第29話 世界の真理に気づいてみた
――曜日クエスト。
それは、曜日ごとに特定の地域でモンスターの大量発生が起こる大災厄のことらしい。
モンスターの発生原因は不明だが……。
港町アクアスでは、『水曜日の朝日とともにモンスターの大群が現れ、港町アクアスの防壁や施設を破壊し、水曜日が終わるとともに去っていく』とのこと。
そんな曜日クエストが発生する港町アクアスは、今――どんよりとした空気に包まれていた。
「……王都行きの船? 悪いが、もうしばらくは出せる余裕がないな。“水曜日”のせいで船をあらかた壊されちまったからなぁ」
「え、シーフードが食べたい? 悪いけど旅人に売れるほどの余裕はないよ。“水曜日”のモンスターたちが食料の備蓄を全部持っていっちまうせいで、自分たちが食いつなぐだけで精一杯だからねぇ」
「領主のググレカース家やそのお抱えのやつらも、すぐに逃げだしてなぁ……おかげで、今この町は指揮系統もぼろぼろだよ」
「悪いことは言わんから、嬢ちゃんも逃げたほうがいい――“水曜日”が来る前に、な」
そう言って、ローナにいろいろ話してくれた町民たちは、そそくさと去っていく。
とりあえず、この町の状況はなんとなくわかった。
(うーん、この曜日クエストってやつを、なんとかしたほうがよさそうだね……)
このままでは、観光をするどころか、王都行きの船に乗ることすらできない。
それに、この状況を見てみぬふりするのは、さすがに良心が痛むだろう。
(そういえば、冒険者ギルドはどうしてるんだろ?)
モンスターの大量発生といっても、来るタイミングがわかっているわけだし、どうとでも対処はできそうなものだけど……。
と、そんなことを考えていたところで。
「わぷっ」
ひゅぅうう……と。
どこからか風で飛んできた貼り紙が、ローナの顔に張りついた。
「ん、これは……?」
紙を顔から剥がして、何気なく中身を見てみると――。
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(こ、これは……)
ローナが、はっとする。
何度もその文面を読むが、間違いない。
最近、インターネットで見た、とある言葉が脳裏をよぎる。
(このギルドは、もしかして……“ホワイトきぎょー”というやつなのでは?)
なにはともあれ、インターネットにも『曜日クエストの参加は、冒険者ギルドの集会所から』と書いてあったので、ローナはひとまずギルド集会所へ向かうことにした。
閑散とした町を歩いて、冒険者ギルドの集会所前にやって来たところで。
「――や、やってられるかっ!」
「わっ」
集会所の中から、若い冒険者(美少女)が飛び出してきた。
そのまま逃げるように走り去っていく冒険者を見て、ローナはきょとんとする。
(……? どうしたんだろ?)
ローナはきょとんと首をかしげながら、出ていった冒険者と入れ違いに集会所へと入る。
集会所の中は、どんよりとした空気が満ちていた。
中にいる冒険者たちは、みんなぐったりとテーブルに突っ伏したり、床に寝袋を敷いて寝ていたりしている。
そんな集会所に、ローナが足を踏み入れた瞬間――。
「「「…………………………」」」
品定めするような視線が、ローナに集まった。
(あ、あれ……アットホーム、じゃない?)
ローナは困惑しつつも、とりあえず受付へと向かう。
受付では、これまた疲れきったような受付嬢(美少女)がテーブルに突っ伏していた。その周りには、書類やら回復薬の空き瓶やらが山と積まれている。
「むにゃむにゃ……もう働けませんよぅ……うへ……うへへへ……」
「あ、あのぉ……」
「はい、なんでしょうか?」
「うわっ!? いきなり起きた……」
「どうかされましたか? また町のどこかでトラブルが? ふひっ」
「い、いえ、冒険者なんですが……水曜日クエストに参加したいなー、と」
「……っ!」
ローナが答えた瞬間、受付嬢がはっと目を見開いた。
集会所にいる冒険者たちも、にわかにざわつきだす。
「ふ、ふふふ……」
「あ、あの……?」
受付嬢が無言で、がしっとローナの手をつかんでくる。
逃さないぞという意思を感じさせる異様な握力だった。
そして――。
「キタァアア――――ッ!!」
集会所中に響くような声で叫んだ。
「いやぁ、よかった! ちょうど今、ひとり逃げ……ステップアップしてしまったところでして、ええ! いやぁ、いいタイミングで来ましたね! やりがいのある依頼がたくさんたまってますし、稼ぎ時ですよ! ふ、ふふふふふふふ……っ! さあ、この
「あ、はい」
前のめりになってまくし立てられ、ローナが思わず書類にサインをしかけたところで――。
「――やめなさい」
ふいに、凛とした声がかけられた。
ふり返ると、集会所の奥から、美しい女性がこちらに歩み寄ってきているところだった。
聖女といっても信じてしまいそうな、神聖さすら感じる清楚なたたずまい。
地位がある人なのか、彼女を見た瞬間――その場にいた誰もが口をつぐみ、緊張感が辺りを包む。
「……ぎ、ギルドマスター」
受付嬢が決まりの悪そうな顔で、彼女をそう呼ぶ。
ローナも思わず彼女に見とれて、ごくりと唾をのむ。
(す、すごい綺麗な人……だけど、あれ? なんだろう、この違和感……妙だな)
彼女を見た瞬間、なぜか頭の中に引っかかるものがあった。
その違和感の正体に、ローナは少し遅れてはっと気づく。
(そういえば、最近会う人……美少女が多すぎない? たまたまかな……?)
この世界の真理の一端に触れてしまったローナであった。
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