私たち初対面だけど、どうか聞いて下さい。「私、先輩のことが大大大大好きです。どうか付き合ってください!」

Rough ranch

第一話 『一目惚れ』

 私の名前は清原帆乃。

 先日17歳になったばかりの、青春の真っ盛りなJKだ。

 とは言っても、私はクラスカーストの隅っこに居る様な立ち位置だから、共に青春を送れる様な彼氏なんて居ないんだな、悲しいことに。

 ま、まあ、学生の本分は勉強ですし、来年には大学受験が控えている訳ですし、恋愛なんかに掛ける為の時間が無いだけなのですよ。

 別に私の成績は高いって訳じゃないんだけど。

 始業前のこの時間に、近くでイチャイチャしてるあのカップルが羨ま、じゃなくて、さっさと爆発しやがれリア充ども......じゃなくて!

 とにかく、早く先生来てくれぇ~。


「はぁ~~。」


 考えていても気が滅入るだけなので、私は一旦大きなため息をついて思考を停止した。

 ため息をすると幸福が逃げると言うが、私はため息は幸福の残骸で、私に降りかかって来なかった幸福が抜け殻となって零れ落ちているのだと思う。

 だって、色々不運なことがあったから、そんなにため息が出ている訳なのだし。

 まあ、出来るだけため息を吐かない様な人生を送りたいってのは本音かな。


「どうかしたの、帆乃? そんな深いため息をついて。」


 そう私に話しかけて来たのは、幼稚園の頃からの幼馴染である後藤心美だ。


「いやちょっと、幸福について考えてただけだよ。」

「え、帆乃がそんな賢そうなこと!?」

「失礼な、私だってたまには賢そうなことだって考えるよ。」


 実際には、どうでもいいため息について考えていただけだけど、どうせなら見栄を張っておこう。

 まあ、この程度の嘘なら心美は見破るだろうけど。


「本当かなぁ~~。」

「ほ、本当だって。」


 心美はジーっと私の両目を覗いてきた。

 私は何だか焦って、話題を変える。

 後になって思ったが、心美は別に私の目を見ていたんじゃなくて、見つめられた時の私の反応を試していたのだから、ここで話題を変えるのは下策だったかも。


「ね、ねえそれよりも、昨日話してたあの話はどうなったの?」

「ん、何の話?」

「ほら、あれだよあれ。」


 私は心美の耳に口を近付けて言う。


「結局、慎二君に彼女は居たの?」

「あ~、その話ね。はいはいはいはい。」


 心美は大仰な仕草で頷いた。

 若干口元がにやけているのは気のせいだろうか。


「どうだったと思う?」

「い、居たの?」

「さあ。」

「居なかった?」

「正解は、」


 心美は立ち上がり、大きく溜めてから、言い放った。

 私もそれに釣られて立ち上がった。


「なななんと、居ませんでした! 慎二君は今、完全にフリーです!」

「おおおおぉぉー-。」


 私は安堵により、そのまま椅子にバタンと座った。


「よ、良かったぁ~~。」

「良かったじゃん、帆乃。それにしても、帆乃が慎二君を好きだったなんて、私とっても驚いたんだよ。」


 今話題に出てる慎二というのは、私が一昨日、一目惚れした先輩のことだ。

 一昨日、私が補修のせいでいつもよりも遅く帰っていた時に偶然見掛けた。

 まさに、一目惚れというやつだ。

 一昨日から、私は慎二先輩のことを考えると胸が熱くなる。

 これ、絶対に恋でしょ。


「で、どうするのよ。まずは知人でも何でもいいから、顔見知りになるところからだよね。」

「う~ん、そうなんだけどなぁ~。」

「どうしたの?」


 確かに、出来ることなら私は慎二先輩と付き合いたい。

 でも、まともに話せるかと聞かれたら、それはNOと答えざるおえない。

 だって私、ゴリゴリの陰キャですよ。

 クラスの集合写真で、出席番号のお陰で真ん中ら辺に居るというのに、全然目立たない様なキャラですよ。

 そんな私が、慎二先輩と付き合うことなんて出来るのかな。

 そもそも、まともに会話なんて出来るのだろうか?

 変な奴だって思われたらどうしよう。


「いや、何でもないよ。たまには勇気を出さないといけないってことを実感しただけだから。」

「そう、ならいいけど。まあ、運の良いことに私は慎二君と面識があるから、帆乃と彼が話す機会を作るのは、そう難しいことじゃないわよ。」

「ほ、本当!?」


 流石、自他共に認めるクラスカースト上位。

 顔の広さが尋常じゃあない。


「もうすぐ中間テストでしょ。二日後、帆乃に勉強を教えるって流れで慎二君を呼び出すから、それまでに彼と何を話すのかを決めときなよ。」

「うん、分かった。」


 その日中、私はずっと明日慎二先輩と何を話すのかを考え続けたのだった。

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