第126話 連絡手段を構築した
* * *
エクリプス領を立って数日後、ラビィと俺はセカルドの街に到着して直ぐに、シャルの作業場に居た。シャルは椅子に座って工作している最中だった。俺は作業室に入るなり作業台の上に陣取った。俺の背から飛び降りたミノは、作業台の上に置かれている様々な工具を物珍しそうに眺めている。
「ラビィ、早速だがガーベラをシャルに渡してくれ」
「ああ、これだよ。それから、ただいまシャル」
俺がそう言うと、ラビィがポーチから
「なぁシャル、この作業台の何処に
「今から見せるのです。それから、お帰りなのです」
シャルはそう言うと、今までこっちを見ずに行っていた工作を止めた。そして大きめの作業台の中央に素早く飛び乗り、天面の小さな穴に両手に持っているそれぞれの工具を突っ込む。そして左右それぞれで違うタイミングで工具を捻ると、カチリと音がして天面の一部が開いた。
そこには深さ数センチの隙間があり、その中央に
「それはダイアナだな。じゃあそのガーベラをダイアナの代わりに納めておいてくれ」
「あとはフィーナが転送されてくるのを待てば良いのですね」
「ああ、予定では今夜だな」
「そんな事より、ですよ」
シャルは作業台から飛び降り、手の平を上にした右手をラビィに差し出した。
「ん? なんだい?」
「お宝です」
「ああ、あれね。ちょっと待っててくれよ」
ラビィが作業室を飛び出し、暫くするとミノが居た遺跡で入手した金属製の円盤と仮面を手にして戻ってきた。
「はい、これ」
ラビィの手からそれを素早く受け取ったシャルは仮面を作業台に置き、円盤の方をいじくり回し始めた。
「……」「……」
作業室に金属が触れ合う音だけが支配した。シャルは手元ばかり見続けている。
「……ラビィ、急いで此処に戻ってきたんだから疲れたろ、少し休むか?」
ガーベラを作業台に設置したし、ひとまずはすることがない。
「そうだね。じゃあ、一緒にお風呂に入ろう。親父も疲れただろ?」
「いや、お前と風呂なんぞに入った方が疲れそうだ。遠慮するよ」
「じゃあ、お風呂は省略して一緒に寝る――」
「却下」
「ぐ……」
ラビィは不満な様子で頬を膨らませていた。
「二人共、じゃれ合うのは良いのですけど……」
シャルが円盤を持ち上げ裏表を見ながら言った。
「なんだ?」
「エルヴンディルの入手方法はこの街では見つからなかったのです。少しでも情報を得たいのでしたら、ラビィが見つけた
「あ、ああ」
まぁ、それはシャルに言われるまでもなく、これからやろうしていたことだったが……。
「よし。じゃあ親父、ボクの部屋に行ってフールドに連絡しよう。伝文の魔法羊皮紙に何て書いたら良いか、教えてくれよ。ベッドで一緒に仮眠するのはその後からでも良いじゃないか。な?」
満面の笑顔で言い放つラビィ。
「な? じゃねえよ。フールドに連絡するのは良い――、グエ」
俺が全てを話す前に、ラビィに掴まれ拉致された。
* * *
フールドにエルヴンディルに関する質問の伝文を送り、夕食を取った後、俺とラビィとシャルが作業室に集まっていた。ファングは別室でエティを寝かしつけている。ラビィは手持ち無沙汰だから何か持ちたいと言って、俺を抱きしめていた。
シャルが円盤の調査を終わらせ仮面を眺めている。それは額と目と頬を覆う仮面なのだが、目の部分に穴が空いていない。仮面の全面は白いが、鼻梁を堺にして左右対称の緑色の模様が施されている。
「遺跡から持ち帰った円盤や仮面に何か変わったところは無かったか?」
パイラとシャーロットがあの遺跡に逃げ込んだとき、パイラが能力を使って祠の周りのアイテムには魔法が掛かっていないことを確認したことは覚えている。
「双方とも技巧が凝っているのです。今ではわざわざ時間を費やしてまで施さない様な加工なのですけどね。アタシとしては興味深いですけど」
「円盤は何のために作られたんだ?」
「分からないです。鏡として使われた調度品の様ですし、暗器でもあるようですね」
暗器? 暗殺用の道具ってことか……。
「材質は? 未知の素材で作られているって事は無いのか?」
「鉄ですよ」
あっさりと答えるシャル。
「……、そうか。そっちの仮面はどうだ? それを被ると正面が見えなくなるだろ?」
「甲殻類の魔物の素材から削り出した面の様ですね。表面が大分曇ってしまっていたので磨いてみたのです。すると、内側からは外側を見ることができ、外側からは中を見ることはできない事が分かったのです」
一方から光を通すが、逆側からは光を通さないと言うことか?
「……と、言うことはつまり?」
「目元を隠す立派な仮面だってことですよ。それ以上でもそれ以下でも無いのです」
「まさか、もう被ったのか?」
「もちろんですよ。単なる仮面ですからね。こめかみ辺りしっかり挟んでくるので、紐がなくてもしっかり装着できますよ」
「……」
「ボクのゴーグルに代わりうるものなのかい?」
俺とシャルの会話を大人しく聞いていたラビィが割って入ってきた。
「今ラビィが持っているゴーグルの方が機能的に勝ってるのです。こっちの仮面は強度が無いので、本当に仮面としてしか使えないのです。アタシは充分分析したのでこっちの仮面は持って行ってもいいですよ?」
「そうかい? じゃあ何処かで売れるかもしれないから貰っておくよ」
ラビィはその白い仮面をシャルから受け取った。
――と、その時、作業台の中央の1メートル上方に突然何かが現れた。それが作業台に落ちる前にシャルが素早く身を乗り出しキャッチする。
「
「なんて書いてある?」
「五分後にフィーナを転送するから、巻き貝の
「そうか」
そしてその五分後、巻き貝の
「シェルオープン、シャーロット、聞こえるか?」
「……、ええ聞こえますわ。以後毎日、フィーナは私の就寝前にそちらに転送します。そして、翌日の朝食を終えた頃にこちらに転送しますわ。それで良いかしら?」
「連絡すべき事があれば手紙を添えておくのです。臨時で送受が必要であればその旨を手紙に書いておく様にするのです」
シャルは新たに始めた工作から目を離さず言った。
「俺とシャーロットは巻き貝の
そう言うと、シャルが右手で作業を続けながら、親指だけを突き出した左手を俺に向かって差し出した。
「それから明日、パイラが入手した石化の方法を求めてセカルドを出発する。その状況は必要に応じてシャーロットに連絡するから、それをシャルにも伝えておいてくれ」
「分かりましたわ」
「今日は、それくらいだな。通信を切るぞ?」
「ええ。では、なるべく早く石化を解除する方法を見つけてきて下さい。それから解毒用のアイテムもです。シェルクローズ」
「ああ、もちろんだ。シェルクローズ」
こうやって俺とシャルは、エクリプス領に居るシャーロットとの通信手段を確保し、パイラを元に戻すアイテム集めの旅の準備を終えた。
「親父、明日も早いから、そろそろ寝る準備をするかい?」
なぜか、もじもじとしながら俺に寄ってくるラビィ。
「いいから、お前は湯浴みでもしてこい。俺は水浴びだけで良いからな」
「ちぇっ」
「で? 俺たちは何処に向かうんだ?」
「ナタレだよ。じゃあボクはお風呂でも入って寝るよ。ほら、ミノ、行くよ?」
そう言ってラビィは作業台の上のミノを連れて作業場を出て行った。
「何ですか? あれは」
シャルが作業場の出入り口を見ながら言った。
「ん? どういう事だ?」
「まるで小さな動物が此処に一匹居るかの様に振る舞っているのです。ラビィのその変わった行動のことですよ」
「ああ、遺跡でな、俺とラビィにしか見えない小人みたいなやつを見つけて、以来一緒に行動してるんだ」
「その名前がミノと言うのですか。……あなた達、頭は大丈夫ですか?」
「なぜだ?」
「幻覚を共有しているって事なら、よっぽどおかしくなってるのですよ。まぁ、アタシは魔法には興味が無いですけどね」
「こっちの世界は不思議がいっぱいだからな。気にした方がまいっちまうよ」
「そうですか。でしたら良いです」
ナタレに向かうのか……。
その街は、俺がモモに始めた会った場所だった。
◇ ◇ ◇
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