第123話 シャーロットを見つけた
* * *
広い平野の所々に二十メートルぐらいの高さの岩山がポツポツと散在している。それらの岩山は一様に、上面がテーブルの様に平らである。その岩山の中の一つの南側に街が発展していた。エクリプス領の首都エクリプスだ。
エクリプスの街の北に位置する岩山、その南側の急な斜面に張り付くように城があった。その城の足元では、塔と城壁で区切られて段差がある複数の庭が形成されており、上部は岩山の頂上から頭を飛び出している。時折、伝書鳩が頂上より高い塔の一つから出入りしていた。岩山の南側以外も
その岩山の頂上の木の一つに俺は止まっていた。ミノは俺の後ろで首に跨り、ハーネスから伸びた紐を掴んでハーネスに座っている。ラビィは宿屋を確保した後、エクリプスの街を探索しているため別行動だ。
俺たちの目の前に広がるのは立派な庭園だった。
「ほわぁ、立派な庭園じゃのう。ワシの神殿の庭園もこんな感じが良いのぉ」
その神殿がいつ手に入れられるかを脇に置いて、ミノが感嘆の声を上げている。
「とりあえず、無策で来てみたが……」
城の背面がテラスになっており、そこから階段で庭園に繋がっていた。その庭園は直線で構成された人工的な意匠ではなく、曲線を多用している。曲線と言うより自然のままを重視した構成といった方が正しいのだろう。庭園の中央は短く刈り込まれた芝が敷き詰められており、そのエリアを挟む様に花や野菜が植えている様だ。花壇というより、小さな畑だな。
庭園の一旦に色々な花や植物で囲まれている小さな池があった。その
今まで気づかなかったが、そのガゼボに人が居るようだ。
「ガゼボに誰か居る様だな」
「此処の住人かの? 少しで良いから庭園を分けてくれんかのぉ? いやいや、それよりワシの信者になってくれんかのぉ?」
俺の後頭部でミノは、簡単には叶いそうにも無い欲求を撒き散らしていた。
「ミノ、飛ぶぞ」
そう言って俺はガゼボに向かって飛び出した。ガゼボの中の人間の背後を取る様にしながら近づく。
中の人間は女性だった。金色の縦ロールの髪を背中に垂らし、本を読みながらお茶を楽しんでいる様だ。ただし、テーブルの上には数多くの本が積み上げられている。
ガゼボで余暇を過ごすための読書なら、そんなに本を積み上げなくても良いはずだが……。
俺は一旦ガゼボの屋根に飛び乗った。そして、ゆっくりと足音を立てないように中の女性が向いている方の屋根に移動する。俺は屋根の先から落ちない様にしっかりと爪をかけ、ゆっくりと逆さまに顔だけを出してその人物を覗き込んだ。ミノは落ちない様にするために、文句を言いながら俺の尻の方に慌てて移動した。
二十代前半に見える女性が本のページをペラペラと捲っていた。その傍らには装飾された短槍の様な杖が立てかけられていた。
「あっ、あの槍!」
声を上げてしまった俺の方を見上げた女性は、ずいぶんと大人っぽくなったシャーロットだった。
「誰?」
誰何しながら、ゆっくりと左手をこちらに向けるシャーロット。
「まて、撃つな!」
俺はしがみついていた爪を離し、落下しながらくるりと体勢をかえ数回羽ばたく。そしてガゼボの手すりに止まった。ハーネスにしがみついていたミノが、大声を上げながらいつもの搭乗ポジションに移動した。
「エコー?! エコーなの!?」
シャーロットがテーブルに両手を突いて身を乗り出す。同時に押しのけられたティーカップが床に落ち、割れる音がガゼボの中に響いた。
じっと俺を見つめるシャーロット。ほんの僅かの後、驚きで見開いたシャーロットの両目から大量の涙が溢れ出した。
「エコー! お姉様が! お姉様が!!」
その後、悲嘆にくれたシャーロットとまともに話せる様になるまで、しばらくの時間を要したのだった。
* * *
「エコー、あなたに見せたいものがあります。私に付いてきて下さいな」
丁寧だが有無を言わせない口調でシャーロットが言った。
「ああ」
俺はシャーロットに導かれるまま、ガゼボを離れ庭園の一番奥に向かって行った。柔らかそうな布地で覆われているだけのシャーロットの肩には止まるわけもいかず、俺は空中を旋回しつつ付いていく。
移動している間、シャーロットは一言も話さなかった。
暫くすると、こじんまりとした真っ白な石造りの建造物が見えてきた。シャーロットはそこに向かっているらしい。まるで霊廟の様な建物である。
「って、おい! まさか……」
つい声に出てしまったが、それを聞いてもシャーロットは黙ったままだ。
入り口の手前の階段を数段上り、金属製の重厚な扉に手をかけるシャーロット。そして体をやや傾けながら重そうな扉を開いた。
扉の向こうは小さな部屋だった。壁には天井に近い位置に明り取り窓があり、シャーロットが開いた扉以外の開口部はなかった。そしてその中央にベッドが一つ置かれている。そのベッドには石で作られた人形が服を着て横たわっており、胸より下には掛け布団がかけられている。
そしてその人形は、パイラそっくりだった。
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