リインカーネーションと最後の巡礼
神無月もなか
第一話 リインカーネーションの旅の始まり
1-1 リインカーネーションの旅の始まり
ロング丈のヴェールがそっと頭に乗せられる。
高級そうな白いチュール生地が銀の髪にそって垂れ下がり、丁寧に整えられた髪を優しく覆い隠す。シスター服を模したようなデザインをしたドレス風の祭服と同様に白百合の花飾りや刺繍があしらわれたそれは、身にまとうドレスと合わさって神聖な雰囲気を醸し出していた。
桜色に色づいた唇には甘く薄い桃の花の色が重ねられ、透き通るように白い肌にも同様に薄くフェイスパウダーがはたかれる。目元にも薄く銀のアイシャドウが入れられ、配合されたラメがきらりとリーリャの目元に光を与えた。
頭のてっぺんから爪先まで、丁寧に飾り付けられていく。
己を飾り付ける全ての手が引いてから伏せていた目をゆっくり開けば、目の前に設置された鏡には神聖さを感じさせる聖女の姿が映し出されているのが見えた。
「――……」
鏡に映し出された自分自身の姿には、かつて存在していた素朴な雰囲気や平凡さはどこにもない。あるのは、白百合で飾られた祭服とヴェールを身に着けた神聖な雰囲気を感じさせる聖女としての姿だ。
「聖女様。お支度が整いました。こちらへ」
メイドの声に小さく頷き、差し伸べられた彼女の手に己の手をのせる。
今日のための支度はもちろん、農村から王城へ連れてこられた日からずっと身の回りの世話をしてくれていた彼女に手助けをしてもらうのも、今日が最後だ。
唇に薄く笑みを浮かべ、メイドの助けを得ながら足元に用意されていた魔法ガラスの靴にそっと両足を入れる。
メイドに手を引かれるまま歩き出せば、王城の前で待機していた馬車の前へと辿り着いた。
メイドの手が離れ、今度は御者の手が差し出される。今度は御者がリーリャへ手を差し伸べ、リーリャも御者の手を借りながら馬車へ乗り込んだ。
「どうかお気をつけて。この国と世界を良き方向へ導いてくださいませ」
「……はい。……この日まで、大変お世話になりました。この国と世界が滅ばぬよう、思いを込めて祈らせていただきます」
上手く音を発さない声帯をなんとか働かせ、ところどころ掠れながらも言葉を紡ぐ。
メイドはゆっくりと頷いてから、リーリャが身につけているロングヴェールのフロント部分をそっと垂らす。
ふわふわとした長い銀髪だけでなく、リーリャの顔全体もヴェールで覆われる。視界に映る景色が柔らかな白で彩られ、目に見えるもの全てが淡い色で彩られた。
聖女を守るための巡礼騎士たちも数人ほど馬車に乗り込み、残された数人の騎士たちは馬車を囲むように配置についた。
「出発します」
御者が一言そういうと、手綱を操って馬へ合図を与える。
軽やかな音が王都の空気を震わせ、馬車がゆっくりと動き出した。
緩やかに流れていく王都の景色に目を向け、リーリャはゆっくりと息を吐いた。
リーリャはこれから死ににいく。
滅びに向かう国と世界を守るため、リーリャ・アルケリリオンは死ににいくのだ。
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