ギルド観光課

@fukayatukimi

第1話 王都

 ーーここが王都。

 衛兵さんがいた検問所を通過してから王都に足を踏み入れて初めて抱いた感想がそれだった。

 大きな通りには沢山の人が歩き、時折馬車なんかもすれ違う。辺りには木造の高い建物が立ち並んでいる様は、少なくとも故郷の村では絶対見られない光景で何だか新鮮。

 私はすーっはーっと空気を吸う。

「よし、まずは…… っと」

 取り敢えず目的地の王都まで着いたし次にする事は、ギルドハウスを探す事になるかな。と言うのもお母さん曰く「都会に着いたらまずはギルドを探して冒険者登録をしておきなさい」ってうるさかったから。

 でも王都なんて初めて来たし何処に何があるかなんて、右も左も分からないんだけど…… 。

 そこで私はぶらぶらと王都を散策する事にした。運良くギルドハウスを発見できればそれでも良し、駄目ならその時はその時また考えれば良いだけの話。

 この国の「王都」と呼ばれるだけあって一番発展しているフォルニアは、大手ギルドや有名な冒険者が多い。人間以外にも精霊族、獣人族や魔族と言ったあらゆる種族に開放的。さらにはこの都にはほんの最近まで勇者とか呼ばれる魔王と戦った人もいるらしいけど、それは噂話の域を出ない話。

 そう考え事をしながら四角い石が敷き詰められた道を歩いていると、

「おーいそこの可愛いお嬢さん、モンスターバードの串焼きいる?」

「妾のおすすめは、塩ダレじゃぞ」

 長い金髪を輝かせる少女といかにも駆け出し冒険者みたいな青年が私にモンスターバードの串焼きを出していた。

 別にお金にゆとりがある訳では無いけれど、決して無い訳でも無いし一つ買っていくとしようかな。ついでにギルドハウスの場所も聞いてみよう。

 あのーすいません、王都にある大きなギルドハウスって知りません?それとその串焼き、銅貨二枚で足りますか?

「うむ、知っておる。おつりは鉄硬貨三枚じゃ、落とすでないぞ」

 金髪の店員さんが私にお釣りを手渡すと横の青年をチラッと見た。それに気づいた彼は道の向こうを指差す。

「あっちに『フォルニア』って言うここ最大のギルドがあるんだ。お嬢さん、王都は初めてか?」

 青年の言う通り、ここに来るのは生まれて初めて。だけど露店で優しい人に出会えて良かった。ここで会うのも何かの縁かもしれません、お二人の名前を聞いてもよろしいでしょうか?

「名前?別に良いぜ。俺の名前はレイって言うんだ。また会ったら串焼き、買ってくれよな」

「ルノーアと言う。一応言っておくと、妾は人間ではなく魔族じゃ」

 ルノーアさんが金髪を少し揺らすとその中から尖った耳が出てきた。人間の耳とは全然形が違うから、彼女が魔族だという証明になる。

 えっと、お二人が自己紹介したから次は私からするのが礼儀だろう。

 私の名前はトワって言って、十五歳で王都に就職活動しに来ました。魔法の腕はそこそこです。

 そう自己紹介を終えると、お二人さんがクスクスっと薄い笑みを浮かべているのが見えた。私、別に恥ずかしい自己紹介なんてしてませんよね!?

「いやさ、正直そーな子だなって思っただけだ。ルノーア、この子放って置けない感じあるからギルドハウスまで送っていかないか?俺達も用事があるだろ」

 それは願っても無い話ですけど、そうしてもらってもよろしいんでしょうか?

「良かろう。情けは人の為ならず…… そういう言葉もある」

 との事で、私は二人もギルドハウスに行くと言うので着いて行く事にした。

 あとこのモンスターバードの串焼きって中々美味しいですね。しっかり処理してるからかモンスター独特の臭みとか全然無いですし、塩ダレも良いアクセントになっていると言いますか。


 

 露店を畳んだ二人に付いて行く事僅か数分で、大きな木造の建物が見えた。付いている看板を読んでみると、ここがギルドハウス「フォルニア」だ。

「こんなに大きな建物見るのは生まれて初めてか?」

 そう言いつつレイさんはギルドハウスの入ったので私とルノーアさんも続く。

 ギルドハウスの中はすぐ目の前に受付らしき場所があって、近くにはコルクボードに沢山の紙が貼ってある。少し後ろには集会が出来そうな広場に幾つかテーブルが置いてあり、冒険者みたいな人達がわいわいと席を囲んでいた。

 えーっと、お母さんの話だと冒険者登録をすれば良いんだったっけ。

「妾も付いていこう。レイは用事をしっかり終わらせておくのじゃ」

「はいはい了解だ。じゃあトワの方はお前に任せたからな」

 私とルノーアさんは、レイさんと別れて受付の一つへ向かう。

 そこにいたのは短い茶髪をしてメガネをかけた可愛らしい、との表現が相応しい少女がいた。年齢はレイさんやルノーアさんと同じくらいに見える。

「この子を冒険者登録しておきたいのじゃが手続きを頼めるか?」

 ルノーアさんが受付の人を見るとそれだけで察したようで、軽くウインクをしてから受付の棚から一枚の紙を出して私に見せてくる。

 どれどれ、「冒険者登録に関しての契約書」と書かれている。要項にざっと目を通してみると。

 

 一つ、冒険者登録は満十歳から可能とする。但し、両親の死別や特別な事情があり冒険者登録をする必要がある際には

申請書を提出するものとする。

 一つ、いずれのギルドに所属するには冒険者登録が必須である。

 一つ、冒険者は依頼を受ける事が可能であり、それを達成した際に一定額の褒賞を得る(褒賞に間しては別途記載)。

 一つ、冒険者はギルドハウスに入る依頼を受注する事が出来るが、あらゆる依頼に対しての損傷、損害は自己責任となる為に十分に鋭意する事。

 

 ーーまだまだこの先にも続いているんけど、大事なのは上から二つ目の「ギルドに所属する為に冒険者登録がいる」って所のはず。

「そうそう。後はそれに名前を書いてくれればそれで契約は完了」

 受付の人が私にペンを渡してきたので

それを使って名前を紙に記す。よし、それで冒険者登録は終わりっと。

「ねえ、トワちゃんだっけ。どんなギルド入るかとか決めてる?」

 流石にそこまではまだ…… 。王都に来てまだ一日も経ってないからどんなギルドがあるのはすらも分かっていないのに決めるだなんてそんな。

「それもそうじゃぞ、ヤヨイ。急ぐ必要はない、ゆっくり考えると良い」

 ルノーアさんが助け舟を出すと受付の人ーーヤヨイさんは分かったよと私が書いた紙を受け取って棚にしまう。

 それとほぼ同時に、用事を終えたレイさんが向こうからやって来た。用事って何だったんだろうとは気になるけれど言及はしないでおこう。

「用事も終えたし、ついでに何か食べて行くか?もう露店も引っ込めたから酒飲んでも構わないけど」

「なら甘えよう。店員さんに葡萄酒を二つ、と注文しておこう。伝達魔法で大丈夫じゃったろう、ヤヨイ?」

「良いけどさ…… 。酔い潰れない程度にしておいてよ」

 ルノーアさんとレイさんは昼間からお酒を飲みに奥へ行くらしい。奥へ行った二人を見送った後、トワさんは私の肩をぐいっと掴んだ。

「ねえトワちゃん…… あの二人の様子を見に言ってくれないかな。酔い潰れてしまっても困るし」

 言われなくてもそうしようと思っていたのですがヤヨイさんは心配性だったりしますか?それとも他に理由とか。

「いや、違うけど。強いて言うならギルドハウスの為…… かな」

 ヤヨイさんが苦々しい表情を浮かべている理由は分からないけど、二人の様子を見に行くとしよう。

 

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