第66話元宰相side


 クックックッ。

 どうやら王太子の愛人は若い侯爵新宰相と出奔したようじゃ。あの研究所の所長とは既に話はついておる。流石は科学者、研究熱心で何より。これからも支援者として研究成果の報告を期待しておるぞ。何せ、あの愛人のお陰で「若返りの化粧水」は飛ぶように売れておるからのぉ。薬は毒と表裏一体じゃ。0.001gの違いで死に至らしめる事が出来るのじゃから。今、開発しておる老化予防もその一種じゃ。ほんの数滴使用するだけなら問題ないが、余り多く使用すると細胞を破壊させるという代物。効果が絶大じゃが扱い注意の物。


「老いることが一番辛いものじゃ」


「何のお話ですか?」


「いや〜、歳は取りたくないという典型的な話じゃ。どれ程の富や名誉を手にしても老いは平等にくるからのぉ。儂もいい歳じゃ。何時、天使が迎えにくるか分かったものでは無いぞ」


「……それよりも、王家が国外逃亡なさった件はどうしますか?」


「放っておけばよい」


「宜しいのですか?」


「ああ、あの連中を担ぎ出す国はおらん」


 既に手は打ってあるからのぉ。

 奴らは逃亡中ににあう予定じゃ。他国で恥を晒されても困るからの。


「王都は無政府状態です。新政権の大半の貴族も国外もしくは自領に逃げてしまっております」


「ふぉふぉふぉ。それだけ民衆の怒りを買ったと言う事じゃ」


「王都を守る治安部隊は壊滅、警察組織も機能しておりません」


「となると、怒りに我を忘れて破壊の限りを尽くした暴徒共が他領に雪崩れ込んでくるやもしれんな」


「怒りの矛先を他の領主にも向けると言う事ですか?」


「いやいや、そうではない。がれきの山を作った連中が次にする事は略奪よ」


「略奪……ですか?」


「ああ。何せ自分らで全てを無に帰したのじゃ。当然、仕事も無ければ食べる物にも事欠くじゃろう。明日を生きるために、まず食べ物を確保する。じゃが、王都に食い物は殆ど残っておらん。ならどうするか、他から奪うしかない。王都の近隣の領地を狙う。そこを奪いつくせば次に行く。負の連鎖じゃのう。ふぉふぉふぉ」


「笑っている場合ですか。我が領にも暴徒達が襲ってくるではありませんか」


「そこが狙い目よ」



 暴徒化した背景には政権に不満を持つ輩だけではない。この機に王位を狙う傍流の王族いる筈じゃ。

 黒幕諸共、始末できるぞ!

 このチャンスを逃してはならん!


 年甲斐もなくワクワクするぞ!




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