海の色
季節が変わりじめじめした空気が漂う暑い夏になった。
今年は例年以上に気温が上がるだろうと朝の天気予報で言っていた。
僕には関係ない。
夏はクーラーのきいた部屋でごろごろするのが日課だから、暑くても別に良かった。
ただ今日は夏休み前、最後の学校があったので仕方なく行った。
全校集会で校長先生の長い話や、生徒指導の先生から夏休み中の過ごし方なんて話をされた。
僕は高校生なんだから自分で考えるよなんて思いながら聞いていた。
集会が終わり、学校は夏休みに入った。
今年も家で過ごすぞと思った矢先秋人からメッセージがきた。
[夏だし次の日曜、海行こうぜ]
夏だから海という思考、秋人ならしそうだなと思っていたが
[急だな、しかも男二人で海に行って何が楽しいんだよ]
と家で過ごす理由付けをした。
するとその後すぐにメッセージが来た。
[いやいや桃と星月さんも誘おうと思ってたよ。さすがに二人でだけはないよ。葵が行くならその二人も誘ってみようかなって]
それならと思ったけど、秋人には僕と違って友達が多い。
[なんでその二人なの?]
と純粋な疑問を秋人にぶつけた。
[俺も高校二年だしそろそろ女子慣れしとこうと思って。去年は男だけだったから、まずは身近な人なら大丈夫かなって]
秋人が自分から免疫を付けようと行動していることに驚いた。
しかもこれは小桜さんと秋人をくっつけるいいチャンスだと思い、
[わかった、それならいいよ。行くよ。じゃあ僕が星月さん誘っておくから小桜さんは秋人が誘っといて]
[おう、分かった。ちゃんと誘えよ]
[そっちこそな]
勢いで了承してしまったが、僕も女子を遊びに誘ったことなんかないことに気付いた。
けど約束してしまったからちゃんと誘わないと。
彼女とのチャット画面を開いて
[今度の日曜に秋人と海に行く計画立ててたんだけど星月さんもどう?]
と送った。すぐに既読がついて
[海?!行きたい。桃も誘っていい?]
と来たので
[小桜さんは秋人が誘うって言ってたよ]
と送った。
[そうなんだ。じゃあみんなで行けるといいね]
[うん、そうだね。]
彼女とやり取りをしていたら秋人から
[桃オッケーだって]
と秋人から来たので
[こっちも大丈夫だよ]
と返した。
友達と海なんて初めてだから、緊張して日曜日までそわそわして過ごしていた。
日曜日当日、待ち合わせ場所に行ったら集合時間の二十分前なのに彼女の姿があった。
「星月さんおはよう早いね」
「水篠君もおはよう。水篠君こそ、まだ集合時間前だよ」
駅にある時計を見ながら言った。
「楽しみで少し早く起きちゃったから、星月さんは?」
僕がそう答えると
「私も早く起きたから来ちゃった」
と同じような理由だった。
彼女も楽しみにしてくれていたのかとホッとした。
僕がついてから五分後ぐらいに秋人と小桜さんが来た。
「おはよう。二人で一緒に来たの?」
僕が二人に聞くと
「いや、たまたまそこで会ったんだ。な、桃」
「うん。私一番乗りかと思ったら秋人と会って、ここに来たらもう二人も来てたからびっくりしちゃった」
二人はそう答えた。
結局みんな時間よりもだいぶ早く来てしまった。
楽しみだったのは僕だけじゃなかったようだ。
電車に乗って海へと向かった。
ちょうど四人席の場所が開いていたのでそこに座り、文字数制限しりとりをした。
「ほら次は葵だぜ」
「分かってるよ。るで四文字でしょ?どうしよう、全然思い付かない」
「水篠君、濃い青色を言い換えると?」
彼女がヒントを出してくれた。
「あ、瑠璃色」
「ろ?ろも結構難しいな。あ、出てきた。ろうりゅ!」
「え?ろうりゅって何?」
「桃、ろうりゅ知らないの?サウナの中にあるサウナストーンに水をかけて体感温度をあげて汗かくようにするやつのことだよ」
「へえー詳しいね」
小桜さんが感心していると秋人はさらにドヤ顔になった。
「まあ俺サウナ好きだから、それよりほらろうりゅのゆだよ」
「ゆ?ゆって何がある?」
「夜配られる新聞」
秋人は小桜さんを引っ掛けるつもり満々のようだ。
「え?あ、夕刊」
見事に秋人に乗せられた小桜さんはまんまと引っかかった。
「はい、桃、んがついたから負け」
「あ……もー最悪秋人に引っ掛けられるなんて」
小桜さんは唇を尖らした。
「桃ドンマイ」
彼女は小桜さんのあたまをなでて慰める。
「帰りは絶対リベンジしてやるー」
しりとりが終わるのと同時に目的の海野駅に着いた。
僕たちが電車を降りると目の前には青々とした海が広がっていた。
僕たちは海岸沿いに少し歩いて海水浴場まで行った。
夏休みに入っているからそれなりに人がいたが、テレビで見るようなぎゅうぎゅうの状態では無かった。
人が多すぎると色が混ざって、僕は視るだけで疲れてしまう。
だけど今回その心配はしなくてよさそうだ。
僕と秋人は早速水着に着替えて場所取りを始めた。
「遅いな二人とも」
「女の子は支度が多いから仕方ないよ。パラソルはこの辺に刺しとけばいいかな?」
それなりに重さのあるパラソルを砂浜に刺した。
「ああ、その辺でいいんじゃないか」
「お待たせー場所取りありがとう」
後ろから彼女の声が聞こえてきた。
振り向くとおしゃれな水着を着た彼女がいて、僕は一瞬声を失った。
「水篠君?どうしたの?」
彼女は僕を見つめる。
「いや何でもないよ。その水着かわいいね」
我に返った僕は咄嗟に彼女の水着姿を褒めた。
「ほんと?!ありがとう」
「ねえねえ私は?」
小桜さんが彼女の後ろから顔を出す。
「小桜さんもよく似合ってるよ」
「ありがとう、秋人はどう思う?」
「ん?ああ、桃にしては似合ってるんじゃない?」
「なんだそれ。褒めてるの?」
小桜さんは不服そうな顔をしたが満更でもない。
「褒めてるよ!」
秋人は海の方へと目線を逸らす。
秋人は冷静を装っていたが焦っている色が視えて、内心ドキドキなのが分かった。
今更だが女子に耐性がない秋人にとって海は早かったんじゃないかと思った。
去年は男だけで海に行ったと言っていた。
今年のこれは想定してなかったのだろう。
「ほら、もう行こうぜ」
と言い海へ入って行った。僕たちもそれに続いて海に入った。
荷物は海に入っていても見えるように近くに置いておいたから、盗まれる心配はないだろう。
「よし、あそこの岩まで競争しようぜ、桃」
「いいよ、私に水泳で勝負を挑んだこと後悔させてやる」
二人は泳いで行った。
取り残された僕たちはプカプカ浮きながら話をしていた。
「水篠君って泳げるの?」
浮き輪を使って波に乗っている彼女に聞かれた。
「多少はね、ちっちゃいころ水泳教室に行ってたから学校のプールぐらいなら泳げるよ。星月さんは浮き輪なんだね」
「えへへ、泳ぐのだけは苦手なんだ」
夏の太陽のように眩しい笑顔を浮かべながらそう言った。
「それにしてもあの二人はすごいね」
彼女は泳いでいった二人を見ながら言った。
「そうだね。もうあんな沖まで行ってる」
二人はかなり遠くまで泳いでいるように見えた。
「小桜さんがあんなに泳げるのは意外だったな。秋人とあそこまで張り合える女の子は見たことないよ」
僕は小桜さんの運動神経に感心した。
「桃って結構運動できるんだよ。この間の体育祭でも持久走一位だったし」
そういえばそうだった気がする。
あの時は自分のことで精一杯だったから記憶が飛んでいた。
「ねえ、あれなんだろう」
僕の目線の先で誰かがそういって指を指した方を見る。
バシャバシャと水しぶきが飛んでいる。
水しぶきに混ざってはっきりとは視えないが紫色が視える。
あれは不安や焦りがあるときに出る色だ。
やばいと思い、僕はとっさに動き出した。
「水篠君?」
水しぶきが上がっている場所に近づいてみると子どもが見えた。
足がつかなくて焦っていたら沖に流されてしまったのだろう。
僕は子どもをつかんだ。
僕はギリギリ足がつくので冷静でいられた。
でもその子は知らない男につかまれた恐怖と足がつかない恐怖で、パニックになって暴れてしまった。
『やばい』
そう思った瞬間足を滑らして深いところに入ってしまった。
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