第129話 シャーロットが金を転送した

  *  *  *


「シェルオープン。シャーロット、今話せるか?」


 夕食を終えた俺とラビィはナタレの宿の寝室に居た。一人用の個室に、折りたたんだ飛行凧を持ち込んでいる。羽根のパーツがかさばるが、それはまるで背負うタイプのスーツケースの様だった。ミノはベッドの上でごろごろと意味もなく転がっている。


 ラビィはナタレの街で仕入れた保存食などパッキングしていた。


「いいですわよ。何か分かったのかしら?」


 俺が呼びかけて暫くすると、シャーロットの声が巻き貝の魔法装備アーティファクトから聞こえてきた。


「石化の原因が分かった。それと石化を解除する方法を得られるかも知れない」

「本当に? いつごろ入手できそうですの?」

「残念ながらそれは分からん」

「……そうですか」

「ちなみに石化の原因はコカトリスの血をパイラが飲んだからだ」

「コカトリスの血……。でもお姉様は液体を入れる容器は持っていませんでしたわよ?」

「ああ、それには事情があって今は詳しく話せない。そっちでもコカトリスの血を飲んで石化した人間を、元に戻す手段を探ってくれ」

「分かりましたわ」

「今日の連絡はそれぐらいだ。解毒剤の原料の方は進捗はない」

「そうですか。シャルに連絡することは有りますか?」

「いや、無いな」

「そうですか。では切りますね。シェルクローズ」

「じゃあな。シェルクローズ。……石化の解除方法が分かったと言ってもな……」

「ん? どうしたんだ親父? 辛いことがあるんだったらボクの胸で泣くかい?」


 床の上に胡座をかいて座っているラビィが、テーブルの上に居る俺に振り返って言った。


「いや、それは良い。良いんだがテロワールを説得できる武力が必要なんだぞ。それができる可能性が有るってのがモモと言うのがな……」

「どうせ親父はモモの姉貴も探し出す気だったんだろ? ちょうど良いじゃないか。まぁ、ボクとしては姉貴じゃなくお袋でも良いんだけどね。ずっと親父を独占できるし」


 荷造りの作業に戻りながらラビィは言った。


「そうなんだが、あいつは何処に行ったんだ?」

「それはボクにも分からないよ。おや? 親父! フールドから返信が来ているぞ!」


 解毒薬の材料の一つであるエルヴンディルの情報を、伝文の魔法羊皮紙をつかってフールドに尋ねていたのだ。


「何て書いてあるんだ?」

「入手可能。見つけたら連絡する。金貨八枚。だってさ。ボクには手が出ない額だな。シャルだったら用意できるんじゃないかな?」

「いや、もっと良いヤツが居る。シェルオープン、シャーロット、もう一度良いか?」

「……、良いですわよ?」


 すぐにシャーロットから返事があった。


「金貨八枚を送ってくれ、エルヴンディルが入手できそうだ!」

「本当ですの!? 準備ができ次第呼び出しますわね」

「ああ、頼む。シェルクローズ」

「シェルクローズ」


 再びシャーロットとの通話を切った。


「シャーロットの方が金持ちだからな」

「なるほどね」

「金が沢山あるんじゃったらワシの神殿を作れるのでは無いか? やはりあの金髪娘をワシの信者にすべきじゃの……。あの庭園のある城をワシの神殿にしても良いのじゃがなぁ」


 ミノが妄想を口に出していると、


「エコー、準備が出来ましたわ」

「シェルオープン。随分と早いな」

「もちろんですわ。ダイアナは手元に有りましたから、金貨を用立てするだけですの」


 ラビィが手が出せない額の金貨をほいほいと用意できるのか……。


「あ、ああ。転送するのか?」

「飛ばしますわよ。準備をして下さいな」

「ちょっと待ってろ」


 目の前に護符タリスマンのダイアナが転移されても布団が受けてくれる様にするため、俺はベッドの上に移動した。


「いいぞ」

「では、行きますわよ。三、二、一、今」


 昔パイラが使っていたタイミングを取る言い回しをしたシャーロット。その掛け声と共に目の前にダイアナと小袋が転送されてきた。その中に金貨が入っている様だ。


 ダイアナの上に小袋を置くだけで、転送の呪文スクリプトはダイアナが小袋を持っていると見なすのだ。持っていると見なした物は一緒に転送される。


「ふぉぉ!! 転送魔法じゃ!」


 驚きながらも転送されてきた小袋に駆け寄るミノ。


「無事、飛んできたぞ。ダイアナは暫くこっちで預かっておく」

「ええ。それから金貨は余分に送っておきましたから、ご自由に使って下さいな。足りなくなったらまた連絡いただけたら送金しますわよ」

「ああ、助かる」

「お姉様をもとに戻せるのですから、お安いものです」

「じゃあな。また何かあったら連絡する。シェルクローズ」

「ええ。朗報を待ってますわ。シェルクローズ」

「ラビィ、金貨を確かめてくれ。あとダイアナも持っててくれるか?」

「ああ分かったよ」


 ベッドによってきたラビィは、ミノから金貨が入った小袋を取り上げた。


「ワシの金ぇ」

「親父、十枚有るぞ? 二枚残るから贅沢しなければ半年は暮らせるな」


 手の平の上の金貨を数えたラビィが言った。


「こっちの金の価値はよく分からん」

「そんなこと言ってたら、立派な商人になれないぞ?」

「商人になる気はないぞ」

「ははは、じゃあ明日からボクが一から教えてあげるよ」

「……、人の話を聞けよ……」




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