第6章 転移してみた

第38話 クリア報酬の確認をしてみた


 水曜日クエストから一夜明け。

 平和を取り戻した港町アクアスは、さっそく朝早くからにぎやかな声に包まれていた。


 一方、昨夜遅くまで宴会に参加していたローナは、昼頃にもぞもぞと起き、宿の部屋にてインターネット画面を指でつついていた。

 調べているのは、もちろん――昨日手に入った水曜日クエストの“クリア報酬”についてだ。


(とりあえず、5万シルとEXP5万なんかは素直にうれしいけど……よくわからないのは、『水鏡の盾アイギス』と『ファストトラベル』の2つかな)


 正確には、『ファストトラベル』はレベル50達成報酬らしいが。

 とりあえず、インターネットでこの2つについてのページを確認する。



――――――――――――――――――――

■防具/盾/【水鏡の盾アイギス】

[ランク]S [種別]盾 [値段]808億シル

[効果]防御+808 精神+808

    石化耐性+100% 光耐性+32%


◇装備スキル:【リフレクション】(S)

[効果]一定時間、自分の周囲に【魔法反射結界】を張る。


◇説明:水曜日クエスト【水魔侵攻レイド】のランクS報酬。

 鏡面のように凪いだ水を封じこめたこの盾は、『左右反転した別世界の入り口』になっているとも伝えられているが、どちらが本物の世界なのかは謎に包まれている。

 装備スキルは防御面はもちろん、火力面での恩恵も強く……。

――――――――――――――――――――


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■システム/【ファストトラベル】

◇説明:レベル50になると開放されるシステムスキル。

 行ったことのある町などに転移することができる(転移先は自動で登録される)。

 屋内では使えないので注意。

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(ま、毎度のことながら……こんな世界を変えかねないものを、私にぽんぽんわたして大丈夫なのかなぁ? 世界のバランスとか)


 ちなみに、アリエスたちに話を聞いてみた感じ、この報酬をもらえたのはローナだけらしい。


(私がひとりでクリアしちゃったようなものだからかな?)


 と、少し疑問に思うものの。

 それよりも、早く報酬の検証をしてみたいという欲が勝った。


 宴会の場だと人も多かったし、帰ったらすぐ寝てしまったしで、検証はできなかったけど……宿の部屋の中ならば人目もない。


(さて、どっちを試すかだけど……ひとまずは、こっちかな)


 と、水晶のように透明な盾――“水鏡の盾アイギス”をアイテムボックスから出してみる。

 これはクエストクリアのメッセージが表示されたときに、アイテムボックスに勝手に入っていたものだ。


 盾には持ち手がなく、ローナの手の先でふよふよと浮かんでいる。

 ちなみに、手の動きに合わせて盾も動くようだ。


「うーん、どういう原理で浮いてるんだろう、これ……? ちょっと目立つし、日常生活では邪魔になりそうだし、戦闘時にだけ出すだけって感じかなぁ」


 そもそも戦闘時以外では、終末竜衣ラグナローブだけでも防御面は充分だろう。

 とか考えながら、なんとなく盾の上に乗ってみると。


「……っ! こ、これは……っ!」


 一瞬だけだが、ふわりと浮くことができた。


(お、おぉぉ……ちょっと楽しい!)


 ちなみに、インターネットによると、『浮遊タイプの盾に乗った状態で、さらにジャンプすると“2段ジャンプ”ができるようになる(不具合)』とのこと。空中飛行スキルの【エンチャント・ウィング】があるとはいえ、ちょっとした段差を飛び越えたいときなどに使えるかもしれない。


 そんなこんなで、空中盾サーフィンを満喫したあと。

 ローナは改めて、盾の性能チェックをする。


「うーん、防御と精神が808増加かぁ……あいかわらず、意味不明な増加量だね」


 とりあえず女王薔薇の冠もつけて、現在の最強装備でステータスを確認してみる。



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■ローナ・ハーミット Lv54

[HP:508/508][MP:99999/348]

[物攻:56(+360)]

[防御:114(+1554)]

[魔攻:221(+3600)]

[精神:221(+2474)]

[速度:112(+300)]

[幸運:114(+400)]


◆装備

[武器:世界樹杖ワンド・オブ・ワールド(SSS)]

[防具:水鏡の盾アイギス(S)]

[防具:終末竜衣ラグナローブ(S)]

[防具:猪突のブーツ(B)]

[装飾:エルフ女王のお守り(A)]

[装飾:身代わり人形(F)]


◆スキル

[インターネット(SSS)][星命吸収テラ・ドレイン(SSS)][エンチャント・ウィング(S)][猪突猛進(B)][リフレクション(S)]

[魔法の心得Ⅸ(D)][大物食いⅢ(D)][殺戮の心得Ⅳ(D)][竜殺しⅠ(C)][錬金術の心得Ⅴ(D)][プラントキラーⅠ(F)][スライムキラーⅠ(G)][フィッシュキラーⅠ(F)]


◆称号

[追放されし者][世界樹に選ばれし者][厄災の魔女][ヌシを討滅せし者][終末の覇者][女王薔薇を討滅せし者][雷獅子を討滅せし者][近海の主を討滅せし者][暴虐の破壊者][水曜日の守護者]

――――――――――――――――――――



(……ついに防御も4桁超えかぁ。つい、最近まで防御9とかだったのに……ステータスがどんどん人外になってくなぁ)


 と、少し遠い目をしつつ。


「とりあえず、スキルも試してみるか――リフレクション!」


 そうスキル名を唱えてみると、ローナの周囲に、透明な結界が展開された。

 どうやら、これは魔法を反射する結界とのことだが……試しに自分にプチヒールをかけてみると、治癒の光が反射して自分にかかった感覚がなかった。


(う、うん、これは普通にすごいスキルだね。もしも敵が魔法使いだったら完封できちゃうし……)


 とはいえ、防御面の強化なら目立つこともないし、普通にうれしくはあるが。


(まあ、攻撃面はこれ以上強くなったらやばいことになっちゃうしね……ん?)


 と、そこで。

 盾の性能についてインターネットで調べていたローナの目に、とある文章が飛びこんできた。



――――――――――――――――――――

■防具/盾/【水鏡の盾アイギス】

 現環境では無料配布みたいになっているわりに、かなりのぶっ壊れ性能。

【魔法反射】状態のとき、自分も対象とする範囲魔法攻撃を撃つと、通常分と反射分を合わせて魔法の威力を2倍にすることができる。

――――――――――――――――――――



「………………」


 ローナは目をごしごしこすってから、ふたたび見る。




『――魔法の威力を2倍にすることができる』




(…………うん、見なかったことにしよう)


 ローナはそっと画面を閉じた。


「よし……とりあえず、次いこうか」


 気持ちを切り替えて、残った“ファストトラベル”の検証に移る。

 こちらは、他の場所に転移できるというものらしい。


(……これまた、すごいものが手に入ったね)


 さすが、歴史上でも到達者がほとんどいないという“レベル50”の報酬といったところか。

 一応、この世界のレベル上限は200らしくはあるが……。


「えっと、どう使うんだろ、これ? とりあえず――ファストトラベル!」


 そう唱えて見ると。

 アイテムボックスのときと同じように、地名のリスト画面が手元に現れた。


 そこに書かれているのは、『イフォネの町』『イプルの森・休憩地点』『エルフの隠れ里』『黄昏の古代教会』『ググレカース邸』『黄昏の地下神殿』『港町アクアス』……と、ローナがこれまでに行ったことのある場所だ。


(えっと、この地名をタッチすれば転移できるってことかな? な、なんだろう、この親切設計……?)


 本当にリストにある場所に転移できるのなら、ものすごく旅が快適になるだろう。

 これまで訪れた町にも、頻繁に戻ることができるようになるし……アイテムボックスと合わせて商売でもすれば、すぐに巨万の富を稼げてしまうかもしれない。


(……これは、本当にとんでもない力だね)


 ローナは思わず、ごくりと唾をのむ。

 こちらも、インターネットと同じく、バレたらやばそうな力だが……。


(うーん……でも、やっぱり楽はしたいしなぁ)


 ローナの中の天秤が、『使っちゃえ!』というほうにかたむく。

 そもそも危険地帯から転移して脱出できる“帰還の翼”というアイテムもあるし、ただ使うだけならそれほど目立つこともないかもしれないし……。


 というわけで、ローナは意を決したように、地名リストに指で触れた。


「と、とりあえず、物は試しだよね。それじゃあ、まずは――イフォネの町へ!」


 その言葉とともに、ローナの体がまばゆい光に包まれる。

 そのまま、不思議な力でふわりと体が浮かび上がり――。



 ――ずぼしゃァアアッ!!



 と、ローナは勢いよく、天井に頭から突き刺さった。


「…………うん、なるほどね」


 ぷらんぷらん……と。

 頭だけ天井に刺さった状態で、ローナはふぅっと息を吐く。


 とりあえず、建物の中では使わないほうがいいらしい。

 そういえば、インターネットにも『屋内では使えない』と書いてあった気もするが……まさか、こういう感じだとは思わなかった。


(うーん、外でまた検証し直すかぁ……って、あれ? 頭が抜けない……)


 ぐぐぐっと天井と格闘すること、しばし。


「お客さ~ん! なんかすごい音しましたが、大丈夫ですかぁ……? お客さ……お客さんっ!? えっ、どういう状況!?」


「あっ、ちょうどいいところに。ちょっと抜くの手伝ってもらえませんか?」


「きゃあああッ!? しゃべったぁあああ――ッ!?」


 そんなこんなで、宿屋の娘にすぽんっと頭を抜いてもらったあと。

 天井の弁償代を払って、ふたたび外でファストトラベルを使い直すローナであった。

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