041 買い物をする
「…………」
佳穂を放り出したあと、便利屋は信号に引っかかっていた。
5分──と言ったものの、もう既に3分も経ってしまっている。
通りは夕刻のラッシュ。
車はのろのろ進むだけだ。
記憶にあるコンビニまではまだ半分以上も距離がある。
「……クソっ!」
諦めて車を寄せると歩道に降り、あたりを見回した。
山下公園、それらしい店は見当たらない。
「あのー」
「チッ! バックレるか?」
「あのー」
「な、なんだよお前は? うるせえな!」
便利屋の目の前、夜の帳の降りた山下公園の灯りの下、所在無さげに折り畳み椅子に腰掛けている女がいた。
その前には開いたトランク。
「あのー。アクセサリーいかがですか? 手作りなんですー」
「は? そんなヒマねえよ!」
「そんなこと言わずに見るだけでもー。」
また、厄介なのに引っかかった──便利屋は思った。
「っせえなあ! ほら、見てやったぞ。じゃあな。
……ん?」
踵を返そうとしたその時、あるアクセサリーが便利屋の目に飛び込んできた。
「これ、なんだ?」
「シルバーです。白い花はエゾギクです。」
「そんなこと聞いてねえ……」
呆れながらも、便利屋はニヤリとした表情を浮かべ、そのアクセサリーを手にとった。
「まあいい、これと、これ。ペアだな? 2つともくれ。いくらだ?」
「合わせて五千円です。」
「ハア!? 高ぇ! 千円に負けろ!」
「ええ!? 無茶苦茶ですー。これは、私が一から作ったものなんですよー。
この白いエゾギクは、白翡翠を研磨して仕上げるのに一週間もかかったんですから。本当なら1万円以上付けたっていいくらいなんですからー。千円なんて……そんな。」
女は困り顔で便利屋を見上げた。
(……………………………………面倒くせえ。)
便利屋は、無言で手にとったアクセサリを女に渡すと、胸ポケットに手を伸ばした。
「あ、ありがどうございますー」
女はペコリとお辞儀をして、便利屋が買ったアクセサリーを小袋に入れた。
「おまけ、一緒に入れときますね」
「いいから! 早くしろ!」
便利屋はアクセサリー売りの女から袋を受け取ると、車に飛び乗った。
エンジンをかけ、アクセルを吹かす。
(──── あのバカには、こっちの方がいいだろう)
向かうは山下ふ頭の交番裏の茂み。そこにコウモリ女が待っているはずだ。
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