家族の色

僕たちの降りる駅が近づいてきた。


「じゃあ僕たちはここだから」


「うん。じゃあまた学校で」


 手を振りながら彼女は微笑んだ。


扉が閉まり進行方向に向かう電車を見送って、僕たちはホームの階段を上がっていった。


「かわいかったな星月さん」


「うん。ちょっとドジみたいだけどね。ていうか秋人は顔見れてないだろ」


「雰囲気だよ雰囲気。なんとなくの」


 僕たちはそんな会話をしながら家までの道を歩いた。


 秋人とは住んでいる場所が近いからたまにこうして一緒に帰ることがある。


 この時間は案外楽しかった。秋人は運動神経抜群で背も高く僕とは正反対だ。


 でも感情と表に出る態度が同じだから、気を遣わずに話ができる唯一の親友だ。


「じゃあここで」


「おう、また明日学校でな」


 僕たちはわかれて歩いた。僕の家は別れてすぐのところにある。


「ただいま」


 僕は家に帰って靴を脱ぎリビングへ向かった。


 リビングには夕飯の支度をしている母さんとそれを待ちどおしにしている弟がいた。


「おかえりなさい、もうすぐご飯できるよ」


「兄ちゃん早くしてね。僕おなかすいてるから」


「分かった分かった荷物置いたらすぐ来るよ」


『星月さんの色が視えない原因はまた後で考えよう』


 そう思い、僕は自分の部屋に入り荷物を置いてリビングへ向かった。


 リビングの扉を開けると、食卓の上に彩り豊かな料理が並んでいた。


「今日のご飯は鳥の照り焼きとレタスとゴマのスープ、それと生ハムサラダよ」


「すごくおいしそう、兄ちゃん早く早く」


 僕は自分の椅子に座りいただきますと言ってご飯を食べ始めた。


「最近学校はどうなの秋人君とは仲良くしてるの?」


「うん、まあ仲良くしてるよ今日だって帰り一緒だったし。クラスの方はそれなりに」


「兄ちゃん彼女できないの?」


「そうよ。高校生活も二年経つんだからそろそろ彼女の一人ぐらいできてもいいころじゃない」


「そんな話はないよ。大体高二になったからって彼女ができるわけじゃないし」


「それはそうだけど」


「まあ彼女が出来たらちゃんと報告するからそんなに焦らせないで。ごちそうさまでした。このお皿も向こう持ってちゃうよ」


「うん。ありがとう助かるわ」


 僕は自分のお皿と照り焼きが乗っていた大皿をキッチンに持って行った。


「お風呂沸いてるから入るなら先に入っていいよ」


「ん、分かった入ってくる」


 そう言って僕は風呂場に向かい服を脱いでシャワーを浴びた。


 夕飯を食べている間も彼女のことが頭から離れなかった。


なぜ視えないのか、なんで透明なのか。


 原因を探してもこんなことは過去に一度もなかったことだから分からない。


誰かに相談することはできないしどうしようもなかった。


 湯船につかりながらならいい考えが浮かぶかと思ったが、全く出てこなかった。


 風呂から上がりテレビを見ながらまったりするのが僕の日課だ。


 今日のテレビは心霊系のドッキリ番組だった。


 こういう嘘くさいドッキリに本当に引っかかるのかなんて考えながら見ていると、出演者の俳優が


「僕、霊感があって幽霊が視えるんですよ」


 と言っていた。本当に視える人はいるのだろうと思っている。


 実際僕もたまに視ることがある。


 片側二車線のメイン通りで信号待ちをしていたら向こうに小学校低学年ぐらいの子が二人いた。


 楽しそうにおしゃべりしているのを見ていて車が目の前を横切った後、向こう側が見えたときにはその子たちは跡形もなく消えていた。


 周りには隠れられる場所は無く、一瞬で見えなくなることはあり得なかった。


 他にも踏切で向こう側にいたおじいさんが電車が通った後にいなくなったとか。


 後になってあれは幽霊だったのかもって思うこともあった。


 けど害はなさそうだったからあまり気にしていない。


 でもその俳優は嘘をついている。


嘘をついているときの色が視えるし、何よりこのドッキリに引っかかっている時点でバレバレだ。


 そんなくだらない嘘はつかなきゃいいのにと思ってしまうが、テレビにでる有名人だから仕方ないのだろう。


 番組自体は出演者のリアクションや司会の回し方が面白かったから夢中で見ていた。


時計を見ると結構な時間が過ぎて、もうそろそろ十一時になるころだった。


 もうこんな時間かと思い、自分の部屋に戻ってベッドに入った。


 僕は彼女の顔を思い浮かべながら目をそっと閉じた。

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