融解ケトル

ドムロレイフ

第1話 かつて非常だった日常

「今日の最高気温は74℃」

この情報を知っていなければもっと気が楽だったのだろうか。否、飲料水が底をつき、クーラー一分もつけられないこの状況を、楽観視できる人間などいない。家の外の灼熱が、窓を這って私をいじめる。原因不明の異常気象。こんなに立派になるなんて誰が想像できたか。部屋の中、ひとり。悶える。

この暑さでコンビニなんて行けるわけがない。それを国は察して水や生活必需品を配給制にした。動けない市民に、平等に水を分け与えようとするわけだ。しかし、人間には命の危機に関わると普段以上の力を発揮する。他人の家に侵入し、水や生活必需品を強奪する「水泥棒」なるものが流行っている(水強盗の方があっているが)。高所得者には水が多くもらえるというデマがこの流行りに拍車をかける。世の中は混沌を極め、擬似的な地獄が成り立っていた。


配給の時を心待ちにしていると、窓ガラスが割れる音を聞いた。汗で濡れた私服を纏い、ナイフを持って彼は叫ぶ。

「水をよこせ」

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融解ケトル ドムロレイフ @domuroreif

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