『ショートショート短編集2』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
『蚊』
六畳ほどの部屋に男が寝ている。蚊が頬にとまるとパンと頬を叩き蚊を落とした。
別の日、蚊の親子が昆虫専用のマーケットで新発売の人間用と書かれた線香を買っていった。
「ママ、これで僕らは人間に殺されなくてすむね。人間なんてこれでイチコロだよ。」
『生き残るための選択』
西暦3000年、地球は滅亡する寸前。
人が生きられる星に向けて地球脱出のために宇宙船をつくっていた。
もうじき宇宙船が完成というときに学者が血相を変えながら地球脱出組織の指導者にこう告げた。
「地球を脱出しなくてもいい方法が見つかりました」
指導者がそれはなんだと聞くと学者は少しためらい答えた。
「それはどんな環境にも耐えうる体を持ったゴキブリに意識を移す方法です」
その場にいた人間が皆、一様に顔を渋らせた。
『浦島太郎の先祖』
浦島太郎から数えて400代目の先祖はいじめられている亀を見つけた。
だが、観たいテレビがあったため素通りした。
それを天国のモニターで見ていた浦島太郎はモニターに映る先祖に天罰を与えた。
あっという間に先祖は年老いておじいさんになってしまった。
結局、浦島太郎のように玉手箱を開けなくてももれなく老人になる浦島家のひそかな秘密。
浦島太郎以降の先祖は皆、なぜか早死にが多いのはそのせいである。
『思考する機械』
他社とのコミュニケーション能力の欠如が問題視されている中、政府はコミュニケーションによる無駄な争いや事件や事故を懸念し、コミュニケーションをとらなくてもコミュニケーションをしたのと同じ気持ちになれる会話できる機械を作った。
思考する機械は売れに売れた。会話する必要がなくなった社会では人との会話はすべて機械を通して行われるので生活のすべては機械中心に行われる。
だがどんなに機械が発達しようと血の通わない機械とする会話はやはり退屈で機械はこちらに都合のいいことばかりを言い、喧嘩などする必要もする要因もなくなったがそれがぎゃくに苛立ちを募らせた。やがて機械は次々に廃棄処分にされ暴動が起こりやがて小さな国はあっという間に滅んだ。
『名前のないそれ』
人はなんにでも名前をつける。
人には人の名前、動物には動物の名前があり食べ物には食べ物の名前がある。
子供のエフ氏がただひとつだけ名前がわからないものがあった。
それは我々の生活にはなくてはならないものだと大人は言う。それなのにそれには名前がない。
大人はそれをなんの躊躇もなく使い、あろうことか身につけるという。材質はざらざらしていて伸縮性があり使い方としては肌につける代物らしい。一体なにに使う代物なのか
子供のエフ氏には到底わからない。
『ショートショート短編集2』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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