第8話 人体実験♪ 2

「何泣いてんだい?そんなに不満だったのかい?」ほぼ空になった盆の上の皿をゆっくりとばあちゃんは見渡した。

 僕は叱られる犬のように肩を落した。

「その割りにはすっかり平らげているし、どうゆう了見だい?」

 含みを混めた笑顔で僕に問いかけた。

 結局僕はばあちゃんの掌で一人、癇癪を起こして踊らされていた。こうなったら言うことは決まっている。

「ばあちゃん。ごめん」

 最後のおにぎりを口に突っ込んでもごもごと謝った。

 ばあちゃんは仰々しくとんでもないっといった表情を作りながら言った。

「何であんたが謝るのさ?謝らなきゃならないのは、この愚かなばばぁーの方さね。あんたの気持ちも考えずに、ありきたりで、平凡で、月並みな料理を、これっぽっちしか作らなかったのだからね。おぉ許しておくれー不幸な孫よぉ~」

 おおげさな身振り手振りをつけて天を仰いでいる。

 僕の食事前に抱えた不満を一つずつ眼前に並べられた様な恥ずかしい気持ちになった。ばあちゃんは俺を掌に乗せて踊りだしている。

 反抗は無駄だろう、最初からこうなることをばあちゃんは想定して行動しているのだから。さっさと自分の非を認めた方が懸命だ。

「悪かったよーおばあちゃん。お腹減っていたから気が立っていただけなの、ごめんね」できるだけ子供らしく可愛く見える様に心がけた。

 ばあちゃんはまだ渋い表情を崩さない。

「ほら、何処かの偉い人も言ってるじゃん。空腹が無くなれば戦争も無くなるって」

「わたしゃー知らない」

「ぼ、僕も知らないけど、僕が思いつく様な事はこの世の誰かが既に言っているはず」

 ばあちゃんは渋い表情のまま唇を突き出している。

「ご飯の内容も量も大満足でした。ステーキなんか出されるよりも、いつも食べているもので良かったよ!日々どれだけ美味しいものを当たり前に食べて来ていたのかが判ったもんね」

 ばあちゃんの表情を伺うと、もう一声!そう顔に書いてある。

 おいおいめんどうくせぇーな。内心思う。

「それにさ、ばあちゃんあえてサンドイッチとかおにぎりとか、普段から食べているものを作ってさ、それを食べられることがどれだけ特別で幸せなことなのかを、僕に教えてくれたんでしょ?やっぱ凄いなぁーおばあちゃんて」

 わかればいいんだよ!そう言ってやっと顔を綻ばせた。子役よろしくの演技に効果があったようだ。

 デザートだと言ってアイスを持って来てくれるご機嫌振りだ。アイスと逆の手には用紙が数枚握られていた。

 さっきと同じ場所に婆ちゃんは腰掛けた。

「本当なら一時間毎に同じテストしてさ相関と標準偏差も計算したかったなぁ」とかブツブツ言いながら食卓に用紙を並べた。

 アイススプーンを銜えながら覗き込むと、小さな点が線で繋がれた図が幾つも並んでいた。これが何かを聞いてみた。


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