第125話 色々探す事が決まった
* * *
シャーロットとラビィがテーブルを挟んで座っていた。俺とミノはそのテーブルの上に居る。
石化したパイラを霊廟で見た後、俺は一旦宿屋に戻ることにした。そして改めてラビィを引き連れてシャーロットに面会することにしたのだ。ラビィと肩に止まっていたオウムの俺は、翌日にエクリプス城の来客用の門を訪れ、この客室に通されている。
「シェルオープン、聞こえるかシャル?」
俺は巻き貝の
「ええ、聞こえるのです」
巻き貝からシャルの声が聞こえた。
「ちょっと良いか?」
「ええ。アタシはいつもの様に工作をしているだけですから」
「今から作戦を練るから参加してくれ」
「分かったのです」
「じゃあ、始めるか!」
俺は手を叩こうとしたが、翼では小気味よい音が立てられないので嘴でテーブルをニ度突いてみた。
「じゃあ、まず自己紹介をしておこう。ボクはラビィ。パイラ姉さんの妹弟子さ」
「妹、弟子? ですか?」
シャーロットが作ったような笑顔で応える。
「ああ、シャーロットにはパイラが魔女だったと言っただろ? ラビィも魔女なのさ。それで、パイラと同じ師匠に弟子入りしてたって訳だ」
俺がラビィの代わりにその疑問に答えた。
「理解しましたわ。私はシャーロット=クロスコンと申します。パイルーナの兄であるエムレーダの娘ですから、パイルーナの姪です」
「ん? パイルーナって誰だい?」
ラビィにはパイラの本名を言ってなかったか。
「ああ、それはパイラの本名だ」
「え? 本名? ……なるほどね」
「ワシの巫女の本名じゃ」
ラビィは一瞬ミノを見たが、直ぐに隣の俺に目を向けた。
「それから、巻き貝の
「よろしくなのです」
シャルの声が巻き貝から聞こえる。
「それで? これからどうするんだい? 親父」
「ああ、パイラの状況はお前達に話している通りだ。だから解毒薬の準備と、石化の解除方法を探し出す必要がある。石化の解除方法のヒントは、パイラの石化手段を明らかにすべきなんだが……」
「その方法をお姉様はずっと身につけていた様なのですわ」
それはもしかしたら、自分の家族を皆殺しにされた復讐のために用意していたのかも知れない。実際は皆殺しにされたという事実はなかったのだが、捨てるわけにも行かず身近に保管していたのだろう。
「なぁ、親父。姉さんが使った石化の方法、出処を調べられるかも知れないぞ」
「本当か?」「本当ですの?」「まことか!?」
俺とシャーロットとミノの声が重なる。
「ああ、だけど確信は無いからなぁ、まずはそこに行ってからだね。あまり気が進まないけど」
「それは何処だ?」「どちらですの?」「いずこじゃ?」
「いや、ちょっと秘密の場所だから此処では言えないな。でも親父をそこに連れて行くから心配は要らないよ」
「そうか……。石化する手段が分かれば、解除のヒントも見つかるかも知れないな」
「ああ、直接聞いてみたらいいよ」
ある場所に行くと言う訳ではなく、ラビィの知人に会いにいく訳か。復讐しか考えていなかった箱入りのパイラと共通の知り合いと言えば、バーバラか……。あるいは、泥沼の人形
それは道中ラビィに尋ねれば良いな。
「もう一方の、解毒薬の材料はどうなんだ? 何が必要なんだシャーロット」
「入手が困難なのは、エルヴンディルとドラゴンの血ですわ。他の材料は手元にあるか、直ぐにでも調達可能ですの」
ドラゴンの血、か……。
「ドラゴンの血はどのぐらい必要なんだ? それにエルヴンディルって何だ?」
「血は一滴で良いですわ。念のために数滴。それからエルヴンディルは
「なるほど。シャル、エルヴンディルを知ってるか?」
「アタシに
おっと。シャルは
「分かった。だったらラビィと、それらを探しに出るぞ」
「もちろんだよ。パイラ姉さんを元に戻さないとね。親父と二人っきりの旅の
握りこぶしを胸に当てるラビィ。
「そうじゃそうじゃ。巫女を元に戻すのじゃ! それと、二人じゃなくワシも同行するぞ?」
「そうだな。だがその前に準備が必要だ。シャーロット、転送魔法は使えるか?」
「お姉様が用意してくれた転送魔法が幾つかありますわ。ただしお姉様が見つけたオリジナルの
「ふぉ! 転送魔法が使えるのか!? ワシの信者にならんかの?」
テーブルの上の魔導書のページを捲りながらシャーロットが言った。もちろんミノの声は聞こえていない。
「シャーロットは結局
「ええ、お姉様に感覚を共有してもらってそれらを見せてもらいましたが、私自身が使える様にはなりませんでしたの」
パイラが
「そうか。まぁそれは個性だから仕方ないな。お前はパイラより魔力量が桁違いに多いから、その特徴を活かせば良いさ。それで? 使える転送魔法はどんなものだ?」
「七つの転送魔法がありますわ。一つは、エコーを
シャーロットは頭を指さしながら言った。
「アリシアは今どこにある?」
「学園から退学の手続きをした後、お姉様の部屋から私の部屋に移してますわ」
「なるほど、他は?」
「二つ目は、エコーを
なるほど。ちょっと整理が必要そうだ。
「おい、ラビィ。お前のその喉元にはまだ
「もちろんさ。親父からもらった大切な贈り物の一つだからな」
「ふぁ、良いのう。ワシも何か欲しいのう」
襟と小さな前掛けをあわせた様なチョーカーを親指で示しながら言うラビィを、ミノは羨ましそうに見上げていた。
「シャーロット、シンシアはラビィが身につけている」
「分かりました」
それを聞いたシャーロットは魔導書に何かを書き込む。
「シャル、ファングが引いていた荷車に仕込んだ
「目の前の作業台に仕込んでるのです。あの荷車はもうお払い箱ですからね」
なるほど。あと、エレノアはバグ女神が居るあのふざけた場所のちゃぶ台に隠してあるが……。
「シャーロット、フローラとガーベラはお前が持ってるんだな?」
「ええ。持ってますわ」
「よし。それと転送魔法の確認だが、
「ええ。以前エコーと実験をした後も、お姉様と一緒に何度も確認しましたわ。装備品とみなされるものは一緒に転送されますの。ただし、人間が一般的に持ち歩かない物、例えば家具や家、池の水の様な液体、動物などは一緒に転送されませんわ」
「瓶に入れた水は転送できるよな? あと、この
「瓶に入れた水は転送できますし、
ん?
「……なるほど、そう言うことだということは分かった。よし、大体準備が出来そうだ」
「親父、どう言うことだい?」
「ああ、皆よく聞いておいてくれ。それを完成させるためには俺たちがセカルドに戻る必要があるが、こう言う事だ。俺はアリシアとシンシアの所に転送ができる。つまり、シャーロットの部屋とラビィの元を自由に行き来できるんだ。それに、フィーナはアリシアとガーベラを行き来できる。なので、ガーベラをシャルの作業台に仕込めば、フィーナを伝書鳩の様にしてシャーロットとシャルが文通できる様になる。そして今シャルの作業台にあるダイアナはいつでも俺の元に荷物をお届け出来る様になるんだ。さらにダイアナは俺と一緒だったらアリシアがあるシャーロットの部屋に戻ることが出来るし、伝書鳩のフィーナを利用してシャルとシャーロットの間を行き来できる」
「な、なるほどね」
ラビィに俺の話が理解できたか理解できなかったか分からないが、シャーロットは魔導書に何かを描き込んでいた。ミノは目を回しているから論外の様だ。
「転送魔法はシャーロットが使わなければならないがな。シャル、そっちはどうだ?」
「ええ。理解できたのです。転送魔法をするタイミングをより精緻に行うにはアタシが持っている巻き貝の
相変わらずシャルは切れる様だ。転送手段よりも円盤の方を気にしている様なのはアレだが……。
「よし! さっそくだがセカルドの街に戻るぞ。ラビィ、先に宿屋に戻って出発の準備をしておいてくれ、おれは後から飛んで宿に向かう。シャルはさっき言ったパイラが元に戻るためのアイテムが入手可能か調べておいてくれ。じゃあ切るぞ、シェルクローズ」
「ファングにも調べさせますよ。シェルクローズ」
「じゃあ、ボクは宿で待ってるからね。早く戻ってきてくれよ」
ラビィはそう言って客室を出ていった。ミノは俺から離れずにその場に居た。
「なぁ、シャル、昔、
「ええ。小さな炎を出す魔法ですわね?」
「ああ、ニードルバレットでも実験したって事はないか?」
もしかしてと言う期待をしながら俺は聞いた。
「しましたわ。ニードルバレットは術者の左腕から射出できるのですが、人オブジェクトである
「それはお前の
「ええ」
「どの
「フィーナですわ」
「そ、そうか……」
まぁ、普段は伝書鳩として使っているが、いざとなればダイアナにフィーナを運ばせる手もあるか……。
「どうしてですの?」
「いや、俺は何の力も持っていないオウムだろ? 護身する術もない。フィーナを身に着けておけば、いざとなればお前にニードルバレットを発動してもらえると思ったんだ。だが、フィーナは伝書鳩役にする必要があるからな……」
「そういう事ですの……。でも代替案はありますわよ」
「どういう事だ?」
「私、ニードルバレットの
「
「ニードルバレットの
「ありがたい、それで充分だ。念のため、俺の羽の属性が術者の腕の属性として代替できるか確認しておきたい」
「良いですわよ。エコーの場合でしたら、左腕の方向ではなく体の正面にした方が良いのではないですか?」
「出来るのか?」
「ええ。小さな火を出す魔法は体の正面方向の属性を使ってますから、それを応用するのです。その確認も合わせて上の庭園で試しましょう」
「それは助かる。そうそう、パイラが入手した転送魔法は学園の古い書架に有ったらしい。
「手配しますが、それを入手するよりお姉様が元に戻れる方が先であることを期待してますわ」
「それもそうだな」
パイラを元に戻すという共通の目標があるため、以前は溢れ出ていた俺に対するあからさまな敵対心は、今のシャーロットには見られなかった。
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