駄ルケミスト異世界へ来ちゃいました

資笑

プロローグ


「うーん、いまいちかな?」


フルダイブ型のオンラインゲーム、『フリーダム・オリジン』の渓谷フィールドでぼやきながら鏡の板の様なものに魔法を反射させモンスターを討伐していく。

この男、ダレンはこのゲームでは(良くも悪くも)ちょっとした有名なプレイヤーである。


『ますたぁ、大会は行かなくて良かったの?』


側にはダレンをマスターと呼ぶ、全長50cm程度の子竜が浮遊しており、彼は人口使い魔のクゥである。


「昨日、失格になったから試合ないよ?」


『今度はなにやったのぉ!? 』


あっけらかんと言いはなつと、クゥは大袈裟に驚いてみせる。

なんとも不思議な使い魔である。


「うーん?何が悪かったかな?剣聖杯だから……剣型浮遊装置ブレードドローン自体は……準決勝まではなにも言われなかったし……」


『え?』


「大量展開が駄目?それともちょっとドローンの2、300個に自爆・誘爆機能付けたのが悪かったか……いや、自爆ついでに状態以上てんこ盛りの粉塵が舞う機能付けたのが不味かったかな?でもいくら剣術大会だからって斬擊特化防具ばっかで状態異常対策してないから、其処を突きたくなるよな?一応、手持ちの剣にも状態異常付加してあったし……使ってないけど……」


『ますたぁ!』


呆気にとられるクゥに構わずブツブツと呟いているとクゥが抑制しようとする。


「ん?どうした?」


『なにやってんの?』


「え?だって俺、生産職だし?真面目に剣術だけだったら予選通るかギリギリだったよ?」


ちなみにポーション類を撒くのはだいぶ昔の大会でやって以降禁止になっている。


『そんなんだから、駄ルケミストとかぁ、コイツに比べりゃ皆無罪アンラ・マンユとか祭厄とか色々言われるんだよぉ』


「クゥはよく知ってるなぁ」


あはは、と笑いながら魔法を反射させ、モンスターを駆逐していく。

使い魔と言うかAIにまで渾名が轟くとはまさに問題児であるが気にした様子はない。


「見つけた」


「ん?」


不意に後ろから声を掛けられ、振り返ると剣士風の男が睨んでいた。


「ああ、昨日はどうも……って、あれ?試合は?」


「……一応、優勝しました」


何故か悔しさを混ざった声でそう答えるのは、昨日の試合の対戦相手である。


「そう、おめでとうございます?」


「ああ、ありがとう……じゃなくて」


「はい?」


「俺ともう一度勝負してほしい」


「え?何故?」


「っ!昨日の試合、戦闘不能になったのは俺だった」


「まぁ、反則らしいけれどね」


ダレンとしては試合結果に異義も未練もない。ぶっちゃけると剣型浮遊装置ブレードドローンで遊びたかっただけだ。


「そんなことでは真の勝者とは言えない!」


「言って良いと思うよ?」


『温度差ぁ……』


なんだか締まらないやり取りにクゥがため息をつきながら呟く。どうでもいいがクゥの声はオーナーであるダレンにしか聞こえず、他人には鳴き声が届いている。


「勿論、これを賭ける」


剣士はオーブを取り出し掲げる。


「えーと……それは?」


「勿論、今回の大会の優勝賞品の剣聖のユニークジョブオーブです」


「……いや、別に欲しくないし?」


「え?」


『ますたぁ……』


せっかく手にいれた優勝賞品を賭けの対象しようとするもばっさり切り捨てられ、呆然する剣士と呆れるクゥ。


「てか、今剣術用の装備じゃないし」


「問題ない、寧ろ何でもありの奇創天壊きそうてんがいに挑みたい」


「……まぁ、そんなに言うなら」


(それ、半分くらい蔑称なんだけどなあ)


渾名の1つを聞いた瞬間に少し顔をしかめながらも、渋々勝負を了承することにしたダレン。


「では、いざ、尋常に勝負!!」


『あーあ……』


嬉しそうに構える剣士と、可哀想な声を漏らすクゥ……温度差がひどい。


「はっ」


「うん」


剣士が掛け声とともに斬りかかろうとし、ダレンは持っている杖で軽く地面を二回ほど叩く。すると魔方陣が発動する。


術者以外はこの上で行動が停止するものであり、アイテムの実験中の為、モンスターに接近されても良いように魔石等を加工した塗料で描いたものである


「なっ!?」


「駄目だよ?生産職の狩り場で何でもありとか言っちゃ」


『ますたぁ……』


駆け出したところで停止し驚く剣士とそれを見てため息をつくクゥ。なお割りと得意げなダレンだが、内心は

(……狩りの前にこの魔方陣設置するだけで1時間くらいかかったし、無駄にならなくて良かった。)

と言う、なんとも残念なものだったりする。



「クゥ!」


「あい」


クゥに指示を出し、先ほどまで魔法を反射させていた鏡板を転送させ、剣士を囲う。


「これは?」


「魔法反射坂、勿論威力増大効果付き」


「は?」


「ありふれてそうな効果のアイテムだが、今まで見なかったので創ってみたんだけど」


なかなか貴重な素材使うわ、加工に1枚1月くらいかかわるわ特定の属性しか反射しないわで枚数揃えるのに半年もかかっている……倍率もまだ1.5倍くらいが限界である。


「でさ」


「え?」


「被ダメージの非公式記録作ってみない?」


停止したまま、呆ける剣士に構わず魔法の準備をし、にこりと告げる。


「四滅玉っと」


ダレンがやろうとしていることは簡単、ただ、魔法を反射させて威力を高めてどれだけダメージを与えられるかの実験である。


「そのスキルは!?」


「あ、知ってる?」


「取得者が実在したとは……そのクソスキル」


「いや、これ自体は威力あるし、そこまで残念じゃないよ?」


直線的だが威力はある魔法スキル、ただし、取得するためには明らかに使えないスキルにスキルポイントを使わなければならない上に、汎用性が高く似たようなスキルが幾つか割安のスキルポイント取得出来るため、クソスキル認定されてる魔法である


「クゥ、あとよろしく」


『くぅ』


「え?お、おい」


スキルを放ち、クゥに反射版の調整を頼むとダレンは素材採取に切り替えた。




そして数分後、【ボンッ】という音と共にクゥがダレンの前に飛び出す。


『ますたー!!あぶない!!』


「ん?」


数分間威力を乗算したスキルに反射版が耐えられずに大破して、運悪くダレンが直撃コースにいたのだ。


「へ?」


そして、21桁……垓という非常識な非公式レコードダメージに耐えられずダレン……武田 蓮司たけだ れんじの意識は消え失せた

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