第13話 透明のヒーロー

「くそー隊長がやられたー」

「何処に隠れたー」

「不意打ちとは卑怯だぞー」

「出てこーい」


声を出して少し焦ったが勇者達は、獲物であるスライムしか見ていなかったようだ。

まだ俺の存在に気がついていない。

俺は素早く隙の多い奴から切り倒した。

正々堂々なんてくそ食らえ。

人間を殺そうとしている奴の背中から剣を深く差し込んだ。


次々勇者を倒していると、勇者達も異変に気が付き始めた。

誰にも攻撃を受けていないのに血を吹き出し倒れる勇者。


「信じられんが透明だ、透明の敵がいる」

「気を付けろー透明の敵がいるーー」

「がはああーー」


「うるさいよ、お前! お前達は、神殿でよみがえるのかもしれないが、こっちは死んじまったらお終いなんだ!」


その後警戒する勇者だったが、後ろから忍び寄り全員討ち取ってやった。


「うわあーーーーっ!!」


歓声があがった。

そんなことよりサエだ。

バリケードの中は、死体だらけだ。

一人で何人殺したんだあいつら。


「さえーーーっ!」


返事はなかった。


「くそう。可哀想に、折角これからってー時に……」


探すのを諦めて、帰ろうとしたら、見慣れたパジャマがあった。

そんなもんだ、必死で探していると見落としてしまう。

落ち着いたらこんな近くにある。

サエのパジャマは血だらけでうつ伏せになって倒れている。


「可哀想に……」


最期に一目顔だけ見ておこうと思った。

死体だというのに、気持ち悪さはまるでなかった。

サエの周りには幾つも死体が倒れている。


「痛かっただろうな」


「わーーーーっ!!」


サエが大声を出して起き上がった。


「うおっ!」


「くすくす」


「な、なんだ、何なんだ」


「死んだふりでーす。よかった来てくれて、うふふ……」


サエは生きていた。

しかし俺が来なかったらどうするつもりだったんだこいつ。


「その血は何なんだ」


「これは、ガドさんに抱っこしてもらった時に付いたものですよ。ケガはしていません」


「そうか、よかった」


「すごいですねガドさん、皆やっつけちゃった」


「なあ、あんた、ここに透明のヒーローがいるのか」


独り言のように会話をするサエに見知らぬおっさんが声をかけた。

気が付くとサエの周りに人垣が出来ていた。

一杯死んでいたが、一杯助かっていた。


「くすくす、いますよ。でも、こんなに集まったら、シャイな人だからいなくなりますよ」


「じゃあな、サエ。元気でな」


俺は、人垣を飛び越え、走り去った。


「ありがとうー」


後ろで感謝の声が聞こえた。




他に勇者がいないか、見晴らしの良い場所から周りを見渡してみる。


近くの公園に鎧の勇者が二人いる。

だが人間は近くにいない。

放っておいても良さそうだが、他に勇者もいないので、勇者に実験したいことがあるから、相手をしてもらうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る