第63話王太子の愛妾side


 私は死んだ人間。

 公式記録にはハミルトン侯爵家の者は処刑された事になっている。けれど、本当は違う。大半の者は深い森の奥にある研究施設に連れて行かれた。何でも、永遠の命を得る事を目的とした研究施設。ただし表向きは新薬の研究所。国が公認しているというのだから酷い話だと思ったし、権力者が最後に望むのは永遠の命なのかと別の意味で納得もした。


 

『あのさぁ、僕達をマッドサイエンティストみたいに言わないでくれる? 飽く迄も最終目的が“永遠に生きられる薬”ってだけだ。ここではありとあらゆる薬が試行錯誤されて作られてる。その中には感染症に効く特攻薬だって開発されてきたんだ。ただね、薬を販売するには副作用がないか調べないといけないし、仮に副作用が出たとしてもどの程度なのかも把握しておかないといけないんだ。色んな動物で実権を繰り返してはいるけど、最後には僕達と同じ動物人間を使用して確認しないといけないだろう?』



 研究所の所長の言葉は誰が聞いてもマッドサイエンティストだった。表向き死んだことにされたハミルトン侯爵家の人間は研究所にとって打ってつけのモルモットで、彼らは容赦がなかった。暴言や暴力は一切ない代わりに人間扱いはされない。彼らの目がそれを物語っていた。一族が次々に命を落としていく中で何故か私は生き残った。



『う~~ん。君さ、物凄く運が良いのか悪いのか……分かんないね』


 所長は憐れむような言葉を吐くが目をキラキラさせていた。何でも、私に施した薬で死なないのは稀らしい。普通は死んでしまう劇薬。投薬した直後は苦しむのにその後は通常に戻る。私の体は薬に対応していると研究職員に考えられていると教えられた。


『ココだけの話、もしかしたら薬の副作用かもしれないんだよね。それか君の体内で薬が変化したか……本当に凄いよ』


 実験のマウスは全滅したのにサルは一部生き残ったらしい。


『まだ誰にも言ってないけど、この前ね、君に投薬した薬を間違って飼っている金魚に与えちゃったんだ。そしたらどうなったと思う?まるでピラニアのように変形したんだ!面白いよね!』

 

 この男に人の心はない。

 絶対にワザと金魚に与えたんだろう。ニコニコと笑う所長が一番のマッド野郎だった。

 

 数年が過ぎた。

 その頃には私以外の一族は全員死んでいた。



『君さ、ここを出る気ある?』


 人の心を持たない世紀のマッドサイエンティストが狂ったセリフを吐き出した。

 

 

 

 


 


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