離れたくないから。
桜小町
第1話 何もない島の唯一の輝き
「出身地ガチャ」というのは的を得ている。大手コンビニ店が1軒もない南の島。私はなんでそんなところに生まれてしまったんだろうか。
遊びに行くのにも困る。ただただ暇な時間が流れるだけである。穏やかで寒さ一つも感じないこの島で....。
そんな暇な時間を一緒に潰したのが隣の2歳年上の大浦凛という女の子だった。私が2歳くらいだった時から一緒に遊んだ幼馴染。そんな存在だった。そして一人っ子の私のお姉ちゃんとしての存在。そんな存在であって欲しかった....。
そうは問屋が卸さなかった。小学校5年生の時、凛お姉ちゃんは中学校に入学して、今までは一緒に登下校していたものの、それが頻繁にはできなくなった。
でも時々一緒に帰ることはあった。
5年生の時、
「算数が急に難しくなってテストで悪い点取っちゃった。これじゃお母さんに怒られる...。」
と私は泣いてしまってた。凛お姉ちゃんは、そんな私の頭を優しく撫でてくれた。頭の方に温かさを、それが伝播して胸の方に温もりを感じた。その温もりは私の全てを包む母のようだった。
「よしよし。大丈夫だよ。私が勉強を教えてあげるから、私の家に行こっか。」
と優しく凛お姉ちゃんは慰めてくれた。当時、私は135cm、凛お姉ちゃんは155cmと、それだけでお姉ちゃんってのを感じた。長い艶のある黒髪に、顔のパーツ一つ一つが天使の様だ。凛お姉ちゃんのその優しさに触れるたびに私は、心が落ち着いた。
凛お姉ちゃんの家に着いて、凛お姉ちゃんの部屋に入る。小さい頃からよく入ってる部屋だが、整理整頓がされており、すっきりとした部屋だ。畳の匂いも相極まり、落ち着きを感じる。早速宿題のプリントを出す。そして凛お姉ちゃんに教えてもらう。
凛お姉ちゃんとの距離が近い。そして凛お姉ちゃんの甘い匂いを感じた。凛お姉ちゃんは優しく私に算数を教えてくれて、とても分かりやすかった。この時、これまで何度も凛お姉ちゃんと一緒に遊んだり、帰ったりしてるのに初めて胸の高鳴りを感じてしまった。凛お姉ちゃんがあまりにも高潔に見えたからだろうか。
自分でもなぜかよく分からない。
凛お姉ちゃんと一緒にいれてここまで胸の高鳴りを感じられるのが怖かった。変な心臓病なのかな。くらいに思っていた。でも心臓病とかだったら、大変なことだけど。隣に凛お姉ちゃんを感じるたびに体が熱くなる。凛お姉ちゃんを意識すると....。
優しく算数を教える凛お姉ちゃんに私は初めて「恋」という感情を覚えたのかもしれない。その「恋」という感情は漠然としすぎていてよく分からないが。
でも私は「女の子に恋愛感情を抱くのはありえない!」と断固思っていたし、ましてや幼馴染の凛お姉ちゃんに.....。
算数は分かったけど、私の感情は分からない。
あれから凛お姉ちゃんを見ると、一緒に話すとドキドキしてしまった。
そしてある日、5年生の私は凛お姉ちゃんとこんな会話をした。
「凛お姉ちゃんって可愛いくて、勉強できて、とてもモテると思うんだけど、彼氏はいないの....?」
と聞いた。できれば彼氏はいて欲しくない。凛お姉ちゃんは私だけのものだから。と思う。ここで「独占欲」というのを覚えた。というよりは、自然とこの欲望が湧いて出てきた。凛お姉ちゃんの「No」という返事を聞きたかった。
「いないよ。だって私は好きな人がいるから。」
と凛お姉ちゃんは笑って答えた。ある意味、「彼氏がいる」というより、望んでいなかった質問なのかもしれない。だって私、女の子だよ?そんな、私以外の別の誰かが好きなんだ。なんでいつも隣にいる私じゃないのか。私が一番ではないことにショックを受けた。
「そうなの、、、ごめん。凛お姉ちゃん。急用があるから帰るね。」
とだけ告げて帰った。私には気持ちの整理がつかなかった。私は凛お姉ちゃんが本気で好きだったんだということに気付いたし、それ故に凛お姉ちゃんは私以外の人が好きなのかと落胆した。このドロドロとした気持ちは未だに輪郭が掴めない。ただ言えるのは小学5年生ながらにして、なんで恋なんてしてしまったのだろう。という後悔だ。傷つくくらいだったら初めからしない方がマシだ。
なんで恋なんてしてしまったんだろう。
私が小学5年生の時に抱いた感情だった。
でもしたくてした訳じゃない。勉強を教えてもらったあの時が全て悪いんだ。凛お姉ちゃんの容姿も甘い匂いも、全てを包み込むような性格も、、、。
それでも私は凛お姉ちゃんの全てを包み込む優しさ、容姿、全てに惹かれたのは変わらなかった。この感情は抑えられない。でも、本気で好きと凛お姉ちゃんに伝えた時の凛お姉ちゃんの反応が怖くて中々言えなかった。凛お姉ちゃんはきっと困るだろう。私とは単なる幼馴染だから。そんな目で見られていたのかって引かれるかもしれない。
あれから2年が経った。
私は中学校に入学して、凛お姉ちゃんは中学3年生。受験生となった。いつものように凛お姉ちゃんの家に来た日の出来事。
そんな凛お姉ちゃんは、私に向かって衝撃的なことを言った。
「私、島外の高校に行こうと思うんだ。」
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