森下美香は腐バレを阻止したい
本条サクマ
第1話
高校生の森下美香は母につられて携帯ショップへ来ている。最近携帯料金が高かったので料金プランの見直しにきたのである。
受付で案内されるとそこには若い男性の店員がいた。髪はプラチナゴールドで前髪はセンター分け、耳にはいくつかのピアスが開けられている。K-POPアイドルにいそうな爽やかイケメンだった。
「では椅子にお座りください」
男性はニコッと笑う。
輝くその笑顔は何人の女性を虜にしてきたのだろうかと美香は思いながら母を見ると頬を赤らめうっとりしている。美香はその光景を引きつった顔で見るしかなかった。
「本日は料金プランの変更とのことですがどのようなプランに変更をご希望されますか?」
店員と浮かれながら話す母を見て正直いい年して少しはしゃぎすぎではないのかと美香は呆れたが、店員のK-POPアイドル並みの顔面を見るとまあ、しょうがないことなのかなと思った。
母と店員が料金プランについてしばらく話し合うと店員が美香のスマホの設定をしたいのでスマホを貸してほしいという。
普通の人ならここで少なからず躊躇う人もいるのではないだろうか。しかし、美香の手は迷うことなく彼にスマホを渡す。
店員がスマホを見るとそのホーム画面はシンプルなピンク色の壁紙だった。
ーー事前にホームの壁紙を購入初期の壁紙に戻しておいて正解だったね。
美香が使用していた壁紙は現在彼女がはまっているBLマンガの主人公が描かれていたものだった。裸体の主人公たちが頬を赤らめ濃密に絡み合うその姿は到底一般人に見せられる代物ではない。ましてや健全な男性に見せるなど論外であった。
店員が設定を進めていくとスマホが位置情報やカメラへのアクセスの許可を求めている。
店員はなれているのかスラスラと画面をタッチする。そこで美香は見逃さなかった。アルバムへの許可を求めていることを。
「あぎゃーーーー!まっトゥえええええーーー!」
美香は慌ててスマホを奪い取る。
「どうしたのよ急に。この世の終わりかのような声を出して」
「な、なんでもない!気にしないで」
母は心配そうな声色で言う。
美香はスマホの画面を隠しながらアルバムへの許可を押す。
すると画面全体が艶やかな肌色に染まる。そうこれは美香が長年集めてきたお宝画像でこれもホームの壁紙と同様に一般人には到底見せられる代物ではなかった。
ー危ない、危ない。危うく社会的に死ぬところだったわ。
「すみません。お騒がせしました」
「いえ、大丈夫ですよ」
こんな奇怪な行動を見てもなお店員は顔を引きつらせるどころか優しい笑顔を向ける。
まるで「僕は何も見ていません。だから心配しないでください」と言っているように。
神か。このお方は神なのか。
美香はいつの間にか自然と手を合わせていた。
「では設定の続きをしますね」
そう言うと慣れた手つきで進めていく。
後は何事もなく無事に設定が終わる。
「これで設定は完了いたしました」
店員はにこやかな笑顔でスマホを手渡す。
これでやっと解放される。彼女はスマホを受け取ろうと手を伸ばした瞬間――
ピコん。
その音を聞いて嫌なヤな予感がした。
視線を画面に向けると通知が来ていてそこには「霧崎さんは上司の子どもをはらみたい」という通常の人が見たなら腰を抜かすえげつない題名があった。
美香は自分の顔が蒼白になっているのを感じた。慌てて店員の手からスマホを奪い取る。
――なんでこんな時にマンガの回復通知が来るのよーーーーッ!!!!
美香は恐る恐る顔を上げる。
店員は顔を赤らめ驚いた顔をしていた。さすがにこの題名を見たら表情をを保つのが困難だったようだ。
「本日はありがとうございました!これにてし、失礼いたします!」
状況を掴めない母の手を取り美香は慌てて店内から出る。
ー死んだ。社会的に死んだ。もうあの店には行けない。
そこから一週間美香は自宅で寝込んでしまうのだった。
―――――――――――――――
客である美香が猛スピードで店を後にしそれに圧倒されホオけた表情になっていた店員だがそれでもなお様になっているのはさすがとしか言いようがない。
―お客様オメガバースが好きなのかぁ。もっとお話ししたかったな。
実はこの男隠れ腐男子であった。周りには腐男子とは打ち明けられずBLを語り合う友達がいなかったため先ほどBLマンガの通知を見たときに同じ趣味を持つ人と初めて出会ったのでついつい興奮してしまい顔が赤くなってしまった。業務中にもかかわらず美香と趣味の話を語り合いたいと思ってしまうほどだ。
―あのお客様また来てくれないかな。
この日以来美香の来店を待つのが小さな楽しみとなった店員であった。
森下美香は腐バレを阻止したい 本条サクマ @akebi46397
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