髪が白くなっても
私には中学時代からの友達が二人いる。当時から三バカ組と陰口を言われるほどダメダメグールプだったが、私だけは定時制で高校を卒業していて、高校中退の二人からは尊敬されている。じっさい田舎では、高卒と運転免許は就職には必須要件だ。
美代はチビだけど世話焼きで優しい。女子力のある子だ。
18才で結婚したけど1年で離婚して、今は自宅警備員兼コンビニのアルバイトをしている。
晴美は超美人だけど手に負えないほど超我がまま。女子力はゼロだ。
最初に就職したのが、全国的に有名になった詐欺会社で、警察の捜査が入って社長がトンズラして倒産し職を失なった。今はスナックでホステスをしてる。
私は浜崎由美。あと一文字で有名人と同性同名だ。親とは折り合いが悪くアパートで生活している。私は地元の食品加工会社に就職した。会社では真面目で気の利く新入社員として評判が良い。まあ、おだてられて、いいようにこき使われている感じだ。
私は日曜日が定休日なので朝から美代と晴美が私のアパートに来ている。
「紅茶をポットで入れるね。」
と美代が言う。美代は気が利いて良く働く。
「私は甘め! 美代さあ、私と結婚してよ、あんたみたいな気の利く奥さんが欲しいわ。」とスマホを触りながら晴美が言う。
「誰もやらないから私がするんだよ!」と美代。
ケーキを買って置くのも、コーヒーや紅茶を買って置くのも私の役だ。だから私は何もしないと決めている。
「スナックのお客さんでね、パパ活希望の人が居るんよ。お金があって凄く良い人なんよ。美代はどう?」と晴美が言う。
「私はダメ、結婚で男は懲りたから、当分男はいいわ。もう男に威張られるのは嫌だから、」
美代は性格が大人しく優しいので馬鹿な男に付け込まれたら、支配されてしまいがちなのだ。
「じゃあ由美は?」
・・おいおい、私に振って来るのかよ・・
「私は正社員なんだよ。私の会社はめちゃ真面目な会社なんだから、パパ活がバレたら即首だよ。」
「由美の所の社長さん、うちの店に来るよ。けっこう面白い人じゃん。」
「飲み屋さんぐらいは行くだろうけどさ、会社では雰囲気が違うんだから、パパ活は晴美がやれば良いじゃん。」
「私はパパが居るから・・」
「うっそ! 晴美、パパが居るんだ!」
驚いて私は美代と顔を見合わせた。
「何よ! ただでやられて、食事代まで払わされるよりよっぽど良いじゃん。」
と晴美は言う。相変わらず晴美はプッツンだ。晴美と比べたら私は優等生だと言える。とんでもなく低い次元の競争だけどね。
私の勤務する会社は残業はほとんどなく定時に帰れる。私は正社員だからボーナスも有り二人と違って社会のレールの上に乗っている。仕事は厳しいが私のような者でも正社員にして大事にしてくれるので誇りを持って働けるのだ。
その日も会社で帰り支度をしていると、会社の受付の電話が鳴った。
私が電話に出ると
「ああ・・私だけどね、お得意先でご馳走になって、飲んじゃったんだ。誰かに迎えに来てもらってくないか。」社長さんからだった。
「分かりました。誰かに行ってもらいます。」
そう言って電話を切ったが、他の人はまだ忙しそうだったし、先輩社員に頼むのも億劫だったので私が迎えに行くことにした。
先方に着くと
「あ、若社長さん、お迎えですよ!」と社長さんを呼んでいる。
社長さんは二代目で取引先では若社長と呼ばれているのだ。
「おう、君が来てくれたのか。済まないね。」
私は新入社員なので社長さんと話す機会はほとんど無いのだが、お酒のせいか社長さんはいろいろ私に話しかけてくる。
「あれ!、よく見ると浜崎君って綺麗だねえ、こんな可愛い子がうちの会社にいたんだねえ。気が付かなかったなあ・・」
「社長さん、酔ってますね・・」
「あのね、晴美って友達が居るだろう。あの子から浜崎君の事、聞いているんだ。」
・・晴美のやつ!・・
・・もしかしてパパ活って社長の事?! やめてくれよな!・・
「彼氏いないんだってね。俺みたいな年上が誘ってもついて来てくれるのかな?」
・・あいつ!絶対許さん!パパ活なんかしないよ、私は・・
「パパ活じゃあ無かったら、付き合っても良いですよ。」
「あっそうなんだ。じゃあ次の信号を右に曲ってくれる。」
右に曲がって少し走るとモーテルが見えてきた。
「あそこに入ってくれる!」
・・え!入るの!? そんな展開になるわけ?!・・
仲間の二人と違って、私は男には奥手で こういう展開には対応が出来なかった。まして社長が相手ではなおさらだ。
・・こうなったら行くしかない・・
私は思い切ってモーテルへハンドルを切った。
しかしパパ活では無いし、恋愛でも無い、これはどういう関係になるのかな?そう思ったが、社長さんは信用のある人だし悪い事にはならないだろう・・そんな安心感はあった。
モーテルに入ってソファに座ると、社長さんが「座ってていいよ」とお茶を入れてくれる。そのお茶を飲みながら
・・ああ、とうとう私にもこの時がやってきたか・・と観念したような気持ちになった。
「先にシャーワーしたら・・」
促されて私がシャーワーをしていると社長さんが続いて入って来た。
「俺も一緒に入るよ、良いだろう!」
「あ、はい・・」
・・そう言われても、もう入ってるし・・
「浜崎君の体を洗ってあげるよ・・」
社長さんはボディーソープの泡をたてて私の背中を洗い始めた。
そして、お尻から足に下がり、だんだんと前の方も洗い始めた。
・・ダメだ、感じちゃう・・
社長さんはどうすれば私が感じるか分かっているみたいだ。
「あ、あ、ダメ・・」
私は快感によろけてしまう。
「あ、もう、立ってられないです・・」
「立ってられないの? じゃあベッドに行こうか・・」
社長さんは私の体の泡をシャーワーで流すと、バスタオルで丁寧に拭いた。私は社長さんにされるまま、ただドキドキしていた。
シャーワールームから出ると社長さんはベッドの端に座って私に言った、
「浜崎君、こっちにおいで・・」
言われるまま私は社長さんの前に立った。
私は胸の所でバスタオルを留めていたが 社長さんが ぱらりとバスタオルを落とすと両手で私を引き寄せた。私の胸に社長さんの唇が触れる・・手は下半身を愛撫している・・さっきシャーワールームでされていたので 体が直ぐに反応する。
「浜崎君、もう、びちょびちょだよ!」
「ダメです・・もう、立ってられない!・・いきそう!」
私は立ったままで 社長さんに倒れ込むようにイッてしまった。
そんな私を優しくベッドに横たえ、社長さんが私に乗ってくる・・私はまだ体がひくひくしている・・私は脚を開いて社長さんを受け入れた。
「あ、痛い!」
下半身に激しい痛みが走った。
「え!浜崎君、初めてだったの?!」
「初めてなんです・・」
「そうかあ・・じゃあ、優しくして上げないとね・・」
そう言って社長さんは・・再びゆっくりと・・私に入って来た。
痛いとは聞いていたけど、思わず声に出してしまった。セックスを知ってる振りをしたかったのに・・恥ずかしい・・
モーテルの部屋を出る時、社長さんは私の腰へ腕を回して
「また会ってくれるだろう?!」と言う。
「また会ってくれるんですか?!」と私。
私は社長さんに両手をまわして熱くキスをする。
・・ああ、私って大人だ、かっこいい・・
その事があってから、社長さんとは週一で会うようになった。会う度に社長さんとセックスと好きになり、今は毎日でも会いたい。
・・でもこれって恋愛なのだろうか・・
・・社長さんは私の事をどう思っているのだろうか・・
ある時、私は社長さんに聞いてみた。
「社長さんは彼女は居ないのですか?」
「彼女っていうのは居ないねえ・・月に1度ぐらい会う人はいるよ、スナックのママなんだけどね。でもその人は彼女じゃあないよ。」
「でも、セックスはするんでしょう?」
「するけどね まあ、あれはスポーツみたいなものかな・・」
「私とも スポーツですか?」
私は泣きそうになりながら聞いた。
「いや、それは違う! 由美の事は大好きだよ。でもうちの社員だしね、社長としてはまずかったんだよね・・」
・・やっぱりまずかったのか・・
・・人には言えない関係で終わるのだろうか・・
私は不安になって社長さんに言った。
「体の関係から入ったから、愛なのかは分からないんですけど・・私、社長さんのこと好きですよ。」
それが私の精一杯だった。定時制卒の私が社長さんをどうにか出来ない事は分かっていた。私の気持ちを知ってか知らずか社長さんは別の話を始めた。
「今度の夏にね、山口の角島大橋をバイクで走ろうと思ってるんだ。由美もバイクの中型免許を取れよ。費用は俺が出すからさあ。」
「バイクも買ってくれるんですか?凄く高いですよ。」
「そうだなあ・・俺と結婚してくれるんだったらバイクも買って上げるよ。」
ピンと来た、これはプロポーズだ!
「ほんとに?! 私の欲しいやつ、85万もするんですよ!」
「だから、俺と結婚してくれるんなら、幾ら高くても買って上げるよ。」
「やった〜 ! じゃあ私、社長さんと結婚します。」
・・社長さんは上手いよね・・
・・私も上手く合わせたつもり・・
私のようなバカじゃあ社長さんとつり合わないけど、そこは開き直るしかないと思った。
しかし結局、この約束は果たされなかったのだ。何故なら私が妊娠したからだ。
社長さんは慌てて社内向けに婚約発表をして、すぐに入籍して・・あれよあれよという間に披露宴をして・・それから出産をして・・慌ただしくその年は終わったのだった。バイクの約束は流れたのだ。
それから二年が過ぎて娘が二歳になったが、私はまだ夫の事を社長さんと呼んでいた。その日は久しぶりに美代と晴美が遊びに来ていた。
「何かさあ、由美が玉の輿に乗っちゃって遠くなったんだよね・・」
「そんなこと言わないでよ。私は昔のままだから・・」
「でも社長夫人だよ。やっぱ定時制出たのは正解だったね・・」
そこに社長さんが入ってきて私たちに言った。
「ねえ、今度山口県の角島までバイクでツーリングしようと思うんだ。君たちも由美と一緒に免許取って来いよ。一緒にバイクで走ろうぜ!」
それを聞いて美代と晴美の目が輝いた。
「行くー! 行きます。三人で免許を取りに行きます。」
夫の誘いで、私たちの三バカ組が復活したのだ。私は嬉しかった、結婚して以来別世界で暮らしているようで、とても寂しかったのだ。
私たちは三人で自動車学校に通い三人同時に免許を取得した。そしてそれからはツーリングに備えて近所を走って練習を重ねた。
ツーリング当日は夫が2歳半の娘を載せて先頭を走り、私たち三人が後に続いた。
角島に向かって長く続く海上の橋はとても美しく、空は晴れて海はどこまでも青かった。民宿で部屋を取り皆で雑魚寝をした。娘と美代は疲れたのかぐっすりと寝ていた。夫はどこかに行っているようだ。
晴美がいった。
「社長さんて何歳なの? ・・そうか、由美の18才上なんだ。こういうのも有りだよね・・」
「晴美が店で私の事を社長さんにしゃべったんでしょう?。」
「ネタで話しただけよ。あなたは真面目だからこうなるとは思わなかったんよ。」
「私は社長さんとパパ活はしてなかったんだよ。」
「彼氏でもないのにホテルに行ったんでしょ、大差ないじゃん。でも結果オーライだよ。由美が尻軽じゃあなかったら、結婚にはなかったんだからね。」
そんな話をしていると社長さんが帰ってきて部屋のドアを開けた。
「俺の悪口を話してたんだろう?」と冗談を言いながら部屋に入ってきた。
「エロ社長と尻軽娘の話をしてたんですよ。」と晴美が返す。
晴美にとって夫は店の常連なので平気で軽口を言う。
すると社長さんが私に言った。
「歳を取ってね、俺たちの髪が白くなってもさあ、一緒にバイクで走るような不良夫婦にでいような!」
それを聞いた晴美が言った・
「ちょっとお・・私もそばにいるんですけど。目の前でラブラブ言わないでよ!」
すると社長さんが、
「いや、晴美も美代も一緒にだよ。髪の白いジジイと髪の白いババアが4台で走ってたらカッコ良いだろう!」
これには晴美も受けて
「それって、逆に怖いよね。」と笑った。
この日の約束が今でも私の心に残っている。
いつまでも、いつまでも ずっと不良夫婦でいたい。
髪が白くなっても・・ずっと・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます