第120話 再び遺跡を見つけた

  *  *  *


 翌日、畳んだ飛行凧をラビィが担いで徒歩でラマジーの街を出た。しばらく街道沿いを黙々と歩いたラビィと俺。すれ違う荷車や人々に変わった様子もなく、歩みに合わせてゆっくりと時間が経っていった。


 手頃な街道脇の森を見つけ、人目につかない様にこっそりと中に入って行った。そこで飛行凧を展開しエクリプス領の主城に向かい飛行を開始した。その街もエクリプスと呼ばれている。


 ラビィの能力を利用した足元のロケット推進でまず垂直に上昇し、徐々に進行方向に傾けていく。水平速度が遅いときには真下に向けたロケット推進だけで揚力を得ていたが、速度が増すと飛行凧が徐々に風に乗る様になる。


 ほぼ水平飛行に移行した頃、


「なぁ親父、あれが見えるかい? 進行方向のやや左側の森の中なんだけどさ。回りを川に囲まれて、少し小高いところなんだけど」


 とラビィが言った。


 俺は凧の先端の空間にすっぽりと収まっている。その場所は正面と底面がガラス張りで風防になっており、上面は直ぐに飛び出せるように開口していた。シャルが出発前に凧を改造したのだ。もちろん俺のアイデアでだ。飛んでいる間ずっと、ラビィ体と凧の隙間に押し込められるのは勘弁して欲しかったからだ。


「なんだ? 変わったところはなさそうだが?」


 目が良いラビィには見えたとしても、俺には見えない可能性も有る。


「とっても古い人工物に見えるんだよね。あれ、遺跡じゃないか?」


 自称トレジャーハンターのラビィは、シャルから古代の怪しい物を収集する様に言われているしな……。俺がラビィと同行する条件でもあるが。


「遺跡なのか?」

「う~ん。立ち寄ってみないと分からないな。とりあえず寄るよ?」

「まぁ、シャルとの約束だしな」


 俺がそう応えると、ラビィは飛行凧の進行方向をやや左に向け、先頭をやや上に傾ける。飛行凧は一瞬上昇したが、ラビィが推進力を抑えたため、速度が落ちて緩やかに下降を始めた。


 上空から見ていると葉を広げた木々が地面を覆っているが、角度が変わってくると所々で蔦や根で覆われた石垣がわずかに顔を覗かせていた。移動するとその石垣は見えなくなるが、他の場所から別の石垣が顔を覗かせた。何十箇所で顔を覗かせた石垣をつなぐと、広い範囲をほぼ矩形で囲んだエリアがイメージ出来るようになってきた。


「親父、見えてきたかい? 石垣の中央あたりに比較的高い建造物がちらっと見えたから、そこに降りるよ?」

「分かった」


 飛行凧にうつ伏せに乗っていたラビィは、勢いよく前方に飛び出し凧の下に回り込んだ。そして凧にぶら下がる様な体勢をとりゆっくりと着陸をはじめる。


 着陸が完了する前に俺は凧から飛び出し、ラビィの横を一緒に飛んだ。


 地面が近づくにつれ、そこには巨木の根が絡まった釣鐘型の石造りの建造物の様子が明らかになってきた。その建造物の後方は小高い丘になっている。その丘の垂直に近い斜面に、その建造物は張り付いていた。


 あ!!


「おいラビィ! 俺はこの遺跡、知ってるぞ!」

「え!?」

「以前パイラとシャーロットが隠れた遺跡だ! そのとき、そのマチェットガンをパイラが手に入れたんだ」

「え、此処で!?」


  *  *  *


 その建造物に近づくと、あの時とほぼ変わらない様子で蔦の隙間から鉄製の扉が顔を覗かせていた。


「入れるかな?」

「分からん。パイラは空間移動の能力でこの扉を開かずに中に入ったんだ」


 俺はラビィの肩に止まって言った。


「ふ~ん。何かヒントは無いかな」


 ラビィは絡まっている蔦がある所はその裏側を覗き込みながら、鉄の扉の隅々を探りながら言った。


「あ!」「おっ」


 扉の横の石造りの一部の蔦を避けると、そこには変わった形の穴があった。


 扉の周囲の壁は、表面が随分と削れているが元々複雑な立体模様が掘られていたと思われる。そこに、表面がのっぺりとした直径二十センチメートルぐらいの円形部分があった。その中央に上部は直径三センチメートルぐらいの円形の穴が空いて、その下に約十センチメートルぐらいの縦長いスリットがあった。縦長のスリットは矩形ではなく下方に頂点が逆三角形なのだ。


「鍵穴っぽいけど、やけに大きいよな……」


 その穴を覗き込みながらラビィが言った。


「おい! 不用意に覗くなよ」

「大丈夫さ。う~ん、この穴は随分と深いね。ん? 円形の穴の中央に棒みたいな金属があるぞ? この円形部分に何かを突っ込むなら、筒状の物じゃなきゃダメだね」


 筒状の物って――


「あ!! おいラビィ、マチェットガンを突っ込んでみろ」

「そうか、なるほど!」


 ラビィはホルスターからマチェットガンを引き抜き、さらに刃先をカバーしている革を外した。


「差し込むよ」

「ああ」


 ラビィがすっとその穴にマチェットガンを差し込む。マチェットガンは抵抗なく柄のところまで押し込むことが出来た。


「……」「……」


 特に何も起こらなかった。刀身がすっぽりと壁に埋まったマチェットガンの柄は、壁から出ている取手の様だ。その柄にラビィが手をかけている。


「回してみるかい?」

「もちろんだ」


 ラビィが力を込めて左回りに捻ったがマチェットガンはびくともしなかったが、直後に右回りに捻るとゆっくりと回すことができた。


「お!」「動いたぞ!」


 マチェットガンを九十度回すと、金属の重い音が壁の奥で鳴った。


「開いた! のかな?」


 ラビィがそっとマチェットガンを穴から抜きながら言った。


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