第2話 生死を賭けて争った
し、死んでたまるか!
それから俺は必死に生きた。あの女神に文句を言うまで、いや、ぶん殴るまでは死んでも死にきれない! こんな感情はものすごく久しぶりだった。前世ではどんなに不条理でも怒りの感情を抑えて文句も言わずに頑張ってこれた。しかしこの状況は最低限のさらに下を行っている気がしてならない。
俺の命を脅かす最大の敵は、隣でギャーギャー鳴いている姉貴だ。こいつは母さんが運んでくれる食事を俺から奪うのだ。ちょっとぐらい譲ってくれても良いのに、こいつはそんな態度を微塵も見せない。
このド畜生!
情のかけらも微塵も有りゃしない。まぁ、鳥だしな……。
姉貴との食事戦争は続いた。俺が生まれた直後では、姉貴が五割強で俺は五割弱ぐらいの勝率だった。しかしその僅かな差が蓄積していき、それは体格として現れる。姉貴と俺の体格差は広がり、今や姉貴が九割の勝率だ。残りの一割を俺が勝っているかと言えば、正しくはそうではない。俺が食事にありつけている時と言うのは、腹が膨らんだ姉貴が寝ているだけなのだ。つまり争えば負ける、そう言うことなのだ。
このままじゃ、マジで死んでしまう!
剣聖の力で姉貴を殺ってしまおうと本気で考えた。しかし武器が無い俺はその真の力を発揮できず、それは達成できていない。姉貴を巣から落としてやろうと試みたけれど、巣の
待てよ? 俺、詰んでないか……?
くそっ、こんなことなら剣聖じゃなく素手で戦える武闘家のスキルを貰えば良かった。いや、そもそも鳥に転生しない様に頼むべきだったのか? そういえば女神のヤツは、転生設定が云々と説明しようとしてたな……。
あのときか! 転生先の生物種もランダム選択の対象に入ってると言おうとしてたのか! ヤツは説明の途中で何か別の用事に割り込まれて忘れてたんだ。ちゃんとメモリ退避しとけよ、バグ女神が!
隣で寝ている宿敵の姉貴がもぞもぞと動き始めた。俺はまだ肌が露出しているのに姉貴は白い羽毛が生え揃ってきていた。こいつが眠っている間のこの数回は食事にありつけたが、俺の僅かなお食事ターンがそろそろ終わってしまうのかもしれない。
そのとき俺たちの巣を影が覆った。母さんが食事を運んできてくれた様だ。今回ぐらいは俺のターンであって欲しい。俺は生きるために片脚で姉貴の頭を抑え、母さんに食事を寄越せと頭上に向かってアピールした。だが姉貴はあっさりと俺を跳ね除け、仕返しとばかりに俺の上に乗りやがった。しかもきっちりと頭をその脚で押さえつけている。
俺のターンがぁ!! ……終わった。
しかし頭上に現れたのは母さんじゃなく、巨大な鉤爪だった。それはギャーギャー騒ぐ姉貴を引っ掴み、巣から引きずり出して行った。姉貴の声が遠ざかっていき、そして二度と戻ってくることはなかった。
……。
* * *
まさに鳥肌が立ったそのイベントの後、母さんの愛、つまり食事は俺一羽に注ぎ込まれた。だがそのことに喜んでばかりも居られない。いつあの鉤爪が来るかも分からないからだ。他に予想もできない敵が現れるかも知れない中、何もできない俺は必死で無事を祈り、あの女神を呪った。……幾日も幾日も呪い続けた。
* * *
そして、その祈りに反してそれは突然現れた。突然頭上から現れたそれに俺は掴まれ、ゆっくりと引き上げられていったのだった。
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