第8話 魔女と一緒に飛んでみた

「ぐ、ぐるじい、はなぜ……」


 風を切る様に森の中の小道を走るモモ。辺りは大分暗くなってきていた。


「あんた飛べるんでしょ? ちゃんと付いてこれる?」

「や、やっでみる」


 鷲掴みにしていた俺を乱暴に開放するモモ。空中に放り投げられた俺は翼を広げ羽ばたいた。


 と、飛べる! これがオウムの能力か!!


 いや、鳥なら普通か……。


 だがこの空を自由に飛ぶ感じ、気に入った。


『エコー、感覚を共有してもらっても良いかしら?』


 パイラからの念話に応え、すぐに俺が見聞きしている感覚の共有を許可した。


『ありがとう』

『見えるか?』

『ええ』

『なんでモモは飛び出したんだ?』

『モモの正義感が暴走しているのよ。ああなったら誰にも止められないわ』

『正義感だと? どうすれば良いんだ?』

『止められれば良いのだけれど、なかなか止まらないのよねぇ、あの暴走は』

『呑気だな、おい』

『まぁ、私は慣れたのだけれど。周りに迷惑をかけないことを祈るばかりだわ』

『祈るだけじゃなく、なんとかしろよ……』

『エコーの方がモモの側に居るじゃない。なんとかならないかしら?』

『お前なぁ』


 モモと俺は森を抜け、開けた場所に出た。


「ちょっと離れるけど心配するな。俺はちゃんとお前に付いていくからな」


 もう少し高度を上げて飛びたいと思った俺は、モモの近くに寄りそう言った。


「え!? あ、ありがと!」


 少し驚いた様子で走りながらこちらを見るモモ。全力で走っているせいでその顔は上気している様だ。


 俺は何か変なことを言ったか?


 モモが走っている細い未舗装の道は、外壁で囲まれた街に向かっていた。その外壁は、海でその一部を削られているが、ほぼ円形に配されている。濃い青色の空に浮かぶ鈍色の雲は、遠くの夕日に照らされて下部が茜色に染まっていた。


『……綺麗』


 感覚を共有しているパイラがそっと呟いた。モモの問題を忘れてしまったかの様だ。


 モモが走ってきた方に目を向けるとそこは広大な森が広がっていた。そしてその一部が正円状に土がむき出しになっている。中心部が凹んでいるのだろう、小さな円形の池があった。


『ん? なんだあれ? ちょうど今パイラが居る辺りじゃないか?』

『ええ、あの中心は、元は私達の家が有った場所なの』

『水が溜まって住めなくなったのか?』

『いいえ。私達と師匠が住んでいたその場所は二年前に爆散したの』

『爆散?』


 その直径は百メートル以上に及んでいるぞ?


『私はすでに魔法学校に寄宿していて不在だったし、モモも師匠の使いで街に出かけていたわ』

『お前たちの師匠は?』

塵埃じんあいの魔女はそれ以来、行方不明よ』

『師匠が魔女だと?』

『ええ、私もモモも魔女よ。さっき話すつもりだったのだけれど、モモとあなたは二人一緒に飛び出して行っちゃったから……』


 俺はさらわれたんだがな。


『私は鉤針かぎばりの魔女。そしてモモは赤錆あかさびの魔女。とは言っても二人共魔女を名乗るのはめようとしてるわ』

『色々聞きたいことが出てきたんだが……。俺は転生者でこの世界の事を良く知らないしな。そもそもだが俺は魔女が何だか知らないんだ。魔女がなんで魔法学校に通う? それにモモは剣を持ってるぞ? 魔法を使うんじゃないのか?』

『魔女、男の人の場合は術師と呼ぶのよ。そしてその魔女と言うのは特殊能力を持っている人のことで、魔法使い達の管理下から逃れる様に身を潜めている人のことをそう呼ぶの。あぁ、魔女と魔法使いは別物よ。魔女の特殊能力はその本人だけが使えて、どんな能力かも個人個人でバラバラなの。一方、魔法使いは素質さえあれば同じ特殊能力、つまり同じ魔法を使えるの。ざっくりした違いはそんな感じ。魔女の特殊能力や魔法使いが使う魔法はまだ完全には解明されていないのだけれど、だから私はそれを研究するために魔法学園に入ったという訳よ』

『魔女達は魔法使いから逃れようとしているんじゃないのか? 敵対関係の様に聞こえたんだが?』

『実験体としてあれこれ調べられるのが嫌ってことで、敵対している訳じゃないわ。誤解を生む説明だったかもしれないけど、少なくとも師匠は魔法使いを嫌ってて接触を避けようとしていたわ。あ、そうそう、魔女の様な特殊能力を持ってる人が冒険者になる場合もあるわ。そうね……、薬の調合や相談事を請けて生計を立てる人たちが魔女や術師を名乗っていると言った方が正しいのかも知れないわね』


 なるほどね。つまり、魔女や術師は特殊能力者の俗称ってことだな。


『それで、パイラとモモの特殊能力は何なんだ?』

『私の能力は魔法的なことを解明する事ができることみたいなの。でも使いにくくて……。まず仮定を立てて、それが正しいかどうかが何となく分かるって能力よ』

『なるほど。使い易すそうじゃないか』

『そうなの? 使い易いかしら?』

『ああ、仮定とロジックを上手く組み上げれば良いんだろ?』

『ロジック? 何それ?』


 ずっと走っていた眼下のモモが街門に近づきつつある。


『おっと、モモが街の中に入ろうとしている。続きは後でな』


 俺はモモの側に寄るべく、急降下した。

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