This chair

御厨カイト

This chair


これは私の元にある1通の手紙が届くところから始まる。



「今、僕がどこにいるか分かるかな?」



ある日、私の部屋の郵便受けに入っていた差出人不明の手紙にはそう書いてあった。

手紙にはその一行だけで、私にはまったく意味が分からない。

こんな悪戯のような手紙をもらうような心当たりも私には無い。

今までこんなことは無かったから。



それでも少し不審に思いながらも、ただのいたずらかと思い、その手紙を処分し、久しぶりの休日を謳歌することにした。

買ったばかりの椅子に座りながら、パソコンでネットサーフィンをしているとまた郵便受けに手紙が入る音がした。



何だろうと思いながら、郵便受けの方に向かうとまた一通の手紙があった。

差出人は相変わらず書いて無い。


何だろうと思いながら、私がその手紙の封筒を開けるとバラッバラッと数枚の写真が落ちてきた。



その写真には会社に向かう私やレストランで食事をとる私、友達とカフェで談笑している私などが映っていた。



この写真を見て私はぞわりと鳥肌が立つ。



これはどれも日常を過ごしている私の姿。

こんな姿を撮れる人なんて多分ストーカーしかいない。

まさか私を狙うストーカーがいるとは思ってもいなかった。


……これからどうしましようか。

こんなことは初めてだから私はいったいどうすれば良いか分からなかった。

こういう時は警察に相談するのが良いのだろうが、私は何を思ったかネットで情報を集めることにした。



ネットで調べてみると警察はストーカー行為が「これはひどい。放置できない。」というレベルにならなければ、実際上、取り締まることが出来ないそうだ。

だから、今私が受けている被害だけでは対応してもらえるかどうか分からない。

そういった情報を色々ネットで調べている内に結構な時間が経ってしまった。




すると、またドアの郵便受けに手紙が入る音が聞こえた。




また見に行くと、またしても差出人不明の手紙が入っていた。

さっきの手紙が来た時が今からちょうど1時間前ぐらい。

その前の手紙が来た時もそのちょうど1時間前ぐらい。


これは多分時間を指定して送ってきているようだ。



……次は何が入っているのだろうか。

私がドキドキしながら手紙の封筒を開けるとまたバラッバラッと数枚の写真が落ちてきた。

また写真が入っていたことに怖気つきながら写真を確認してみると、その写真にはキッチンで料理をしている私やテレビを見ている私、ベッドで寝ている私などが映っていた。



あまりの衝撃に私は恐怖を隠せない。

これらの写真はこの私の部屋内で撮られたということになる。

と言うかじゃないとこんな写真は撮れない。

……ということはこの部屋に他人が入ったのか?


これを受けて私はガチで警察に駆け込もうかと思った。

だが、もしこの部屋内にまだその写真を撮った人がいるかもしれないと思ったら、居ても立っても居られなくなり、一先ず部屋の中を確認してみることにした。



押し入れの中やベッドの下、お風呂の上の点検口まで部屋の隅々まで確認したがまったくそう言った痕跡は見つからない。

この部屋内にいなかったことに少し安心しながらも、やはり不安が拭えなかった私はやはり警察に行こうと準備を始める。



全ての写真をバッグに入れて、「さぁ警察に行こう」と玄関に向かったその時、コトリと郵便受けに手紙が落ちる音が聞こえる。

またなのかと私がビクビクしながら郵便受けを覗くとやはりまた差出人不明の手紙が入っていた。



今度は写真は入っておらず、ただ手紙が入っているだけだった。





「そろそろ、僕がどこにいるか分かったかな?分からないとしても、もうすぐヒントが来ると思うから待っててよ。」





……まったくもって意味が分からない。

この「僕」という人物がどこにいるのかも分からないし、その「ヒントが来る」という意味も分からない。


分からないことだらけで頭が混乱する。

もう無視をしようと、その手紙もバッグに入れて外に出ようとドアノブに手をかけた時、「ピンポーン」とインタホーンが鳴った。

何だろうと思って、ドアスコープから見て見るとどうやら配達屋さんが来たようだ。



「どうも、カザマ運輸です。お買い求められた商品を配達しに来ました。」


「あ、はい、ご苦労様です。」


「ありがとうございました!」



届いたものは以前ネットで頼んだ椅子だ

……これがさっきの手紙に書いてあったヒントなのか?

全然関係が無いように思える。



そう思った私だがあることに気づく。



この今届いた椅子、もう私持っているんだよな……

3日前の夕方にはもう届いていて、私はもう使い始めている。



……どうして今、この椅子がまた届いたのか?



不思議に思いながら、一先ず私はいま届いた椅子の段ボールを開けてみる。

その時、あるちょっとした疑問が通り過ぎる。



実は3日前、椅子が届いた時、段ボールの中にはもう完成形の状態で入っていた。

だが、いま届いたこの段ボールの中には椅子がバラバラの状態で入っている。



よく考えればバラバラの状態で入っていることは当たり前だし、普通のことだ。

そう考えると完成形で届いたあの椅子は一体……?



そんなことを考えていた私の頭にチラッと怖い考えが通り過ぎた。




今回買った椅子というのが最近腰が痛くなるのが悩みの種だったから結構肉厚なクッションで出来ている椅子。

その肉厚なクッションというのが本当に厚く、頑張れば人1人入ることが出来るほどの厚さがある。

これだけではただの考えすぎだと思うかもしれない。

だが、さっき届いた盗撮写真が撮られた時期というのが写真に映っているカレンダーから分かるように丁度今日の3日前から。



これでもただの偶然なのだろうか。

いや、ということはまさか……



そんな最悪な考えを浮かべ、その場から私が動けずにいると、また郵便受けに手紙が落ちる音が聞こえる。

私が恐怖から震えた手でその手紙を取るとやはり差出人不明の手紙だった。





次はどんなことが書いてあるのか、恐る恐る手紙を開くとこう書いてあった。















「これで僕が今どこにいるか分かったかな?」



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

This chair 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ