第41話 モモは大丈夫だった
* * *
宿屋の裏庭でモモが
昨日はチシャオーガーを討伐した後、チシャから請けていた人探しのクエストが失敗した事をクエスト斡旋所に告げ、その原因がオーガーが突然襲ってきて依頼者であるチシャを殺してしまったこと、そしてそのオーガーを討伐したことを合わせて報告した。証拠品としてチシャオーガーから回収した角をクエスト斡旋所に渡したモモ。斡旋所の受付のタタからは、こんなに短期間にオーガーを二匹も討伐するとは凄いことだと絶賛されていた。その時のモモは決して喜ばしい様子ではなかったが。
「なぁ、モモ」
「なによ。イメージトレーニングの邪魔をする気?」
「邪魔する気は無いんだけどな」
俺はモモの目の前の地面に降り立っていた。
「じゃあ、黙ってて」
「いや……、その額の傷のことなんだがな」
「なぁに、私に興味があるの?」
左目だけを開けて俺を見るモモ。
「そんな訳あるか」
「ふん、じゃあ邪魔しないで」
頬を膨らませて、再び目を閉じるモモ。
「いや~。興味があるな~」
「最初っから、そういえば良いのに」
再び左目だけを開けるモモ。
……面倒くさいやつだ。
「いいわ。あんたにも知っておいて欲しいから。私が赤錆の魔女だって知ってるわよね。その能力は何だと思う?」
胡座をかいたまま少し俺の方に上体を近づけるモモ。その両目は俺を真っ直ぐ見ている。
「触れた鉄を自在に操れるってことだろ?」
「それはある事件の後のことよ。それ以前はもっと強力な能力だったわ」
「もっと強力だと?」
「そうよ。触れた鉄であれば、手から離れても暫くは遠隔でも操作できてたの」
「ということはだ、お前が投げたクナイは自在に軌道を変えられたってことか?」
「もちろんよ。軌道を変えるどころじゃなく加減速も自在よ」
無茶苦茶な能力だな。
「その数は? 距離は?」
「一度には十個ぐらいね。代わる代わる操作する対象を切り替えれば倍ぐらいは扱えたわ。距離は二十メートルぐらい」
「……そりゃ凄かったな」
「殆ど使ったことがなかったんだけどね。母さん――、バーバラにその能力を見出されてから弟子入りしたんだけど、決して全力で使うなって言われてたの」
「全力で使うな? 全力で使ったら昏睡してしまうのか? いや、別の問題が発生――、オーガー化か!」
「概ね正解よ。バーバラに拠ると、感情任せにギフト能力を使うとギフト能力に自我を乗っ取られるそうよ。だから常々利用を抑える必要があるんだって」
「だが、お前は自制に失敗した?」
「そうよ」
「何があった?」
両手を後ろに回し後ろに仰け反った上体を支えたモモは、空を見上げた。
「う~ん、何ていうかその時はね……、妹は泥沼の人形
そりゃ、寂しかったからその感情に任せて能力を使ったって事だろうが。
「……いつのことだ?」
「二年前ぐらい」
「おい。そりゃあのでっかい穴ができた時の話じゃないか? そしてお前はオーガーに変身する直前に、バーバラに角を折られたってことか?」
「ええ、自分が自分じゃなくなっていく感じがあって視界がどんどん狭く暗くなっていったの。能力を使うのを
両手で何かを折る様な仕草をして見せるモモ。
「それから?」
「その後の記憶は無いわ。気づいたらベッドに寝かされていた。その時は、家に帰る途中に遭遇した謎の爆発の衝撃で吹き飛ばされて頭を打ったと思ってたのだけれど……」
モモは額の鉢巻きを右手で擦りながら言った。
「実際は気を失ったモモを移動させた後に謎の爆発を起こし、バーバラは予定通りに旅に出た……。そしてお前が言っていた発酵の術師のテロワールに能力の半分を奪われたってのは……、恐らく嘘だ」
「……能力を奪われた訳ではなかった。能力が弱まったのは恐らく、角を折られたのが関係していると思うの」
ギフト能力の暴走と、それを示す様な額の角の発現……。それを失うということは能力も失う、いや、弱まるということか。
モモの能力は、残った分だけでも強力だがな。
「テロワールの名は誰から聞いた?」
「
「バーバラの
「……無いわ。そういう術師が泥沼の人形
ハッとするモモ。
「そういう事か。で、お前はどうするんだ?」
「なんだかもう、どうでも良くなっちゃった」
「旅をやめるのか?」
もしそうなれば、俺はパイラの
「まさか!」
そしてモモはすっと立ち上がり、右手で抜いた剣をやや上方に伸ばし、左手を腰にあてた。
「ここではないどこかへ! 私の活躍を待っている世界中に! この世にオーガーになるかもしれないギフト能力者が居る限り私はそこに馳せ参じるわ!」
ああ、モモは大丈夫みたいだな。しかも治らないらしい。
◇ ◇ ◇
面白いと思ったり、今後のモモの活躍が気になっていただけたら、ハートや星で応援していただけると嬉しいです。
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