第29話親の責任


 ヤルコポル伯爵夫妻は今までのヴィランにかかった費用の返金をしてきました。


『数年分を計算させていただきましたが、見落としがあるでしょう。足りない分も必ずお支払い致しますので請求してください』

 

 と言っていました。


 公爵家としてはヴィランは一人娘である私の婚約者。将来の入り婿です。前回はあんな事があったとはいえ、今のヴィランに落ち度はありません。ヴィランが私の両親を実の親のように甘えて懐いていただけの事。それに両親は「必要経費だ」と言ってましたし……何もそこまでしなくても良いのでは?と思いました。

 

 

 『これは私達夫婦の不徳の致すところです。夫婦揃って社交界に疎く、今の今まで気付かなかったせいでスタンリー公爵家に大変ご迷惑をお掛け致しました。これ以上、恥をさらす訳には参りません。特に、私は法に携わる仕事に付いている身です。清廉でいなければならない立場の者が“法の穴をかいくぐっている”等というあらぬ疑いをかけられる訳にはいかないのです!』


 ヤルコポル伯爵の悲鳴のような声。

 後から知った事ですが、貴族社会においてヴィランの行動は知れ渡っていたようなのです。

 これについては首を捻るしかありません。婚約者の面倒をみる家は公爵家だけではありません。裕福な家の娘ほど、婿入りの婚約者をのが常識と化しているのですから。


 ヴィランが男友達に自慢していたせいだと伯爵は言いますが、それだけが理由とも思えません。貴族は見栄を張るものです。ヴィランのように「自慢する行為」は大なり小なり皆がしているもの。


 情報が命の貴族社会といっても未成年の、しかも学生でもないヴィランの行為を非難するのは大人げないのでは?と感じました。その前にヴィランの行動を何故把握しているのかが不思議だったのです。


 私の疑問を教えてくれたのはお父様です。



「妬みだな」


「妬み……ですか?」


「ヤルコポル伯爵家を妬む者は多い。ヴィランは伯爵家において唯一人“凡庸”だ。やり玉にあげるには丁度いい。伯爵夫妻は『婿入りさせる息子を他人に養育させている』と非難されている。子供の責任は親の責任だからな」


「ですが今まで何も言ってこなかったではありませんか」


「それはヴィランが我が公爵家に滞在していたからだ。私としては、ヘスティアが寂しがらないようにと思ってヴィランを傍に置いたようなものだが……はっきり言って、ヴィラン程度の子息など履いて捨てるほどいる。別にヴィランがヘスティアの婚約者である必要はなかった。偶々、父が可愛がっている部下がヴィランの父親だった。彼の両親はその地位に比べて優秀な人材だった。その両親の息子だからこそ娘の婿に置いていたに過ぎない事は貴族達はよく知っている。これでヴィランが思慮深く控えめな性格であったならまた別だったのだろうが、だった。まだ子供だから仕方がないのかもしれないが……これから大変だろう」


 苦笑しながら説明してくださるお父様。

 その言葉は噂として私が知るのは直ぐの事でした。


 

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