12 現代異世界ダンジョン、攻略完了ですっ!(ダンジョンマスターは破滅しました)
ブラックドラゴンさんを倒し、開いた扉をくぐると、私たちはついに最深部へ辿り着きました。
また円形の部屋ですが、ボス部屋に比べると二回りは狭く、ただ一つの物体を除いては何もない殺風景なものでした。
中央には、真っ赤に怪しい光を放つ巨大な正八面体がギラギラとしています。
「ダンジョンコアってやつかしら」
物珍しいものですから、エリちゃんは興味から手を伸ばそうとしました。
ですが何かを思い出したように手を引っ込めます。
「不用意に触らない、だったわね」
「よくできました」
ユウ君が改めてレクチャーしてくれました。
ダンジョンコアにはしばしば魔力吸収器としての性質があり、エリちゃんのような魔法使いが迂闊に触れると深刻なマジックドレインを受けてしまう危険性があるとか。
最悪の場合、ダンジョンコア自体が生き物ということもあって、触れた者を容赦なく取り込んで食い物にしてしまうパターンもあるのだとか。
うわあ。怖いですね。なんまんだぶ。
なのでユウ君がしっかり自身に防護を施してから念入りに調べることになりました。
「うーん。特に危ない仕掛けはないみたいだけど……」
「大きなルビーみたいだね」
「ねえ。綺麗」
遠巻きに眺め、エリちゃんと二人して感想を述べるに留めておきます。アクセサリーにするにはちょっと大き過ぎますけどね。
それにしてもユウ君、また難しい顔してますね。何かを感じ取ってるような。
しばらくして、ユウ君は残念そうに首を振りました。
「上手くすれば新人訓練場として使えるかと思ったんだけどな。取り壊さなくちゃいけないか」
「あらそうなの?」
と言いつつ、エリちゃんの顔は「よかった。私のような犠牲者はもう出ないのね」って雰囲気バリバリなのをアキハさんは見逃しませんよ。ふふふ。
「ダンジョン化してるの、ここだけじゃないんだ。既に同じタイプのコアが世界各地に80個ほど根付いている。放っておくと異界化が進んでしまうからね」
「「異界化って?」」
仲良く声の揃った私たちに、ユウ君は優しく説明してくれました。
「要するにこのままにしておくとね、ダンジョンは成長し続けるし分裂したりもする。すると広がり続けたダンジョンは、地球全体を勝手に造り変えてしまうのさ」
深刻な土壌汚染から始まり、生態系の破壊、新たな病原菌なんかが発生したりするみたいです。
下手すると現代文明の基盤が破壊され、まったくの異世界のようになってしまうとか。
スケルトンキングさんやブラックドラゴンさんの素材が取引される地球……。まさに現代ダンジョンものそのものの世界ですね。
まったくそそられないでもないですが、やっぱり普通の地球がいいです。厳しい対処を望みます!
「ダンジョン異世界フォーミングってことか。それはぞっとしないわね……」
「ゴブリンさんたちには申し訳ないけど、壊しちゃわないとだね」
「できるの?」
エリちゃんの疑問に、ユウ君は頼もしく即答しました。
「脅かすようなこと言ったけど、早期発見してしまえばこっちのものだ」
彼の左手が真っ青な光を放ち、アレが握られていました。
毎度お馴染み、世界を斬る剣です。めちゃつよいやつ。
「げ。私を貫いたやつじゃないの」
エリちゃん、これに救ってもらったとは言えまだまだ苦手意識があるみたいですね。
まあ絵面がひどかったですもんね。しょうがないしょうがない。
さっと軽く振り上げ、静かに構えて。
ユウ君、私たちにも伝わるように説明口調で言ってくれました。
「今からこのコアと同質のコア、すべてに狙いをつけて同時に斬る。そしたらダンジョンは崩れ始めるだろうから俺の肩にすぐ掴まってね」
「了解」「わかったよー」
そして軽く素振りするような感じで青剣は振るわれ、見事ダンジョンコアは真ん中からすぱっと二つに斬れたのでした。
予告通り崩れ始めるダンジョンから、私たちは瞬間移動で脱出します。
無事外に出たら、辺りはすっかり夕方になっていました。
スマホの時計を確認したのですが、ぴったり夜の7時くらいです。今からのんびり帰れば門限には間に合いそうですね。
エリちゃんはどっと疲れたのか、長い長い溜息を吐いていました。
「こんなに一日が長く感じたことなかったわ。文字通りね」
「お疲れ様。また次回の訓練もよろしくね」
「私、結構強くなったと思うんだけど。まだまだあるわけよねー」
「もちろん。むしろ面白いのはこれからさ。そのうち小惑星くらいは撃ち落とせるようになってもらうからね」
むむ? なんか聞き捨てならないワードが聞こえましたね?
エリちゃんも目を丸くしてます。
「え゛。聞き間違いじゃなくって? それって恐竜とか滅びちゃったクラスのやつのこと言ってる……?」
「うんそう。まあ真面目にやってれば何年もしないうちにいけるよ。君ならね」
「てことは、あなたは余裕でできるわけね!?」
「そうだね。俺もできるし、うちで働く人たちの半分以上は。人知れず世界を守る戦士としての――まあ最低限かな」
最低限が高過ぎませんか。ユウさん。
「私、やっぱりとんでもないところに来てしまったわ……」
エリちゃんは頭を抱えつつ、でも「君ならいけるよ」との励ましやこの十日の成長ぶりを思ってか、さほど絶望はしていないようでした。
「大丈夫。これでも良い時代になったんだよ。昔はほんっとうに大変でさ。いくら修業したってすぐに限界が来て、簡単に強くはなれなかったものさ」
「ユウ君ってちょくちょく発言がジジ臭いよね」
「あはは」
あ、また誤魔化したねキミ。
とにかく、こうして私たちの『ハイキング』は楽しい一夏の思い出になったのでした。めでたしめでたし。
でも、あれ? ダンジョンコアって結局誰がどうやって仕掛けたんでしょう?
……ま、いっか。お母さん待ってるし。帰ろ♡
***
――遥か宇宙の彼方、どこか遠い世界。
あんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああ
あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば
(ᕦཫᕤ)
……
(ᕦཫᕤ)
「おおおいぃ! しっかりしろおおおおおおおおおお!」
「マスタああああああああぁぁあああぁああぁああ!」
「有り金全部ギャンブルで溶かしたみたいな顔してるぞーーーーーっ!」
史上最大最高と謡われ、かの世界をほぼ手中に収めたダンジョンマスター。クリェル。
彼女は何百万年もかけて溜めに溜めたDP(ダンジョンポイント)をすべて注ぎ込み、欲深くも地球という辺境の星に魔の手を伸ばした。
彼女にとって初の偉大なる宇宙進出、そして第二の故郷の創設のはずだった。
だが彼女は知らなかったのだ。あの星にはとてつもない化け物がいることを。
結果。彼女は地球に送り込んだすべてのダンジョンコア……のみならず、彼女自身の星に根付かせたあらゆるダンジョンコアまで、たった一つの例外を除き同時に砕かれてしまった。
彼女の本体たる原初のダンジョンコアだけは、慈悲を向けられたのか砕かれることはなかった。
ただしその表面には、確かに彼からのメッセージが――器用にも剣で直々に刻み付けられていた。
(ᕦཫᕤ)(ガクガクガク
『次はないからね』
「クリェルさまあああああーーーーーーー!」
「マスターがもらしたああああああああぁぁあああぁああぁああ!」
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