第118話 今後のプランを話した

  *  *  *


 夕食が終わり、ファングはエティを寝かせにダイニングから退室した。シャルとラビィと俺は再び作業室に戻っている。シャルとラビィは作業台を挟むように座っており、俺は作業台の上に居た。


「それで、エコーはこれからどうするのですか?」


 シャルがラビィが買ってきたオリュポナイト製の歪な形の槍の穂をいじりながらシャルが言った。


「モモもパイラも探し出したい。パイラが居た方が探索が捗るだろうから、まずはパイラだな。しばらくはラビィの力を貸してほしい」

「良いですよ」「もちろんさ!」


 シャルとラビィの声が重なる。


「ただし、行く先々では変わった品物や遺跡探しは続けてほしいのです。それが条件です」


 シャルが続けた。


「分かった」「もちんさ」


 俺とラビィの声が重なった。


「あ、そうだ。俺とラビィは行動を共にするから、シャルと連絡が取れる様に巻き貝の魔法装備アーティファクトをシャルに持っておいてもらおう」


「そうですね」「それで良いぞ」


 シャルとラビィの声が重なる。


「俺のハーネスに付いている巻き貝はそのままにしておきたいから、ラビィが持っている巻き貝をシャルが持っててくれ。使い方は分かるよな?」


「ええ」「もちろん」


 シャルとラビィの声が重なる。


 ……。


 ラビィの方を見ると無邪気にニコニコと笑っている。


「ラビィ?」

「なんだい親父」

「ちょっと、黙っててくれ」

「ええ!」


 ラビィは驚いたように目を見開いたので、元から瞳が小さいのが更に小さく見えた。


「じゃあ、黙っておくから親父もじっとしておくんだよ」


 ん?


 突然ラビィが俺を自分の方に引き寄せ、がっしりと両腕で抱え込まれた。


「は、離せ」

「話すなって言っただろ?」

「そうじゃない!」

「まぁ、良いじゃないか。ほらシャルが待ってるぞ」


 ラビィと俺がじゃれ合っていても、こっちを見ずに相変わらず歪な形の槍の穂先を指先でそっと突いているシャル。


「おいラビィ、大人しくしてろよ」


 声を立てずうんうんと頷くラビィ。


「なぁシャル、そのオリュポナイトってのはお前なら加工できるのか?」

「加工方法は知ってるのですが、実際にやったことは無いですから試行錯誤が必要ですね。なにせ、世に出回らない素材ですからね。なのでラビィに、もし機会があれば入手するように言っておいたのです。流石にマチェットガンを練習台には使えないですから」


 工具棚からヤスリやヤットコ、金槌などを取り出しながら答えるシャル。


「もし加工が可能になったら、何を作るか決まってるのか?」

「まずは、ラビィのブーツの底の椀型にへこんだ部分ですね。鉄で作っているのですが、長いこと使っていると交換が必要ですし、威力をあまり上げ過ぎない様にする必要があるのです。ラビィも今は威力を抑えて気を使いながら使ってるのですよ」


 シャルがそう言うと、ラビィが黙ってしきりにうなずいていた。


「ああ、その部分はノズルと呼ぶぞ。ラビィの靴のノズル以外は何かあるか?」

「特にないですね。と言うよりエコーが何かアイデアがあるのではないですか?」


 それはもちろんある。主にラビィの武器だが、ライフリングの溝が作れないかとか、先込め式じゃなく元込め式に出来ないかとかなどなど。


「まぁ、それは後で説明する」

「分かったです。それは後でじっくり聞きますよ」


 ルーペの様な物を使って槍の穂を観察しながらシャルは言った。


「じゃあ、これからのプランだが、まず魔法学園のあるラマジーに向かう。そこでパイラを探そうと思う」

「エコーは人間に戻る事を望んでますから順当ですね。パイラが見つかれば良いのですけど。ただ五年も経ってますから卒業しているかも知れません」


 それも有りうるのか……。


「としたら、その先の足取りもそこで探るさ。王国の魔法兵長でもあるダーシュと言う教官がパイラを抱え込もうとしていたからそっちも当たれるかも知れない」

「なぜ抱え込むのですか?」

「十番目の大賢者にして転生者のアッシュの子孫らしい――」


 あ! 人間に戻る手段を探すなら、ダーシュと組む手もあるのか。しかしパイラ程深く魔法の解析が出来ている様子も無かったな……。


 そんな事よりパイラを探し出したいし、ダーシュと組む云々はその後の話だ。


「どうしたのですか?」

「あ、ああ、すまん。

 パイラと俺が探り出している魔法の仕組みの解析結果を一族内に留めておきたい様だ。だからダーシュはパイラとの連絡先も持ち続けてると思っている筈だ」

「なるほどです」


 槍の穂にヤスリを何度かこすりつけたシャルは、穂とヤスリの双方を見比べながら言った。


「だから、ラビィの手を借りたいのは、移動だけじゃなく交渉もやって欲しいからだ。俺が喋ると魔法使い達から怪しまれるからな。それに俺がパイラの使い魔だと知ってる魔法使いからすると、パイラ自身が使い魔を使って俺が話していると解釈される。とすると、パイラがパイラを探している事になるからな」

「なるほどです。ところで、そのパイラの使い魔をなぜラビィが同行させてるのですか?」

「ああ、パイラが長年飼ってた俺を使い魔にしたとするならば、パイラとの使い魔の繋がりが切れた俺が帰巣してラビィの元に辿り着いたと言えるんじゃないか? だからラビィがパイラを捜索しに来たと。パイラとラビィは昔、同居していたからな。それで問題ないだろ?」

「ええ、それで問題はないですが、一点指摘しておく事があるのです」


 シャルが作業の手を止め、俺を見て言った。


「なんだ?」

「パイラが死んでしまっている可能性が有ることです」


 俺が目を背けていたその可能性を、シャルは無慈悲に突き付けてきた。

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