第十章 不可思議なパフォーマンス

夫が得意げに案内した、プールのデッキチェアに私は腰を下ろした。

7年たって、更に身長を伸ばした清志君が嬉しそうに微笑んでいる。


「水着、とっても似合う・・・綺麗だよ・・・。」

10年前からは想像もつかないセリフを、投げかけてくれる。


私は幸せを噛みしめていた。

大学入学と同時に交際を再開させた二人は無事、去年、ゴールインした。


大好きだった小さな男の子は、逞しい大きな男になって私を包んでくれた。

忙しい仕事の合間を縫って、今、プールでデートしているところだ。


ひとしきり泳いだ後、夫はバックから包みと封筒を取り出した。

いたずらな目で見つめると、私に向かってそれらを差し出した。


「んっ・・・・。」

そのイントネーションに、懐かしい気持ちがジワッと胸に沸き上がった。


「な、なに・・・・?」

戸惑う私に包みと封筒を押し付けると、夫は走り出した。


「ええっ・・・・?」

デジャブのように記憶が蘇る。


夫の背中が、あの小さな男の子の残像に重なる。

やがて夫はプールの端の飛び込み用の台をよじ登り、大きく両腕を振った。


そして、丸い水たまりに飛び込んでいった。

両足はガニ又で、お世辞にも綺麗なフォームではなかった。


パーンと不自然な音がし、夫が飲み込んだ水にせき込みながらヨロヨロと私の元に戻ってきた。

お腹から胸にかけて、真っ赤になっている。


水に打ち付けたのだろう。

私は訳も分からず、ジッと見つめるしかなかった。


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