、悲しい、苦しい、辛い……そんな気持ちが流れ込んでくる。
ずっと傍におったんに、これからもずっと傍におるんに、アンタは一度も弱音を吐かん。
いつも笑顔で。どんだけ疲れとっても、泣きとても、笑顔で。
「アホやなぁ、アンタ」
何を恐れとんか知らんけど、今更アンタの闇見せられたとこで離れる訳ないやん。
二人きりん時くらい、仮面外して楽になりぃな。
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ぼくらの空想理論
河原いっぱいに、敷き詰めるように打ち上げ花火を仕掛けていく。
「例えば、夜の空に打ち上げた花火が星屑になるとして、真っ暗な空にどんどん花火を打ち上げるとする。
普通の花火大会ではすぐに終わるから、上がったときの音はゆっくりゆっくり空に吸い込まれ、溶けて消える。
もし音が消える前に次々上げたら、夜の空は昼の様に明るくなって、吸収しきれなかった音は押し合いへし合い、お互いを潰して消そうとすると思うんだ。
それでもまだ花火を打ち上げ続けたら――音は町まで潰そうとするのかなって思ってさ」
打ち上げ花火に埋め尽くされた河原の中心で彼は笑う。
そして――
「試してみたくなったんだよ」
導火線に火をつけた。
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地図
ボクの持っている地図に
足跡を刻んだ君は、
この地図が示すまま進んだ先に、
今でも存在していますか?
それを確かめたくて、
ボクも歩いて来たんだけど……
「なかなか見付けられないねぇ」
世界を巡る旅は続く。
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