第87話 使い魔の試験を行った

「え? どう言う事だ?」


 魔法学園に転送された俺は驚きを隠せない。


「契約魔法であなたを使い魔にしたでしょ?」


 パイラは説明を始めたが、厳密にはその契約魔法は失敗している。俺がパイラを使い魔として契約しているのだ。


『周りの目もあるから念話に切り替えるわよ。使い魔の講習をするから、使い魔共々出頭しろと言われたのよ』

『誰にだ?』

『使い魔の契約魔法の担当教官からよ。契約魔法の呪文書を借りたり契約手順を教えてもらう条件が、使い魔を得られた場合に講習を受講しなければならないと言う事なの』

『そうだったのか』

『ええ、すっかり忘れてたわ』

『おい! 忘れてたってお前、俺をモモに預けっぱなしにする気だったんだろ?』

『そのつもりだったれど、担当教官に使い魔を得た事がバレたの』

『言ったのか?』

『いいえ。教官とすれ違ったときに「使い魔を獲得できたのね」と言われたのよ』

『使い魔を得たら、それが判明するカラクリでもあるのかも知れないな』

『……、イエスよ。具体的な方法は分からないけど』

『能力で確かめたのか?』

『ええ』


 それはパイラが俺との契約に失敗しても分かるのだろうか――、いや! パイラはシャーロットと使い魔の契約を成している!


『パイラ! バレてるのは、シャーロットとの使い魔契約だぞ!』

『え!? 人間に契約魔法をかけたって知られたら不味いわ!』

『いや、ちょうど良かったんだ。その契約は俺との契約だと思い込ませれば良いんだからな』

『上手くいくのかしら』

『わからん。だが、逃れることもできなさそうだ』

『そうね……』


 数分後、肩に俺を止まらせたパイラは、数人の学生が集まっている広場に着いた。それぞれの学生は蛇や梟、黒猫、犬などを従えている。学生たちの集合の完了を待っていたかの様に中年の女性教官がその場に現れた。


「皆さん集まってくれてありがとう。まずは使い魔の獲得おめでとう、と言わせてもらうわ。あなた方が契約した使い魔は生涯の良きパートナーとなるでしょう」

『ふふ。よきパートナーですって』


 パイラが茶化して言ってきた。


『いや、俺は「生涯の」って言ってた方が気になるぞ。普通、動物の方が短命じゃ無いのか?』

『あら、言ってなかったかしら? 使い魔の魔法は動物の寿命を伸ばすのよ』

『逆だとどうなるんだ? 使い魔の方が長寿だった場合』


「ここで何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


 教官が尋ねると、パイラがそっと手を上げた。


「生涯のパートナーと言われましたが、使い魔の方が長寿の場合、例えばドラゴンなどを使い魔にできた場合は、契約主の寿命はどうなるのでしょう?」

「いい質問ですね。でも、それは分かりません。人間より長寿な動物を使い魔にした魔法使いはこれまで居ませんから」

「そうですか、ありがとうございます」『ですって』


 パイラは途中から念話に切り替え俺に言った。


『そうか』

『……、魔法使いの寿命は伸びるみたいよ』

『結局、能力で確かめたのか』

『ええ』


 まったく……。本当に便利な能力だ。


「他に質問はありませんか? ……無い様でしたら簡単な試験を行いますね。今連れている動物が本当にあなた方の使い魔であるかの試験です。あちらに幾つかの札が見えますね?」


 教官が指さした先には、八本の杭に引っ掛けられた八枚の札があった。それぞれの札には異なった記号が描かれている。


「私があなた方にこっそり記号を一つ見せますので、使い魔にそれと同じ記号が描かれている札を取ってきてもらいます。簡単ですね。使い魔は一旦杭の向こう側に控えさせて下さい。それでは移動を指示をして下さい」


『ですって。杭の向こうに飛んで頂戴』


 俺はパイラの肩から飛び立ち杭の向こう側に向かった。


『変な魔法を使われるかと思ったが、問題ないようだな』

『ええ』


 飛びながらパイラ達が居る方の様子を見ると、犬を使い魔にしている生徒とパイラ以外はその場にしゃがみ込んでいた。犬はこちらに向かって走り出そうとしていたが、彼らが抱えている使い魔たちはまだ動いていなかった。


『あ!』

「あら、二人だけが使い魔をもう使いこなしている様ですね」


 教官が言った。


『目立ちすぎ?』

『だな。ちょっと抑えるか』


 俺は意味もなく上空に舞い上がり、くるくると広場を飛んだ。


 座り込んだ生徒たちが更にうずくまるように小さくなると、使い魔たちが動き始めた。生徒が使い魔に憑依したり、指示したりしているのだろう。犬が杭の後ろでおすわりをして待機したのを確認した俺は、犬のそばに飛び寄り少し離れた地面に降り立った。


 しばらくするとすべての使い魔が杭の後ろに待機した。


「さて、準備ができましたね。それでは手前の方から私が示した記号の札を取ってくる様に指示してください」


 そう言うと教官は、周りの生徒にも見せない様にしながら一番手前の生徒にちらりと何かを見せた。


 それを確認した一番手前の生徒はしゃがみこみ、小さくうずくまった。


 杭の後ろに待機していた黒猫が動き始め、杭の前をうろうろとしはじめた。そしてある杭に飛び乗ると札を取り、うずくまっている生徒に駆け寄り咥えていた札をその手元に落とした。札を受け取った生徒は立ち上がり教官に渡す。


「はい、よくできました」


 そう言うと教官は手帳に何かを記録し、その生徒に取ってきた札を元の杭に戻させた。


 それから何人か同様の試験を次々と順調に行いパイラの番になった。教官がこちらに背を向けパイラの前に立つと何かをパイラに見せた。予めパイラの視界を共有していた俺は教官が見せた記号を確認した。


『これはなんの記号だ?』

『星という文字よ』

『なるほど。それを持っていけば良いんだな』

『ええ、私も他の生徒に合わせてしゃがんだ方が良い?』

『今さらだろ。目をつぶるぐらいで良いんじゃないか?』

『そうね。じゃぁ、よろしくね』

『まかせろ』


 俺は飛び立つと、八本の杭に付いている札を確認した。右から二本目の杭の札が星と書かれている。杭に止まりそれを嘴で掴む。そしてパイラの元に飛び寄った。


『ほら、受け取ってくれ』


 パイラは俺が放った札を受け取ると、それを教官に渡した。俺はその間にパイラの肩に止まっていた。


「使い魔は白いオウムですか。ハーネスが可愛らしいですね。合格です」


 教官は手帳に何かを記していた。パイラが杭に歩みより札を元に戻すと次の生徒の試験が始まった。


『これで終わりか?』

『さあ、どうかしら』


 すべての生徒の使い魔の試験が終わると、教官は生徒達を横に並ばせた。一番端の黒猫を使い魔としている生徒の前に教官が立っている。


「それでは、順番に使い魔を登録していきますね。まずは、あなた。黒猫に私の魔法を拒絶しない様に指示して下さい」

「登録って、何をするのですか?」


 黒猫の飼い主の生徒が問うた。


「その子が学園内でどこに居るか分かる様にするのです。以前護符タリスマンを皆さんに配りましたよね? あれと同じ様に登録していつでも位置を知ることができる様にするのです。使い魔に盗みや悪さをさせる魔法使いが居ないとも限りませんからね。もちろん拒否することは許しませんよ。まぁ、人間ではなく動物ですから位置を知られても問題は無いと思いますけど?」


 優しい口調だが厳しいことを言う教官。


『まずいな、俺は登録されたくないぞ』

『どうするの?』

『……どうしよう』

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