好きな人と言われて答えたあずきちゃん

もりくぼの小隊

好きな人と言われて答えたあずきちゃん



「あずきさんは好きな男の子はいないのかしら?」

「……へ?」


 お昼休み、BLTサンドの隙間から溢れ指についたソースをチロリと舐めるヒカリちゃんが急にそんなことを言ってくる。私のお箸から一口だけ食べたアスパラベーコンがお弁当ご飯の上に落ちていった。


「ちょっと落下オッシーあずきにくだんないこと聞いてんじゃないわよ」


 隣でコーヒーデニッシュを食べ終えたモカちゃんがカフェオレ(一Lサイズ)をストローで飲みながら半目になってヒカリちゃんを見る。なんだかちょっと不機嫌そうなのはどうしてだろう。


「あら、くだらないとは思わないけど? モカさんだって好きな子のひとりはいるでしょう?」

「はっ、この舵束かじたば モカちゃんがそこらの男に興味持つわけ無いじゃない」

「ふふ、モカさんはそういうこと言うわけね」

「うん、言う、何度でも言う。男に興味は一ミリ秒も無いってもんよ」


 ヒカリちゃんが楽しそうにクスリと笑うのをモカちゃんはカレーパンの袋を開けながらニヤリと笑って返した。うん、いつもの二人のやり取りだね。私はホッとしてご飯の上のアスパラベーコンをつまみ上げて食べる。


「まぁモカさんはそれはそれとして、あずきさん好きな男の子いないの?」

ンッッつ!?」


 急に会話のボールがこっちに戻ってきた、私はアスパラベーコンを丸呑みしてしまい慌てて水筒のお茶を飲んだ。


「す、好きな男の子と言われても、そういうのは私よくわからないよ」


 ヒカリちゃんは恋バナというものが大好きだから逃してくれない。とにかく話題を消化しようと正直に答えると、ヒカリちゃんは人差し指を顎に当ててどうしてか、難しい顔をする。


「んー、あずきさんにも好きな男の子はいると睨んでるんだけどなぁ」

「に、にらんでると言われてもなぁ」

「そうそう、ニラんでもネギんでも本人がわから無いつってんでしょオッシー、はいはい、この話はおしまいにして今日の晩ご飯の予想でもしようじゃないッ」


 カレーパンを食べ終えたモカちゃんはヒカリちゃんの恋バナに興味無しとクリームパンの袋を開ける。


「お昼ごはんを食べながら晩ごはんの話とかさすがにどうかと思うんだけれど、しかし最近よく食べるわねぇ、ちょっと食べすぎじゃない?」


 ちょっと呆れた声でヒカリちゃんはクリームパンをモグモグしてるモカちゃんを見つめる。確かに、最近のモカちゃんはよく食べるから心配にはなるけど本人はケロッとしてる。


「そうかなぁ、確かに普通の女子よりはなんか食べられるようになったけど、ま、パン十個くらいなら男子の平均くらいじゃないの?」

「だ、男子もそこまで食べないような気もするんだけど――て、あれ、二人とも、もう食べ終わるのっ」


 モカちゃんは私が言い終わるよりも早くクリームパンを食べ終えてカフェオレも飲みほす勢いだ。ヒカリちゃんのサンドイッチもあとひと口で食べ終わりそう。このままじゃ食べ終わってないのは私だけになっちゃう。えと、あとお弁当ちょっとだからご飯にヒジキを混ぜて味つけ、よし、ご飯をカカッと掻き込んで終わりッ。


「おーい、松本さんいるぅ。大豆生まめおくんが呼んでるようッ」

「ッ っンん!?」


 急に声をかけられてヒジキご飯が喉につまって慌ててお茶を飲んだ。なにあれ、お弁当は食べ終える事ができた。


「ごめんごめん、ちょっと行ってくるね」


 二人に断ってから私は呼ばれた方に向かった。



「おまたせ、さっ――さとしくん。どうしたの?」


 私を呼んでた大豆生くんとは隣のクラスの「大豆生まめお さとし」くんの事だ。私の幼なじみでずっと小さな頃からの友だち。中学生くらいからちょっとギクシャクしちゃってたけど最近はまた前みたいに、とはいかないけど仲よくなれてると思う。たまに昔みたいに「さっちゃん」て呼びそうになっちゃうのを直さないと。


「いや、大した用じゃないんだけど……」


 智くんは散髪したてらしくツーブロックに刈り上げた髪をむず痒そうに掻きながら何かを言おうとして、私の隣へとなんだか視線を向けている。ん、どうしたんだろう?


「なんで、舵束も来てんだ?」

「ぇ、モカちゃん?」

「アタシが来て不都合でもあんの?」


 ヒャッ! ホントにモカちゃんがいる。わわ、ビックリしすぎて眼鏡が変な方にズレちゃった。えー、全然気づかなかった。モカちゃん気配消すのもうまくなってるのかなぁ。


「別に、不都合てわけじゃないけど……」

「んじゃ問題ないじゃない。てか智、わざわざうちのクラスまで来てあずきになんの用よ?」


 なんだかモカちゃんは智くんに当たりが強い。中学の頃からずっとなんだけど最近はさらに強くなった気がする。


「マズったなぁ、ごめん松本あずき、また後にするよ」

「はあッ、なによっ、アタシがいてなにがマズいのか言ってみなさいって――ちょっと待ちなさいよ智ッ」


 モカちゃんから逃げるように智くんは帰って行ったけどモカちゃんはすぐにあとを追いかけてしまった。智くんとモカちゃんのなにか言いあってる後ろ姿を見ながら私は――


「あれで男の子に興味無いて言うんだものねぇ」

「ヒャうぃっ!?」


 ――後ろから耳元に吐息を吹きかける声にゾクゾクッとして変な声が出ちゃった。振り向くとそこには目をキレイに細めたヒカリちゃんがいた。


「ん〜、どんな形であれモカさんの視界に一ミリ秒以上入る男子は大豆生くんて事ね〜、ウフフフ」

「ひ、ヒカリちゃん。目が楽しそうで怖いよ?」

「と・こ・ろ・で~、モカさんがいない間に、好きな男の子のタイプ。教えてくれないかしら~?」

「え、えぇっ、そんなこと言われても、ええと」


 ヒカリちゃんはなんでだか私に好きな人がいるって勘違いしてるみたいで、まだ聞きだすのを諦めて無かったみたいだ。そうは言ってもそんな恋愛的に好きな男子なんて私いないんだけど、でも、タイプて言ってるからとりあえずなにか言ったら納得してくれるのかな。え~と、えぇ~、うーん。


?」

「な……なんか、意外すぎてさすがにビックリしたけど、随分個性的な方が好きなのね、ウフフ、あずきさんは年上おじさま好みと──よし、記憶完了インプット

「ぇ……ワファアアッ! 今の言葉ナシナシ変なこと口走っただけだから消去デリート、記憶から消去だよヒカリちゃんッ!」


 あぅぅ、なんで思い浮かんだのがおじさんだったの、子どもの時とこの前のハロウィン二回しかあったこと無いのに、名前も知らないのにぃ。なんでえぇっ。



 了


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