義母がうちの財産を狙ってきた話
小山ヤモリ
第1話 義母、彼氏ができる
詳しくは知らずとも、誰もが一度くらいはサスペンス然りネット掲示板然り、それこそコミックエッセイ然りと様々なところで目にする機会はあるだろう。
相続問題というやつは90年代と比較し年々と増加しており、ここ30年で二倍から三倍の件数になっているらしい。恐るべし家族間トラブル。骨肉の争い。
ようするに、『今日もどこかで犬神家』なのである。
しかしそれにしても、まさか自分自身がその渦中で奮闘する羽目になるなど一体誰が予想できるだろうか?
これはいつ、みなさん自身が相続問題に巻き込まれても困らないよう、少しでも力になれればと書き記した【ワタシと旦那くんVS義母の戦いの記録】である。
“ワタシ”と“旦那くん”は結婚五年目。
旦那の父親、つまりお義父さんが病気で亡くなってからも五年目。
養父は結婚式前に息を引き取ってしまった。
ひとり息子の式を見られなかったのは、きっと心残りだったかもしれない。
息を引き取る最期に、旦那くんに「家のことを頼んだぞ」と言っていたらしい。
それからはお葬式と結婚式がほぼ同時進行でいろいろと大変だった。
おもに結婚式の方でだ。葬式の方は滞りなく済ませ、式の準備に入った時である。
結婚式はお互いの親族と、新郎新婦の友人数名のみを招待する予定となっていた。
が、式直前に義母が突然「お父さんと私の勤めてる会社の人たちもみんな呼ぶから」なんて言い出したのだ。
旦那くんはどうしたらいいのかわからずフリーズ状態。
ワタシはというと、コイツは何をほざいてやがるんだ? と真顔でテーブル向かいで勝手に話を進める義母を見つめた。
「だからその人たちの席を部署ごとで分けてほしいのよ〜」
いやいやいや、まだこっちは返事をしていない。
「いいよ」も「いやだ」も「どういうこと?」も言ってない。
旦那くん曰く、義母は自分の意見はすべて通る前提で話す所が昔から多々あるらしい。
そのあたりは旦那くんと今は亡きお義父さんがなんでもハイハイわかりましたと扱ってきたのが原因のひとつなのかなあなんて、考えてる場合ではなかった。
「いや、無理ですけど」
言ってやった。
この時の義母の表情は、まるで初めて顔を叩かれたアムロ・●イのようであった。
まさに「今まで誰にも反論されたことないのに!」と今にも叫び出しそうな感じである。
ワタシも実は義母と正面から話したのはこれが初めてだった……と思う。
今まで義母とはあまり会話をしてこなかったからだ。
なんせ義母はつねに甲高い早口で、そんな彼女との会話はなんというか、とても疲れるのだ。
しかしこれまでワタシと旦那くん二人で一から何度も何度も話し合い、式場スタッフさんたちと組み立ててきた結婚式を土壇場で私物化しようとする目の前の義母に、さすがのワタシも頭にきてしまった。
「言いましたよね? 親族とお互いの仲のいい友人だけにするってずっとワタシたち言ってましたよね? いきなりふざけたこと言わないでください。今からだと変更するのに式場の人たちにも迷惑ですし、変更もするつもりありませんから! これはワタシたちの結婚式なんですよ。しかも旦那くんの会社でなくお義父さん本人もいないお義父さんの勤めていた会社とお義母さんの会社の人たち全員? いや馬鹿ですか? 懇親会ならそっちで勝手にやってくださいどうぞ」
こんなことを言ってやった。
義母はワタシに、というより誰かに捲し立てられ、いや、反論された経験すらないのだろう。数秒驚愕した顔で固まり
「あああああ〜〜〜〜〜だってえ! そんなの私いいいいい! だってえええええええ!」
大泣き、いや、泣きじゃくりだした。
当時齢五十を過ぎた女が、まるで幼児が玩具を買ってもらえず駄々をこねているように。
ちらりと旦那くんを見れば申し訳なさそうな顔をしていた。
ワタシはこの時、確信した。
ワタシは絶対この義母とは合わない!!
話も趣味も思考も何ひとつ擦りもしないくらい、むしろ嫌いに近いくらいに、義母とは合わない!
しかし唯一の救いは、結婚後ワタシと旦那くんは二人暮らしを決めていた点だった。
義母とはまあ同居するわけでもないし今後は適当に付き合っていけばいいのだ。
結果的に、二人暮らしにしたのは大正解だった。
ワタシと旦那くんの夫婦仲はすこぶる良好であった。
時々ちいさな喧嘩はあれど、それこそネットや漫画で見るような、浮気がどうとかモラハラがどうとか、離婚したいとかしたくないとか、とにかくそんなトラブルは一切ない。
いつまでもカップル気分で楽しく過ごしていた。
が、ある日その時は突然やってくるのである。
ことの発端は旦那くんに突然届いた義母からのメールであった。
それを受け取った旦那くんは最初は目を丸くさせて、内容を何度も確認するように画面を睨み、声にならないといった顔をワタシに向けてきた。
「どうしたの」
まさか義母に何かあったのだろうか?
事故か病気にでもなったのだろうかと、この時一瞬でも義母を心配してしまったことすら今となっては恥である。
今なら両手を上げて「お、ババア死んだ?」とでも言ってやりたいくらいだ。
さすがに酷いとお思いだろうか?
言い過ぎだとお思いだろうか?
否、それほどの大事件がこのあと起こるのである。
「──お母さん、彼氏ができたらしい」
そう言った旦那くんのか細い声とともに、ワタシはとてつもない嫌な予感が胸奥からげっぷのように込み上げてくるのを感じた。
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