14 スーパー時止めお姉さんがやって来ましたっ!

 気を失ってしまったユウ君を二人がかりで介抱します。

 さすがに男の子ですね。顔は可愛いのに、がっしりしてます。

 片方だけではとても運べなかったかも。

 移動しようとしたところで、明らかな違和感に気付いてしまいました。


「ねえねえエリちゃん」

「なに?」

「大きな音がした割に、さっきからずっと静かじゃない?」

「言われてみればそうね……」

「どうしてエリちゃんのクラスから誰も来ないの?」

「ほんと。慌てて来たものだから、意識から逸れてたけど。ごめんちょっとだけいい? 見てくるわ」


 私一人にユウ君を預けて、早足で隣のクラスを見に行くエリちゃん。

 驚きのあまり、口をパクパクしながらこちらへ振り返っていました。


「みんな、完全に動きが止まってるわ……。まるで時でも止められたみたいに……!」

「えーーっ!?」


 シーン。


 まさにその擬音がぴったりでした。

 気付いてみれば、隣のクラスだけではありません。まるで世界から、私とエリちゃん以外の鼓動がさっぱり消えてしまったかのようです。

 耳を澄ましても、足音の一つ、虫の鳴く声や小鳥のさえずり一つさえ聞こえては来ないのでした。

 ただでさえみんないなくなって大変なのに。

 まさかの複合事件ってやつですかぁーーー!?

 困りました。肝心のユウ君はくたばってますし。

 どうしましょうか。って、どうしようもないんですけど。

 うん。ここはぐっと。我らがヒーローが起きるのを待つしかないみたいですねっ!


「よし。レッツラ保健室」

「あなたって妙なところで肝が据わってるわよね」


 慣れですよ。たぶん。



 ***



 えっちらおっちら、どうにかこうにかユウ君を保健室の近くまで運んできました。

 最後の曲がり角です。もう少しです。

 そこを曲がろうとしたときでした。

 私たちの仮説は外れだったのでしょうか。

 なんとこちらへ曲がってきた人と鉢合わせでぶつかってしまいました。


「「いたたた……」」


 鼻の頭を押さえて蹲る私と誰かさん。どうやら女の人の声でした。

 エリちゃんは運動神経が良いので、しれっとユウ君を控えてかわしてたみたい。


「大丈夫アキハちゃん? それにあなた誰?」

「ごめんなさい。急いでて」

「私こそすみません」


 静止世界で日常会話のような一幕がかわされ、ほとんど同時に立ち上がります。


「あ、どうやら処置が間に合ったみたいですね。よかったぁ」


 彼女は私たちを認めて、明らかにほっとしている様子でした。

 スタイルの良いエリちゃんに並ぶ背丈。やや茶色がかった赤髪が、くるんと先の方でカールしています。

 私たちよりも幾分大人びていて、ぱっと見は大学生のお姉さんって感じですけど。

 ぶつかった第一印象もあるでしょうか。

 しっかり者さんというより、どこか抜けてそうな、人当たりの良い感じがします。そこはちょっとユウ君っぽいかも。

 さて一安心したお姉さんは、今度はぷりぷりと怒り出しました。感情豊かな人みたいです。


「まったくユウくんと来たら。宇宙喰らいと戦って心の力を使い果たしたばかりなんだから、少しは安静にしてないとダメじゃないですか。もう!」

「「宇宙喰らい……?」」


 私とエリちゃんの声がハモりました。

 聞くからに物騒な名前ですが、まるで冗談のようでもあります。そんな子供の落書きノートに出てくる『最強の敵』みたいな……。

 問われたお姉さんは、この人なりの誠意でしょうか。一生懸命答えようとはしてくれました。


「あ、えっと。どこから話したらいいのかな。まずね。多元宇宙と言って、あたしたちが暮らす宇宙の他にも宇宙ってたくさんあるんですけど。そこはいいか。で、そのうちの親戚くらいの微妙なところにある宇宙がですね。マジで大大大ピンチだったんですよ!」


 手振りいっぱい、深刻な顔で続ける赤毛のお姉さん。


「そう。かの悪名高き宇宙喰らい――あれは、根源的破滅事象って言うのかな。一応ヒトか何かではあったのか。かつては。無限次超拡散概念脅威と言うべきか。うーん。確実に名状し難きものではありましたね。はい」


 一人で勝手に納得してますが、まったくわかりません。


「とにかく恐ろしい化け物だったんですけど、死闘の末にユウくんが討ち果たしたのがつい昨日のことでして」

「ぽかーん」


 エリちゃんはお手上げのようです。私も同じく。

 スケールが大き過ぎると、想像って追いつかないものなんですね。


「えっと……。とりあえずユウ君のおかげってことでいいんですか?」

「そう! そういうことでオッケーです!」

「さすユウ」


 うーん。ほんのりわかったような、わからないようなですが。

 もしかすると、ちょっと頭がお天才な人なのかもしれません。小難しい理屈好きの方ではあるようです。


「話戻していいかしら? 結局あなた誰なのよ? ユウくんの知り合いではあるようだけど」


 エリちゃんナイス進行。私も聞きたかったのそれ。


「あ、どうもどうも。通りすがりの天才魔法使いでーす」


 自分で言っちゃったっ! 自分で天才って言い切っちゃったこの人っ!


「で、あなたが新入りのエリちゃんね?」

「私のこと知ってるの?」

「はい。それはもう、ユウくんが楽しそうに話してましたからね。見込みのある新人がいるって」

「こいつめ」


 ちょろいに定評のあるエリちゃんは、ぐったり気絶したままのユウ君の顔を見やって妙に嬉しそうでした。

 するとお姉さんがちょいちょいと私を手招きするので、耳を寄せたところ。


「あなたには『押しかけてきた後輩』って言った方が通りがいいかな?」

「あーっ!」


 も、もしかして。ユウ君と親しげに念話していたあの人!


「アニエスさんですか!?」

「はい。正解です。ユウくんのことが好き過ぎて、未来から押しかけちゃいましたっ!」

「未来って……。それにあなたも?」

「ですね。アキハさん。つまりあなたとはライバルってことになりますね」


 でもまったく嫌みはなくて。

 これ見よがしにウインクするこの人は、どこまでも真っ直ぐで一途に見えました。

 そして間違いないです。赤毛のように燃え滾る大きな愛の心を秘めています。

 私にはわかります。恐ろしいライバルですねっ。


「では改めまして」


 佇まいを正した彼女は、元気はつらつと自己紹介してくれました。


「アニエス・オズバイン。偉大なるご先祖様の血と心を継ぎ、時空を操る天才魔法使いとはあたしのことですよ!」

「じ、時空ですとぉ!? ってことは、この不思議な現象も」

「ですです。パニックになったらいけないので、ちょこっと手を加えさせて頂きました」


 …………。


 わあ。わーー。

 す、すごいよおおおおーーーーーーーーー!

 めっちゃすごいですっ! やばやばのやばです!

 時間を止めるなんて、どこのD〇〇ですか!?

 しかもこんなに長くですよ! だってもう数分は経ってますよ!?

 あれって数秒だから許されるやつじゃないんですか!? 反則じゃないですか!

 わーお。これまたとんでもない仲間がいたものです。ユウ君、人材抱え過ぎでは……?


「アキハさん、わかりやすく目キラキラしてますね……?」

「あの子はああいう子なんです」


 失敬な。すごいものをすごいと言って何が悪いんですかっ!

 私だってさあ、時間を操れるならあんなことやこんなこと……えへへ。

 人の夢は……終わらねえっ!(ドン!)

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