第32話 ウォール・ローナを作ってみた

 ウルス海岸のエリアボスの出現。

 それによって、浜辺にいた冒険者たちはたちまち恐慌状態におちいった。


「う……うわあぁああぁああぁ――ッ!?」


「ま、まずい! モンスターを狩りすぎた!」



 ――近海の主ギガロドン。


 それは、『周辺のモンスターを短時間で狩りすぎると、エサがなくなって人間の前に現れる』と言われている強力なサメのモンスターだ。


 そのレベルは、50に達していると言われるが……。

 人間でレベル50に達している者など、ほとんど観測されていない。


 ――――勝てない。


 その言葉が、アリエスの頭に浮かび……。



「総員っ! ただちに退避をっ!」



 アリエスはとっさに叫んだ。


「エリアボスは翌日にはいなくなっているはずよ! 防壁を放棄して、すぐに逃げなさい!」


「だ、だけど、アリエス様っ! 防壁がなかったら、明日のスタンピードは……」


「戦って勝てる相手ではないわ! 今は命を優先しなさい! しんがりは、わたしが――」


 そう指示を出したところで、アリエスは気づく。

 ローナの姿が、いまだに海のすぐ近くにあることに。


「って、ローナちゃん!? なにをしてるの!? すぐに、そこから逃げ――いえ、笑顔で手を振ってないで早く! って、ああぁっ!? なんで、ギガロドンのほうに行くの!? あの、ちょっとぉおおっ!?」


 騒ぎに気づいていないのか、ローナはてくてくとギガロドンのほうへと近づいていく。

 ギガロドンのほうも、ローナを完全にターゲットと定めて飛びかかろうとする。

 その場にいた誰もが悲鳴を上げ、そして――。


「うーん……海で泳いでるし、これはただのサメかなぁ。とりあえず――プチサンダー」


 そんな気の抜けるような声のあと。



 ごぉおおおおおおおおお――ッ!!



 と、ローナの杖から、レーザーのような雷が放たれた。

 鼓膜を破裂させるような轟音とともに、雷が砂浜をえぐり飛ばし、海を真っ二つに割り、そのままギガドロンをのみこみ、そして――。



 …………じゅっ………………と。



 ギガロドンを、一瞬で蒸発させた。


「………………へ?」


 さらに海に着弾した雷は、ばりばりばりばりばりィィィイイ――ッ!! と、爆発するような雷光を閃かせ……。

 やがて、雷光が消えたあと、海面には無数のモンスター素材が浮かんでいた。



「「「………………………………」」」



 冒険者たちが唖然としたようにローナを見る。


 一方、ローナはというと。



『近海の主ギガロドンを倒した! EXP7489獲得!』『LEVEL UP! Lv46→47』『マーマンタの群れを倒した! EXPを410獲得!』『ウルススライムの群れを倒した! EXPを310獲得!』『ウミモグラの群れを倒した! EXPを357獲得!』『SKILL UP! 【殺戮の心得Ⅲ】→【殺戮の心得Ⅳ】』『SKILL UP! 【魔法の心得Ⅷ】→【魔法の心得Ⅸ】』『初級魔法:【プチエール】を習得しました!』『スキル:【フィッシュキラーⅠ】を習得しました!】…………。



『称号:【近海の主を討伐せし者】を獲得しました!』



(な、なんかすごい雷が出たなぁ……って、あれ? なんだろう、この称号? エリアボスでもいたのかな? でも……さっきみたいに、みんなが『すごい!』って言ってこないし、これぐらいはすごくない……?)


 口を開いたまま固まっている冒険者たちを見て、ローナはちょっと首をかしげつつ。


「アリエスさ~ん! さっそくモンスター倒しましたよ~!」


 ローナが『褒めて褒めてー』というような笑顔で、アリエスのもとへ戻っていく。


「あっ、そういえば、さっきなにか困っているようでしたが……なにか問題でも起こりました?」


「あ、いえ……それなら今、解決したわ」


「……? そうですか」


 きょとんとするローナ。

 それを見ながら、アリエスは何度も目をこする。


(こ、こんな子が……エリアボスを一撃? この子、本当に人間なの?)


 地方最強とも言われる魔女エリミナですら、ここまでのことはできなかった。

 これだけの力があるのに、今まで噂すら聞いたことがないなんて。


(な、何者なの、ローナちゃんって? まさか、神がつかわした天使様だったりして……)



 そんな一騒動のあとも、ローナは海岸を走り回って、防壁作りの手伝いをした。

 といっても、建築は専門外なので裏方だが。


「わぁああっ! モンスターが出――」


「プチサンダー」


 ちゅどーんっ!! と。

 海上で爆発が起きて、モンスターのドロップアイテムが浮かび上がる。


「よ、よし! モンスターは気にせず防壁を作れ!」


「ああっ! アリエス様、来てくれ! 怪我人が!」

「っ……MPがもう足りないわ! 回復薬は!?」

「だ、ダメだっ! もう備蓄がねぇっ!」


「あっ、それならこの薬を使ってください!」


「う、うぉおおっ!? 怪我が一瞬で消えたぞ!?」

「MPも全回復してる!?」

「な、なんだこの薬は!?」


「エルフの秘薬です!」



(((――!?)))



「あっ、まだ200本ほど余ってるので、どんどん飲んじゃってくださいね!」



(((――!?  ――!?)))



「わぁあっ!? モンスターがまた出たぞぉおっ!」


「うーん、きりがないなぁ……あっ、そうだ! プチウォール!」


 ずずずずずずずず……ッ! と。

 海岸沿いの地面がせり上がり、またたく間に巨大な城壁が現れた。


「よしっ! この壁があれば、みなさん安心して防壁を作れますね!」



「「「………………」」」



「……? みなさん、どうかしたんですか?」


「い、いや……」


 冒険者たちは自分たちの作っている木の壁と、ローナが一瞬で作った堅牢な城壁を見比べる。



(((……もう、その壁だけでいいんじゃね?)))



 かくして、防壁作りは完了し――。

 ここにきて、アリエスはようやく気づくのだった。


(あれ、もうこれ……ローナちゃんひとりで、全部なんとかなるのでは?)


 ちなみに、ローナの作った城壁は『ウォール・ローナ』と名づけられ、後にこの町のシンボルとなるのだが……それは、また別のお話。


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