12 タメリクス侯爵夫人サムウェラ(2)
「最初から疑っていた?」
「いいえ」
ルージュは首を振った。
「昔からの友人だった貴女を疑いたくはなかったわ」
「そう?
でもそもそも今日のこの人選。
もう明らかじゃないの。
要は貴方の旦那の浮気相手を集めたんでしょう?
そしてその中に私も入っていた、と」
「関係を持っていたことは否定しないのね」
「ええ。
うちのひとはもはや何も私を諫めたりしない。
侯爵家は、今は私が回しているのですもの。
だから好きなことをして何が悪いの?
そう、結婚前から付き合いのあったひととよりを戻すということもね」
「……貴方!?」
ルージュはきっ、と夫の方を見た。
「結婚前の付き合いについては…… お前、何も聞かなかったろう?」
「ええ。
忘れていたのは私のミスです。
焼けぼっくいに火がついたなんてね」
「ほほほほほ」
高らかにサムウェラは笑った。
「焼けぼっくいじゃないわ。
ずっと続いていたのよ。
気付かなかったのは貴女だけだわ」
「そう」
その間に侯爵は長椅子の方に運ばれて行く。
医者である二人と、病院の経営者の一人であるワイター侯爵は病院への連絡を指示している。
この時、バルコニーの人数は次第に減りつつあった。
伯爵夫妻は娘に付き、ヘヴリアもまた、辞めるとは言えど今は看護人として動いていた。
元々出口に近い場に居たワイルド夫妻は生来の物見高さからか、侯爵の変化の原因か何なのか、夫婦して見定めようとしていた。
同じ様に出口近くの大きなテーブルの皆も、弁護士以外は立ち上がり、長椅子の方に視線を注いでいた。
結果、その場に残っているのは、ルージュとティムス、対峙しているサムウェラと、置いていかれた感のマリエだけだった。
そのマリエがふと、思い出した様につぶやく。
「媚薬…… そう、最初、ティムス様、貴方何か使いましたわね、でもあれは、媚薬ではありませんでしたわ」
「え?」
「意識が朦朧として……
だから媚薬と言えば媚薬なのかもしれないけれど、それで私はそう、流されてしまった……
思い出しましたわ!」
「媚薬、と俺は聞いていた……
俺には薬の知識は無い。
ルージュ、お前と違って病院の方にも関わっていない。
薬を手にする方法が無い」
「媚薬など、裏道ですぐに手に入るものでしょう」
するとティムスは意外なまでに真剣な表情になった。
「お前は信じないだろうが、俺は闇マーケットだけは手を出してない。
俺はあれらの場所が怖かった。
情けないほどに!
ルージュ、俺は玄人女が怖かった。
闇世界につながる全てが!」
「浮気や不倫より怖いと?
「ああそうだ!」
拳を握り、殆ど自棄になってティムスは叫んだ。
「だから!
媚薬を手に入れることも、巷の避妊の方法も!
手を出せなかった!
そんな時に、サムウェラが、俺にそっと渡してくれたんだ……
これがあれば、大丈夫だって……」
ふふ、とサムウェラは笑う。
「……媚薬というには、後で嫌な、とても嫌な夢を見たりもしたけどね。
それが癖になってしまったんだわ……」
その場にしゃがみ込み、頭を押さえながらマリエはつぶやく。
ルージュはきっ、と唇を噛んだ。
「サムウェラ、それを子供達にも使ったのね!」
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