11 現代異世界ダンジョンで猛特訓ですっ!
「罠にはよく注意してね。油断してると――」
エリちゃん目掛けてヒュッと飛んできた何かを二本指で摘まみながら、ユウ君は言いました。
「こういうのが飛んでくるから」
わわ。よく見たら矢じゃないですか。毒もあるかもしれません。危ない危ない。
「ダンジョンって魔法少女業とは随分勝手が違うわね」
軽くひやひやしながら頷くエリちゃん。今までは基本戦ってればよかったわけですからね。
「じっくり慣れていけばいいさ。そのために色々メニューも考えてある」
「ユウくんさ、特訓バカって言われたことない?」
「心当たりは……あるかも」
戦う人は大変だねー、なんて呑気に考えていると、カチッ。
私も何か踏んじゃいました。
突然ぱっと開いた床。落ちそうになる私。
悲鳴を上げる前に、私はしっかりとユウ君に抱きかかえられていました。
しかもまたちゃっかりお姫様抱っこです。これだけはまだ慣れないなぁ。
「君のことは俺がよく見ておくから、勝手にふらふらだけはしないでね」
「はーい」
そっと下されたところで、エリちゃんはビシっと私を指さして突っ込み顔でした。
「あんたは数分おきに平然と罠踏まない!」
うっ。ごめんね。罠の巻き込まれ事故もくらってますし。
私ばかり助けられて、エリちゃんだけ水被ったりくらいはしましたもんね。
本当に危ないのはさっきの矢みたいにエリちゃんも助けてくれるんですけど、あくまで訓練だから自分で対処するようにって。
「しょうがないよ。アキハさんは体質なんで。罠の方が寄ってきてるとしか」
「ぐぬぬ……」
「誠にご迷惑をおかけします」
自分の意志で何とかできたらいいんですけど。どうにもならないみたいで。面目ないっす。
「アキハさんを守れる友達になることのハードルの高さ、わかってきたかな」
「段々とね……」
エリちゃん最初は文句たらたらでしたが、私のことを考えて特訓にも身が入ってきたようです。
ありがとね。私にできることは少ないですけど、今度お弁当作ってあげましょう。
***
さすがユウ君とエリちゃん(私は添えるだけ)。
罠以外は特に苦戦する要素もなく、10階層までは一気に進みました。
ゴブリンやオーク、スケルトン、おおこうもりさん?(名前知りません)なんかをバッタバッタとなぎ倒すエリちゃん。かっこよかったですねっ。
そして今私たちの目の前には、でーんと構える石造りの扉があります。身長の倍くらいはあります。大きいです。
「雰囲気出てきたわね。いよいよボスのお出ましかしら」
「入ったら閉じ込められるかもしれない。三人同時で行くよ」
「おー」
意気揚々と入っていきます。
半径数十メートルはあろうかという巨大な円形の部屋のど真ん中に、ボスさんがいました。
人型で骨の敵ですね。これまでもたくさん見てきましたが。ぼろっちいですが飾り付けは豪勢なローブを羽織っています。
いかにも王様っぽいです。名付けるならスケルトンキングってところでしょうか。
宝飾でキラキラの大剣を掲げると、スケルトンやスケルトンの魔法使い、騎士さんたちがわんさか召喚されて、王様を取り囲むように出てきました。
ひ、ふ、み……数え切れません。数十くらいは間違いなくいますねっ。
エリちゃん、さすがに冷や汗をかいて言いました。
「待った! いきなりクソ多いんですけど! あれってパーティー組んで戦うやつだよね? ね?」
さすがにユウ君に手伝ってもらえるだろうと訴えかける目で見ていますが、彼はのほほんと笑うばかりです。
「ちょうどいい。多対一の訓練もしようと思っていたところだ。君一人でどこまでやれるかいってみよう」
「ちょっ、おま……!」
恨みがましい目に変じていきますが、ユウ君は動きません。
やがて観念したようでした。
「あーもうわかったわよ! 行けばいいんでしょう行けば!」
エリちゃんの爆裂魔法が炸裂し、ボス戦が始まりました。
***
そして現在。
「くそったれええええぇぇぇぇ~~~~~!」
わぁ。女の子が出しちゃいけない声を出してます。魔法少女のキラキラ感、もうどこにもありません。
でも仕方ないですよねえ……。
なんとエリちゃん。今はスケルトンキング100戦目に突入しています。100戦目ですよ! 言い間違いじゃありません。
実はあれからどうにか単独でスケルトンキングを倒したエリちゃん。「大変だったわ」と言いつつ、まだ少し余裕がありそうでした。
それからボス部屋の性質を調べ始めたユウ君。しばらく待っても敵は一切出ず、休憩場所として使えそうだと嬉しそうに言ってました。私たちとしても安全に休めるのは助かりますね。
ついでにリスポーンの確認もしたいと、一度部屋を出てから入ってみると……なんとあらあら新品同様大復活です。
これを見たユウ君がとても、とっても悪い笑顔になっていました。
彼が手を振りかざすと、何やら怪しいエフェクトがスケルトンキングwith手下さんたちにかかりまして。何したんですかね?
そして一言。
「よし。エリカさん。もう一戦いってみよう」
「は?」
目を疑うような発言にぎょっとしたエリちゃんに、ユウ君は軽く指摘します。
「君は何度か、ステータス差をいいことに力任せで範囲魔法を使っていたよね」
「そりゃ使ったけど。でもあれだけいたら普通のことじゃない?」
「アレは当面禁止だ。訓練にならないからね。ちゃんと一体ずつ攻撃を見極め、各個撃破していくように」
「……マジで言ってんの?」
「うん。マジ」
うわーお。中々の鬼師匠ぶりですねっ。
何言ってんだこいつとしばし呆れていたエリちゃんですが、訓練モードになるとなぜかてこでも動かないユウ君を理解してきたのか、やっぱり観念して戦い始めました。
元々ブラック魔法少女業界にいたからなのか、最後は素直に従ってしまう社畜適正があるみたいです。おいたわしいです。
そうしてしばらく戦っていたエリちゃん、様子がおかしいことに気付き始めます。明らかに敵の耐久が上がっていたからです。
「待って! こいつらさっきより動き良くない? あんた何したのよ!」
やや泣き顔で突っ込むエリちゃんに、バレたかって顔をしてユウ君が答えました。
「ちょっと強化をね」
「なんで敵に塩送ってんのよぉぉ!」
「へえ。あの光はそうだったんだ。ちなみにどのくらい強くしたの?」
「ざっと5割くらいかな」
「鬼かあんたぁっ!」
怒涛の猛突っ込みエリちゃんに、ユウ君は絶望を添えました。
「そうそう。これで終わりじゃないから。一回倒すごとに少しずつ強くしていくんで。ここからが本当の修行だよ」
「ふざけんなあああっ!」
そして100戦。
スケルトンキングLV100がお相手です。
パワーもスピードも元の十倍増しになったボスさんに、エリちゃんは死に物狂いでくらいついています。
「しっかり敵の動きを見て。行動や意識の隙間を狙うんだ」
「うぁーーーー! この鬼悪魔ぁ! スパルタ野郎! うっかり死んだら一生恨んでやる~~!」
だなんて、ひいひい言いながら必死に対処しています。
最初のうちはなんだかんだエリちゃんの方が余裕ありましたけど、途中から明らかに向こうが格上になってきてますもんね。
でもユウ君、ただ厳しいだけじゃないところがニクいんです。
時々エリちゃんが怪我したかと思えばすぐ回復を飛ばし、致命傷になりそうな攻撃からだけはしっかり守ってあげています。
体力が尽きたら即座に回復、からの容赦ない送り出し。
「ずるい……!」
精神は疲れてるのに体力は全快。修業は続行。
エリちゃん、思いっきりしくしくしてましたね。
だから確かに危ない目には遭ってないんですけども。なんという無間地獄ですか。先生ドン引きです。
ただ。敵さんも十倍増しなんですが、エリちゃんも明らかに最初より動きがよくなってます。
今なんか騎士の振り下ろす剣をパリィしてました。いつの間にか身につけたんですね。すごい!
ついに火炎魔法がスケルトンキングの頭蓋を100度砕き、エリちゃんが大の字に倒れ伏したところでユウ君は手を叩きました。
「今日はここまで。お疲れ様。よく頑張ったね」
「ぜえ……ぜえ……やっと……終わった……」
エリちゃん、ヒロインがしちゃいけない壮絶な顔でくたばっています。
「あとはゆっくり休んでて。俺の方でキャンプを組むから」
「あ。私も手伝うよ」
私見てただけでしたからね。せめてお泊りの手伝いは腕を振るわなくっちゃですね。
よーし。ここは気合入れて。
「ここをキャンプ地とする!」
「「…………」」
きょとんとした目で私を見る二人。心なしか生暖かい目になってませんか。
あれですよ。一回言ってみたかったんですよ。あははは。
「力仕事はいいから」
と任せろ発言をし、何もないところから大量の木材を取り出したユウ君。どうやってるか知らないけど便利だね。
どうやら家を造るつもりらしいです。あれよあれよと土台が組まれていきます。
やべー。キャンプってレベルじゃねえ。私の想像してたの、このくらいのかわいいテント張るやつなんですけど(指でテントの形を作る)。
まるで早送りのように小屋が建っていきます。ユウ君、大工仕事早過ぎませんかね。何でもできちゃう系男子ですか。
「できたよー」
ものの数分で終わったみたいで、ニコニコ顔で手招きしてきます。
中を見てさらにびっくり。トイレキッチンベッド付のハウスが完璧に出来上がっていました。
「ねえ。これは何力が高いって言えばいいのかしら」
「さあ」
エリちゃんと目を見合わせ、呆れるしかない私たちでした。
寝る場所ができたので、今度は夕食作りです。エリちゃんは引き続きお休みで。
行動食や軽食はお昼に取ってたんですけど、温かい食事はダンジョンでは初めてなので楽しみなんですよね。えへへ。
あ、料理の方はばっちりお手伝いしましたよ。私もそこそこ手作りはしますからね。お疲れ様の労いと愛情を込めて。
ちなみにユウ君、ここでもプロ顔負けの包丁捌きでした。
ちょくちょく交換してるお弁当のおかずがどれも美味しいから何となく想像付いてましたけど! さすがです。もはやできないことあるんでしょうかってレベルです。
「うんま~♡」
修行で疲れ切った体に愛情たっぷりの料理が沁みるのか、エリちゃんは一口ぱくってするたびに頬が落ちそうになってます。
「よかった。食事の質は士気にも関わるからね」
「マジでそれ。これのために生きてるわぁ~」
そんな彼女を眺めつつ、ユウ君も幸せそうにおかずを頬張ってます。
エリちゃんもユウ君も、みんな美味しそうに食べるから見ててほっこりするんですよねえ。
ところで私はどういう風に見えてるんですかね。ま、いっか。うまうま。
夜はUNOで遊びました。結局持ってきちゃったけど、楽しかったから正解でしたね。
で、結果はというと。なんと私が成績一番でした! やったぜ!
エリちゃんが意外と弱くてぶっちぎりの最下位。ユウ君も健闘しましたが、惜しくも2位。
てっきりユウ君が一番かと思ったんですが、心を読むのは反則なんで封印してたみたいです。フェアプレーの精神ですね。よしよし。
あっという間に消灯の時間になりました。
ユウ君だけ一人部屋に行き、エリちゃんとお喋りしながら寝ました。この三人でお泊りは初めてだったので、修学旅行みたいで楽しかったですね。
***
そんなこんなで、体感十日(現実には半日)はあっという間でした。
もうね。ユウ君悪魔の特訓メニューの数々を見せつけられましたよ。
あるときは気配を感じる訓練だと言って、目隠しした状態で敵と戦わされたり。
あるときは毒物耐久を上げるためだと、延々毒罠に飛び込まされたり。
水中で耐久させたり。火であぶったり。
ユウ君が直接組手の相手をして、甘い動きをするたびに寸止めを食らわせて心をバキバキにしたり。
いやあ。エリちゃん、ぶつくさ文句言いながらもよく食らいついてましたね。よく耐えましたね。
「くっ。実力はメキメキ付いてるの何となくわかるのが悔しい……! 今までの鍛錬って何だったのかしら」
「いやあ。若くて才能あるってのはいいね。水を得た魚のごとしだ。エリカさんは間違いなく良い戦士になるよ」
根性あるエリちゃんの姿に、育て甲斐のあるユウ君も嬉しそうでした。
「若くってって。あんたも同い年じゃないの」
「あはは」
また下手な笑いで誤魔化すユウ君。ほんとはすごい年齢だったりするんですかね?
***
そして、ついに最深部が。
てか、このダンジョンって100Fまでだったんですね。1日10Fペースで進んで修行までこなしてた私たち、やばいですね。
いつものボス部屋の三倍増しくらいに立派な扉を前に、私も二人もとうとう来たかって顔をしてます。
「で、今回の条件は何かしら」
もうすっかりスパルタに慣れたエリちゃんは、ユウ君に耳打ちしています。
「ぼちぼち現実時間もいいところだからね。ハンデなし、再戦もなしで。全力でやっちゃっていいよ」
「いよっしゃああああ!」
よほどこれまでのしごきが辛かったんでしょう。エリちゃん、飛び跳ねるほど喜んでます。
「最後なのにいいの?」
「最後だからだよ。自分の成長を実感するのも大事だし、自信に繋がるからね」
ふむふむ。なるほど。そういうものですか。
さて。いよいよボスとご対面。
出てきたのは巨大な黒い龍でした。ブラックドラゴンさんでしょうか。安直ですかね。でもそうとしか呼べません。
見るからにこれまでのどのボスよりも強大で、私たちを認めるなりその赤い双眸をキッと細めました。
そして、開始の合図なんかありません。いきなり口から強烈な火の玉を吐いてきました!
私をさっと庇い立つユウ君。
エリちゃんはというと、避けずに堂々と前へ飛び出しました。
「こんなもの! 火だるま地獄の修行に比べれば!」
誰かさんを一瞬睨み、万感のこもった想いで叫ぶと、魔力を溜めた腕が光ります。
エリちゃんに猛火が迫り――。
バチィ! と光ったと思うと。
なんとびっくりです。エリちゃんは直接あの火球を殴り飛ばしてしまいました!
あらぬ方向へ弾かれた火の玉は、ボス部屋の壁にぶつかって轟音を響かせます。
「さすが。呑み込みが早いな」
ユウ君、満足顔です。ちゃっかりあんな防御技仕込んでたんですか。
そして彼女はふわりと宙へ飛び上がり――これもユウ君が教え込んだ自力のみでの飛行魔法でした。
一転、ブラックドラゴンを見下ろす形になったエリちゃんは、手を突き出して宣言します。
「これでも食らいなさい。挨拶代わりの一発よ!」
意趣返しとばかり、炎の真逆である氷結魔法を一発お見舞い。
ドカーン! バラバラバラ……。
「「えっ!?」」
私とエリちゃんの驚き声がハモりました。
ほんとこの表現が似合うくらい、それくらいあっさりでした。
なんと。なんとですよ。
スケルトンキングよりずっと強いはずのブラックドラゴンは……あの一発だけで沈んでしまいました!
やば。エリちゃん鬼強くなってませんか。
恐るべきブートキャンプの成果に、心なしかユウ君も誇らしげです。後方師匠面でうんうん頷いてます。実際師匠なんですけど。
まさかエリちゃんも、これほどあっけなく終わると思ってなかったみたいです。
「マジ……? もう終わり……?」
自らの掌を呆然と見つめる彼女に、ユウ君は近寄って優しく肩を叩きました。
「あの龍は十日前の君より何倍も強かった。それを君は一発で倒したんだよ。おめでとう」
「……っ! こんのクソボス……! 死ぬほど大変だったんだからね!」
ポカポカじゃれ合うようにユウ君を叩くエリちゃんを、私は微笑ましい目で見つめていたのでした。
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