第91話 シャルが推理を披露した

 ファングは既に食事を済ませてしまっており、座っているシャル後ろに両腕を組んで立っていた。シャルの背後を守っているとでも言うのだろうか。まぁ放っておこう。


 モモが頼んだ食事がテーブルの上に並べられた。とは言ってもチキンのシチューとパンである。修行マニアにしては意外にシンプルな食事である。


「親父! 近くにシャルは居るかい?」


 突然巻き貝の魔法装備アーティファクトからラビィの通話が届いた。


「シェルオープン。ああ居るぞ」

「頼まれていた調査だけど、急いで知らせた方が良さそうな情報があるのさ」


 俺はテーブルの端からシャルの肩に飛んだ。


「シャルです。知らせとはどういった事ですか?」


 シャルが巻き貝に喋りかける。


「例の孤児院で聞き込みしたんだけど、一昨日から孤児が一人行方不明なんだってさ。あと、今日も夜遅いのに二人が孤児院に姿を現していないらしい」

「それは誰から聞いたのですか?」

「キートォに直接聞いたんだ」

「キートォに変わった様子はありましたか?」

「普段を知らないからね。変わってるのか変わっていないのかは分からないよ。普通に淡々と喋っていたけれどね」

「……そうですか。新たに二人が行方不明ですか……」


 考え込んでいる様子のシャル。


「お願いが有るのですけど良いですか?」

「ん? 何だい?」

「今晩、キートォの部屋が何処なのかを確認しておいて欲しいのです。あと、できればその中の様子を探っておいて下さい。変わったことがあればエコーに知らせておいて欲しいのです」

「分かったよ。対価は親父に払ってもらうことにするさ」

「何でだよ!」

「あ、親父、今から潜入するから何か通信するときには虫の鳴き真似でもしてくれ。会話ができる様になったらこちらから返信するからさ。シェルクローズ」

「おい、ラビィ! おい! ……まぁ、潜入中は注意するのは分かった。シェルクローズ」


 俺は再びテーブルの端に移動した。目の前には俺のための小さなサラダが置いてある。


「確実な証拠は無いのですが、これ以上は待てません。明日の朝早く動くのです」

「ん。どう言う事?」


 モモがシチューの具を飲み込んで言った。


「十中八九、キートゥが屍食鬼グールを作り出す能力者なのです」

「え?! そうなの?」

「ええ。一番最初に屍食鬼グールを討伐しましたよね? その時キートォが現れました。そして一番最初の屍食鬼グールは埋めた筈なのに掘り起こされて消えています。モモがその屍食鬼グールの首を掘り起こしに行った時、周囲には何も無かったと言ってました」

「ええ。何も無かったわ」

「棺桶も無かったのですよね? 屍食鬼グール掘り起こして棺桶に入れて運んだと思うのです」

「なるほど。それから?」

「そんな事をする動機がある人物は誰か……。たまたま通り掛かった人がそんな事をする筈が無いのです。その状況を後から確認しようとするのは、その場に居た人物だけ、つまりキートォなのです。恐らく、モモが最初に討伐した屍食鬼グールはキートォにとって特別な存在だったのです。それをモモに壊された……」


 確かに一匹目の屍食鬼グールだけは良い服を着ていた。死体を食べていたときには上着脱いでいた。それは汚さない様にするため、つまりまた着るためだと言うことか?


「そのため、モモに仕返ししたのだと思うのです。例の小屋の家事も屍食鬼グールが放火しています。恐らく、キートゥは屍食鬼グールを作るだけではなく指示もできると思うのです」

「農民家族を襲った屍食鬼グールはモモに向かってこなかったぞ?」

「そこだけが分からないのです。セカルドの街門近くでモモに襲ってきた二匹の屍食鬼グールは的確にモモを襲ってきていました。屍食鬼グールに指示できる条件と、指示できない条件が有るのかもしれませんね」

「モモを襲わせようとした屍食鬼グールが間違って農民家族を襲ったのかも知れないな」


 俺は思いつくままに口にした。


「モモと共通点があれば間違って襲ったと言えるのかも知れないのですけど……」

「夫婦と女の子が乗った荷車に鳩がたむろっていた」


 ファングがボソリと言った。


 驚きの表情を浮かべ、背後のファングに振り返るシャル。


「それなのです! 数多くの人々が行き交う街道で、モモだけじゃなくモモ一行の特徴を利用して屍食鬼グールに襲わせる条件付けが出来るなら、あの状況が納得できるのです」


 俺たちが野営地を出発する前に見た街道を先行したの農民一家は、夫が荷車を引き、荷車には妻と女の子、そして穀物をついばもうとしている鳩が周りを飛び交っていた。それらがモモとファング、子供に見えるシャルそしてオウムの俺と共通していると言える……。さらにモモが単身で屍食鬼グールに近づいたときには、屍食鬼グールはぼうっとしていたな。


「それはつまり、キートォが近くに居るときには的確に屍食鬼グールに指示ができるが、近くに居ないときには条件付けして指示しておけるってことか?」


 俺はシャルに尋ねた。


「キートォの能力の詳細は確認のしようが無いのです」


 キートォを前にしていれば、パイラの能力で確認することもできるな……。


「ただ、キートォは少なくとも農民親子三人を屍食鬼グールを使役して殺害してます。そして、屍食鬼グールの素材は死体を調達したかも知れませんが、もしかしたら孤児院の子を三人殺めてます」


 シャルは静かに続けた。


「絶対に許さない」


 モモが怒気をあらわにする。


「ファング、明日の準備が必要ですからアタシに付いてきてください」

「お嬢の仰せのままに!」

「モモとエコーは食事を済ませたら部屋に戻っておいて欲しいのです」

「分かったわ」「ああ」


 俺たちの返事を確認すると、シャルはファングを伴って食堂を後にした。


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